僕には見えないかわいいあの子

蒼瀬矢森(あおせやもり)

プロローグ

 透明人間はどこまで透明なのだろう。


 体の組織が全て透明だったなら消化している食べ物などは見えてしまう。これでは駄目だ。

 ではカメレオンのように保護色で周囲の景色に溶け込んでいるのか。それでも完璧とは言えない。見る角度によってはくっきり形が見えてしまうだろうし、そもそも透明と読んでいいのかすら疑わしい。


 では透明人間とは何か。


 答えは簡単で、そこにいることを意識されない人間だ。見ているのに見えていない部分。日常において通常、人は視覚情報を百パーセントは読み取っていない。ぼんやりと捉えた視界の端の景色を、おそらくこうなっていると脳が勝手に補完している。


 その補完の狭間にいるのが透明人間だ。町ですれ違う人々、電車で乗り合わせた乗客、テレビの映像で流れる一瞬の人並み。誰しもが誰かの透明人間だ。


 だから景浦信夫かげうらしのぶは思っていた。どこまでも凡人な自分は世界の誰よりも透明人間なのだと。


 ――彼女に出会うまでは。

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