アルファベットの女子との話
中学生の頃、僕たちはよく放課後に集まっていた。
何か目的があって集まっているわけではないのだが、みんなが帰った教室は男子数人が集まって他愛もない話をするのにちょうどよかった。
その日も友達と3人で集まり、『アルファベットの女子の中で誰がタイプか』を話していた。
「やっぱり見た目が大事だよな。」
安藤はそういってクラスの集合写真を出した。
そこには男子18名、女子18名が並んでいる。
「俺はやっぱり『S』かなー。あの体のラインっていうの?何か色気あるよな。」
「わかるわかる!セクシー!」
安藤と鈴木が『S』で盛り上がっている。
「個人的に『B』と『D』はタイプじゃないな。あくまで個人的に。」
「言いたいことは分かるぞ。ぽっちゃり系は守備範囲じゃないし、それに濁音だからな。」
「その点、委員長の『A』はスラッとしたモデル体型だよな。しかもああ見えて」
「「「ボイン!」」」
みな口を揃えた。
そのときである。
教室の扉がガラガラと開いた。
そこには『A』たちアルファベットの女子がいた。
「ちょっと男子たちー!いま何かセクシーだとか変な話してなかったー?」
僕たちはどこまで聞かれていたのかと慌てた。
「し、してねーよ!」
鈴木が強がって言い返すと、彼女たちはアンタに用はないとばかりに無視した。
「そんなことより丁度よかった。」
『A』は安藤の前に行くと「ちょっと話したいことがあるから来て。」と安藤を連れ出した。
まさかの事態に困惑する僕と鈴木。
当の安藤はそれ以上に困惑していた。
しかし教室を出ていくときには既に困惑は消え去り、選ばれし者の優越感に浸っていた。
そして僕らに目配せした。
その目は確実に「お前らとはこれからも友達だぜ。」と言っていた。
僕たちは「おいおい嘘だろ!?」と内心叫んでいたが、虚勢を張って「んじゃな、先帰ってるわ。」と言うことしかできなかった。
次の日、安藤は『B』と付き合うことになっていた。
「『B』って包容力ありそうだよな!」
「『B』っておっぱいも大きいじゃん!」
安藤の目を見た。
虚空を見ていた。
その目は確実に「こんなはずでは……」と言っていた。
と、そこへ『B』がやってきて、安藤に腕組みするとそのまま去っていった。
「安藤と呼ぶのはもうやめよう。これからは坂東だ。」などと話していたのを覚えている。
どこでどうなったのか分からないが、アルファベットの女子の団結力は恐ろしいのだと、このとき初めて知った。
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