前世でヒーローだったの思い出して裏で活動してた。そして、身バレした。

未来

第1話 女主人公の名前は「〇〇」

 魔法世界に正義の味方はいない。


 剣と魔法の世界には権力に腐敗した人間と一部の暴力的な魔族が存在する。


 比較的安全である某王国のただの平民娘の私は前世では世界征服を狙う悪の組織と戦うヒーローの一人だった。


 全身鎧の科学万能スーツを着込み傷ついた人に薬を渡し、荒れた台地に生命を与えたりもしていた。


 悪の組織の用意した最終兵器から仲間を守るために相打ちになって、仲間たちの前で意識が消えたのは覚えていた。急に記憶が蘇って始めは戸惑ったけど、同時に前世で使っていた能力が使え一人で魔物を倒すことができた。


「フレイムナックル!!」


 火属性の魔力を帯びた拳を巨大なトカゲの魔物に叩きつけた。私の拳に触れた巨大トカゲは全身を燃やし炭になっていく。


「フレイムウォール!!」


 魔物の大群と魔物討伐に出向いている王国の兵士や騎士たちの間に巨大な炎の壁を作る。


 さっきから兵や騎士たちが私を援護しようとしていたけど、彼らを守りながら戦うのは面倒なため分断させてもらった。


 炎の壁の向こうからは「早くあの方を助太刀しなければ」など声が聞こえた。


 マジで邪魔だから来ないでほしい。


「はぁ~もう、ただ学校の宿題で薬草とりに来ただけなのに…」


 目当ての薬草を採取して帰ろうとした時、森の隣の荒野で魔物とその討伐隊のバトルに巻き込まれた。前世からのトラブル体質は消えていないのかとため息が出てしまう。


 幸い、今の私は前世で変身していた全身鎧の装備のおかげで誰にも正体は知られていない。


 目の前にいる魔物の群れに向け手をかざす。


「剣で切っていくのは面倒だから…これで、いっきに薙ぎ払う!!」


 右手に巨大な鉄の砲台が出現する。太陽の光を吸収し照準を魔物の群れに合わせた。太陽光のエネルギー充電が充電されていき砲台の口に光が貯まっていく。


「シャァァァ!!」


 魔物たちも自分たちに向けられているのがヤバいと感じたのか、私に襲いかかってきた。


「このぉ!! おとなしくしてろぉ!!」


 左手で小型の光銃を引き抜き近づいてきた魔物を打ち抜く。小さいが火よりもはるかに高温の光がゴブリンの頭部を貫き、オークの分厚い体に風穴を開いた。


 同族が謎の光で倒されたのを見て驚いてくれたのか襲撃が止まり、太陽光の充電が半分完了した。


「エネルギー充填50%、…それじゃ!! いっけぇぇぇ!!」


 右手の引き金を引き砲台から太い光が放たれ、魔物の群れは骨の欠片も残らずに消滅した。


「うぉぉ!! やばい、やばい!! 」


 魔物の群れだけでなく荒野の地面や岩石も跡形もなく消していき、荒野の先の森まで見えてしまった。慌てて右腕の砲台の引き金を離し光が消滅した時には森の一部が不自然な形で消滅していた。


「いけない、いけない…やりすぎると、私もお尋ね者になりかねかいらねぇ…」


 以前、国の重鎮たちを誘拐した犯罪組織と対峙した時に奴らが出した合成魔獣の事を思い出す。どんなに攻撃してもすぐに再生してしまう合成魔獣に向け100%で撃ったら魔獣どころか島一つ滅してしまった。


 重鎮たちは幸い先に脱出してくれたから被害は犯罪組織の奴らだけで済んだ。

 ただ、あの時助けた姫様の目が怖かった…


「おっと、とっとと撤収するか」


 背後にある炎の壁を消し、背中に機械の翼を装備してその場から急いで立ち去った。


 下からは「ありがとう!!」「まってくれ、あなたの名前は!?」と声が上がるが無視して飛ぶ。


「はぁ、面倒な戦に巻き込まれちゃったけど…まぁ、無駄な犠牲を出さずに済んだからこれでいいか」


 兵士や騎士たちに何かあればその家族や友人が悲しむ。それに国も彼らに保障など与えなければならないため犠牲がなければ無駄な費用も抑えられる。


 前世で散々戦ってきたのに、転生後もまた誰かのために戦ってしまっている。

 職業病か、それとも闘い好きなのか…正直、自分でもわからない。


「さて、課題も終わらせたし。ずっと戦ってばかりだから、ゆっくりしようかな~~」


 この時、私は考え事に集中していたせいで気づいていなかった。

 課題である薬草を入れたポーチを落としていることに気づいたのは、夜中に自分の学園の寮に帰った時だった。




 数日後


「あ~あのポーチどこで落としたっけ? ん?」


 薬草を入れたポーチをどこに落としたのか必死に記憶を呼び起こしていると、誰かが部屋の扉をノックした。


「あの、先輩…今、大丈夫ですか?」


 扉の向こうから聞こえたのは後輩のアリスちゃんだ。貴族の子で去年、学園の入学式で迷子になっていたアリスちゃんを道案内してあげた。この時から私の部屋にきて勉強を教えたり他の子もつれてきて話とかして仲がいい。


