第21話 デートの約束は唐突に
美術部に立ち寄ったシノブと有瀬は、オカルト部に立ち寄らずそのまま帰路に着いていた。理由は単純に有瀬がデッサンのモデルをしていたので下校時刻になってしまったからだ。
困ったことに有瀬と二人で帰るころになってしまった。自分には見えない有瀬と共に帰ることへの不安もある。だがそれ以上に困ったことがあった。
「うまかったねー! 長濱先輩の絵」
「え!? あぁ、うん。そうだね!?」
「うわ、びっくりした。シノブくん、どうしたの素っ頓狂な声出して」
「い、いや!? なんでも!?」
「いやいや。いつもより声大きいし」
有瀬が訝しみ、シノブは声がする方向から顔を逸らす。シノブは有瀬とうまく話せずにいた。原因は美術部で長濱に描いてもらった有瀬の似顔絵。その姿はシノブの好みドンピシャだったのだ。
はっきり言って、シノブは照れている。これまでシノブは誰かに恋愛感情を抱いたことはない。
仲がいい、容姿がいい、声がいい。シノブの周りにあったそれらは全て個別のものだった。それがどうだ。シノブは初恋をしてその全てが揃った。これで惚れないほうが難しい。
だがこのまま変だと思われるのはシノブとしても心外だ。どうにか話題を絞り出す。
「ど、どう最近? 学校は楽しい?」
「何その質問? いつも一緒でしょ?」
「あ、あー。それはそう、だな」
……なんか娘の近況を気にする父親みたいになってしまった。
違う。こうじゃないだろ。いつもならもっとこう、うまいこと言えるはずなのに。
シノブが苦悩していると気を使ってか、有瀬は話に乗ってくれた。
「楽しいよ、ちゃんと。シノブくんのおかげで」
「……なんかしたっけ?」
「あはは。確かに何かしてもらったことはあんまりないかも?」
うぐ、とシノブはうめき声を漏らす。確かにシノブは有瀬から意図して距離を置いていたところがある。有瀬から好意は感じるが、それはシノブの失言のせいであってその好意を利用してはいけないと思っていたからだ。
でもだからこそシノブは今抱えている恋心をどうするべきか悩んでいる。シノブはじゃあ、と口を開く。
「僕にできることなら何かやろうか?」
「ほんと!?」
何の気なしのシノブの提案だったのだが、有瀬の食いつきは異常だった。
鼻息は荒く、姿は見えないのに眼力を感じるほどに。さらにぐいぐいと押してくる。
「何でもするって言った!?」
「言ってない言ってない……できる範囲で、な?」
「えー? どうしよ!? 悩む―!」
声を弾ませる有瀬は可愛らしいのだが、背中に冷や汗が伝うのは何故だろうかとシノブは顔を引きつらせた。まるで猛禽類に狙わられた子ウサギの気分だ。
じっくりと悩んだ後で有瀬は要望を告げた。
「じゃ、じゃあ水族館! 水族館連れてって!」
「水族館?」
「そう! ……水族館、嫌い?」
「いや好きだけど」
「じゃあ決まり! 今週の土日のどっちかにしようね!」
ふふと笑い声を漏らす有瀬に、シノブは首を傾げる。そんなに水族館が好きなのか。シノブも水族館は好きだ。説明欄に書かれているのにまるで見つからないカニやら魚を探すと時間を忘れてしまう。
有瀬は水族館のどこが好きなのかと質問しようとする前に、有瀬の発言が脳内でもう一度再生される。
水族館連れてって。それって、つまり……。
「楽しみだね! 初めてのデート」
シノブは口を開けて固まる。
確かについ最近聞いた響きだ。有瀬はめぐるの家に行こうとするシノブにデートしようと言った。それはその場のノリのようなもので二人で買い物しよう程度のノリなのかもしれない。
しかし二人で遊びに行こうとなると意味合いは大きく変わる。買い物のついでではなく遊ぶことが目的、つまりは相手が目的となるのだ。
「あ、ああ……」
突然訪れたチャンスにシノブは喜ぶ以上に、どうすればいいのかと頭を抱えていた。
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