第14話 天啓(てんけい)
ハーネル枢機卿、そして革命政府総統ヴァンは、それぞれ法王庁の一室にて精進潔斎ののち、列聖の儀式の最上、召喚の儀式を待つ身の上なのであった。
そのはじまりの時刻は正午。日暮れまでに聖女ランジュを〈夢告げ〉通りに召喚し、首検分のあらためを通して認められた方が次期法王となる。
法王となる条件は、誰にも明らかな列聖の力。
ハーネル枢機卿は、地上が魔獣人に支配された今、人間に残された列聖の力と聖性、聖者たちの力を何としても守らねばならないと考えている。
また、魔獣人に蹂躙された
十分に魔獣人たちに踏みにじられ、人間の在りようと魂が危ぶまれている今だからこそ、聖女の力を賜ることが許されたのだ。〈夢告げ〉はそのしるし。そうとしか思えない。
〈列聖〉の力は、亡き聖者たちの魂を聖別し、聖霊とするもの。そののちは衆生の信仰と祈りが聖者たちをますます高めてゆく。
ところでこれからそこに加えられる〈召喚〉はどのようなものか。召喚者は聖霊の力をさらに〈聖別〉し、さらなる上位の〈列聖〉をする。
そうなれば法王庁は召喚した聖者の持つ力を頼むことができるようになる。此度は〈夢告げ〉がそれにあたるが、そうした神による許しのしるしなくしてこの儀式が成り立たないのはそのためである。
(いよいよ魔獣人どもに対抗できる)
総統ヴァンが使役する
そう。安らかに眠るべき死人をも我欲のために道具とし侮辱するような者に、法王庁をも奪われるわけにはいかない。
〈夢告げ〉があったその時、神は我らをお見捨てにはならなかった、と心が喜びに包まれたものだ。神は人間にこの力を残して下さった。すなわちこのつたなき祈り手、ハーネル枢機卿の、聖者と衆生をつなぐ、列聖の力だと。
だがそれは、つかの間のことだった。
案の定革命政府が手を回してきた。大胆にも、魔獣人の身でありながら同じ〈夢告げ〉を得たと申すのである。
(忌むべき者どもよ)
何としても、人間からすべてを奪うつもりらしい。
つまらぬ細工で、死人を聖女に仕立て上げるのであろう、というのは、最初からささやかれていたことだ。
ところが図々しくも、彼らは公には死人を遣うことを認めていない。また、神への追従すら口にする。祈る言葉も持たぬ魔獣人が。
そして、総統ヴァンは涼しい顔でこう述べたのだ。
「あなたがた人間がこの世にあるように、我ら魔獣人もこの世にある。
この紛れもないありさまこそ、神の思し召しなのでしょう。
我ら魔獣人もまた、神に仕えるものとなり得るのです」
それは、許しがたい暴言であった。
しかし今、ハーネル枢機卿は、そのような私心を奥底に鎮めた。
この世にいる誰よりも、自分は本日、神に選ばれなければならない。
深く深く。
儀式のそのときまで、瞑想に入るのであった。
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