 ポーチと薬草のことが気になるがつい、いつもの癖で入室を許可してしまった。


「あの、先輩。ご相談したいことが…」


 長い金髪に碧眼で人形のように整った容姿のアリスちゃん。


 なぜか今日は様子がおかしい。いつもなら笑顔でいろいろ話してくれるのに。


「あの、先輩…最近、荒野に行ってませんか?」


「え? いや…」


「その、実は…」


 荒野と聞いて、この間魔物の群れを消滅させ記憶がよみがえる。嫌な予感がする。

 何か言いにくそうにもじもじし始めるアリスちゃん。一度、深呼吸し何か覚悟を決め告げる。


「先輩が、鎧の英雄様なのですか!?」


 鎧の英雄。前世で私が身にまとっていた機械スーツのことだ。

 周囲の物質や大気を分析、吸収しあらゆる武具や道具を作成してくれる万能機能が搭載されている。


 嫌な予感的中。もしや身バレした?


 けれど、アリスちゃんは断定ではなく疑問で聞いてきた。まだ、ごまかせる。


「ど、どうしたのアリスちゃん? 鎧の英雄って今、噂になってる人助けしてくれるアレでしょ? 私が、英雄だなんて、一体誰がそんな嘘を…」


 自分は違うと言いつつアリスちゃんに情報元の探りを入れる。彼女は貴族の子女だ。

 ちゃんとした教育を受けてるし誰がか冗談で流したような噂を真に受ける程、馬鹿じゃない。


 単純に私がよく学園の外に出てるからそう噂が流れただけなのか? 


「えと、皆です…」


「皆って? どの皆?」


「学園の者と貴族の者は既に知っています。もちろん、王族も」


 アリスちゃんの背後に紫の長い髪の女子生徒がゆっくりと入ってきた。胸に王家の紋章のブローチを付け、彼女の周りにいつの間にかメイドが静かに待機していた。


「始めまして、〇〇さん…わたくしの事はご存じですわね?」


「フィオネ姫…」


 アリスちゃんがフィオネ殿下に向け膝をつき私も倣って膝をついた。王族相手の礼儀作法なんて授業になかったから大丈夫か…じゃなくて、なんで姫様がここにいるの?


「突然の来訪、申し訳ございません。私と配下の者の命を救って頂いた方へ少しでも早くお礼を言いたく参りました。」


 どうぞ、顔をお上げくださいと告げるフィオネ姫。

 

 いや、もう私詰んでるんですけど。


 顔を伏せたまま緑色のクリアグラスを装着し周囲を見ると、既に包囲されていた。


 部屋の外には重装備した騎士が待機しているし建物の屋根にも逃亡防止か、騎士が配置されてる。クリアグラスには建物の壁を透視でき音も聞こえる。


「まさか、あんな女の子が噂の英雄だったなんて」


「御礼言いたいんだけど、姫様と騎士様たちがいるからなぁ…」


 はい、もう詰みですね。


 前世でも身バレしないように注意されてきたのに。あぁ、そういえば仲間たちからも

「お前は詰が甘いから気をつけろ」って何度も言われてたなぁ…


「あの、聞いてらっしゃいます?」


 あぁ、現実逃避してて目の前の姫様の事、忘れてた。

 クリアグラスを消しゆっくりと顔を上げる。


 紫の髪と同じ大きな瞳を持ち慈愛の笑みを浮かべるフィオネ姫。

 学園の者はフィオネ姫を王族だからと気負いせず、気軽に話していた。

 いつも笑みを浮かべ聖女とまで言われているこの姫様だが、私は知っている。


(この姫様、とんでもなく腹黒だもん!! 前世にいた腹黒の子よりもはるかに闇だから!!)


 以前、フィオネ姫と重鎮たちを助けた際の事。


 何度も再生する魔獣を消滅させた後、安否確認で近づいた時私の耳元で


「私の配下になりませんこと? 王族の力があればこれからのあなたの役に立てますわよ?」


 他の人に見えない角度で私にだけ邪悪な笑みを見せたフィオネ姫の忘れはしない。


 あの瞳には

「こいつがいれば邪魔者の始末が簡単になる」

「切り札に持っていれば必ず国の繁栄につながる」


 権力者特有の利益、打算、などの欲望に満ちた顔を見てそのまま飛び去って逃げたのを私は覚えている。


 とにかく、この私は皆から好かれていますわよ? の笑みの仮面を被った邪姫から逃げなければ、マジで何されるかわかんない。


「あの、フィオネ様…何か勘違いされておりませんか? その、私が噂の英雄だなんて、変な噂ですよ…」


「そうですか? では、噂が本当か確かめましょうか」


 首をかしげて不思議そうな姿勢だが私は気づいた。


 アリスちゃんやメイドたちからは死角で見えないが、私は見えた。


 またあの邪悪な笑みを浮かべ「ほぉ、無駄な足掻きをするのか?」と。





 某国の城、謁見場


 邪姫…じゃなかった、フィオネ姫のメイドに連れられ謁見の間に連行されました。


 周りには豪華な服を着た貴族がいた。中には見覚えのある顔が、これまで変身して助けてきた人たちもおり「あの子だ」「私、牢屋であの子を見たことある」と声があがる。


 謁見の間の奥の椅子にはこの国の王である壮年の男性と、フィオネ姫が座っていた。


「それでは、○○さんが、噂の英雄かどうか。証明いたしましょう」


 フィオネ姫が告げ何かが始まった。


 膝を付いて頭を下げてる私の脳内には某、裁判ゲームのBGMが流れるが私を守る弁護人はいない。


「まず、彼女が噂の鎧の英雄である証拠をここに」


 フィオナ姫の声に兵士たちが丁寧に装飾をされたお盆持ってきた。お盆には見覚えがある物が置かれていた。


 ・魔物に襲われた人々の傷を癒すために使用したポーションの空き瓶。


 ポーションの空き瓶は学生に支給されている物だが、中身は負傷者の失った腕や足を生やしたポーションを超えた物だった。

 空き瓶の臭いと捜索用に訓練された犬を使い、匂いは合致した。


 ・盗賊団に囚われていた者の証言

 自分達と同じく捕まっていた少女が突如光を放ち、次の瞬間には盗賊たちは気絶していた。鎧のその人物は盗賊を討伐し、自分達の居場所を知らせる狼煙を上げてどこかに去っていた。

 

 ・薬草入りにポーチ

 先日、魔物の群れの侵攻の際に英雄が去った後に落ちていた物だった。

 ポーチは学園で支給される物で、薬草採取の課題を出しているのは○○のクラスのみだった。

 

 ポーチを無くし課題を提出できなかったのは一人だけ、○○だけだった。


 次々と上がる証言に回りの人間の声が大きくなっていき、私は心の中で叫んだ。


(証拠残しすぎたぁ!!)


 私の心の叫びなど当然無視され証拠の提示が続く。


 他国に侵入して腐敗した政治者を懲らしめ、苦しんでいる人々の傷を癒したこと。

 不作に困る人々の前で枯渇した大地を蘇らせた奇跡など。


 何かある度に僅かだか証拠を残して暴かれていき、私の顔は真っ赤だった。


(やめでぇえ!! これ以上はもう、私の心が燃え尽きちゃぅ!!)


 自分のうかつさを多くの人に暴露されて、床を焼き切って穴作って逃げたい。


 ここは謁見の間なのに、私の公開処刑場になってしまった。


 前世での仲間達の忠告を忘れて猛進していた自分を呪っても遅い。

 多くの証拠を前に貴族達も「本物の救世主様か」と信じ始めている。

 貴族達に交じりアリスちゃんの姿があるも、どうしたらいいのかオロオロしている。


 アリスちゃん、気持ちわかるよ。けど、一番オロオロしたいのは私だよ…


 「で、これらの証拠により。○○が件の英雄と噂が流れたのだが…」


 髭を生やし落ち着いた初老の王様が私を見る。


 ここで「いえ、私は違います」と言って信じてくれるかな? …いや、無理か。


 あの王様、立派に見えてすげぇぇ娘に甘いんだよ。


 家臣と一緒にフィオネ姫も誘拐された時は「戦争だ!! 我が娘に手を出した外道どもを地獄におとせぇぇ!!」と乱心してたのを遠くの方から透視してたから分かるよ。


 しかも、王様に嘘ついたらそれだけでも罪だからねぇ…あぁ、フィオネ姫の顔がすげぇドヤ顔で正直、叩きたい。もちろん女の子だから軽めに。


 観念して立ち上がる。


「ふぅ…陛下。フィオネ様のおっしゃるとうりに」


 できれば異世界では平穏に暮らしたかったのにぁ、と思いつつ一度、目を閉じ変身とつぶやく。


「私が噂の英雄です」


 光が生まれ次の瞬間、私は機械の鎧に包まれた。


「あ、あれが英雄かぁ…」


「なんと素晴らしいお姿なんでしょうか…」


 私の装備を見て貴族たちが驚いている。だけど、一部の者は何か敵意の物を感じる。

 あれか、私がいろいろ動いたせいで損失被った連中か、犯罪関係で。 


 この場にいる者達が皆、驚いている中。クリアグラスがある音声を拾った。いや、拾ってしまった。


「ふふっっっ…私の素敵な騎士、これで邪魔な兄たちを排斥できるわ」


 傍にいた王様や側近たちが聞こえない程度のつぶやき。


 身バレして逃げ場を失った私は、マジで腹にブラックホールを抱えた姫の騎士(駒)になる日々が始まるのであった。

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前世でヒーローだったの思い出して裏で活動してた。そして、身バレした。 未来 @kakiyomi40

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