第479話 ソフィー(26)とベルル(24)

 僕の目の前には、二十六歳になったエスリンちゃんが立っている。


(眼鏡も魔力で精神安定させるやつじゃ、なくなっているよ!)


 結婚後、メイドでなくなった彼女が始めた事というのが数々の「習い事」である、

 ソフィーさんベルルちゃんリア先生があまりやらない事でなおかつ、

 エスリンちゃんの暇な時間を潰せるもの、という事でとりあえず最初に選んだのは……


「はいミストさん、新しいぬいぐるみ」

「ありがとう、これは……ボリネー先輩かな?」

「今のミストさんですよ」「いやこんなに太ってなーい!」


 とはいえ十年で幸せ太りは否定できないな。


(フォレチトンの名産が美味しすぎるのが悪い!)


 うん、十年経ってもまったく飽きない。


「あっ、そういえば子供達は」

「みんな、あちらみたいですよ」


 居間の奥を見ると、あっ、ほんとだ!

 僕の娘や息子が勢ぞろいだ、アンナちゃんもあっちで遊んであげてる、

 あと第十二夫人がちらっと見えたけど、それはまあ、うん、後で。


「エスリンちゃんあらためて、十年経ったけど体調は大丈夫?」

「うん、半年に一度くらい来た精神の不安定も、もう一年以上無いし」

「じゃあもう安心かな、油断はできないけど、このまま居てくれれば」


 さすがに十年も経てば、

 嫌な記憶も薄れてくれているはずだ。


(従妹を使った部品も、もう完全にエスリンちゃんのものになっているし)


 ただ、夜は相変わらず蹂躙されるんだよなぁ……


「ミスト様」「間もなくソフィー様とベルル様が」「うわっ!!」


 いつのまにか突然、両隣に居た第七夫人と第八夫人、

 キリィ=ポークレットとモリィ=ポークレットのふたりだ、

 夫人兼メイドとして相変わらず十年間、頑張ってくれている。


「あの、まだまだ途中だけど言わせて欲しい、

 キリィさんもモリィさんも、娘がひとりづつで、ごめんね」

「いえ、まだ諦めていません」「また同時に子を生したいと思います」


 そう、四年前に同時に妊娠し、同時に産まれた子が両方とも女の子だった、

 居間の奥の方で獣人メイドとダークエルフメイドに遊んでもらっているな。


(これで奥さんはソフィーさんとベルルちゃんだけか、後は……)


「ベルベットでーーーーー!!」

「うっわ、あいかわらずうるさいっ!!」

「王都の合同教会に三十分だけ呼ばれてまーーー!!」


 うん、十八歳になっても元気いっぱいだ、

 ていうか本当に十八歳かこれ?! と毎度思う。


「ぢゃあ、婚約者をあやししてきまーーー!!」


 真っ直ぐ空中を飛んで居間の奥へ、

 あーあ、あいかわらず九歳児の男の子に迷惑そうな顔させるなよ……

 いくら婚約者とはいえ、先日の事件はやり過ぎだったな。


(ヒント:元気なヤンデレ)


 あっ、キリィさんモリィさんが入口の方へ視線を、という事は……!!


「ミストくんお待たせ!」

「お待たせしましたわミスト様!」

「うん、ソフィーさん、ベルルちゃん、結婚十周年だよ!」


 すっかり美人になったソフィーさん二十六歳、

 ちょっとキツい感じが混じっているのがこれまた魅力的だ。


(確かに怒ると怖い、その冷たい目がゾクゾクする)


 そしてすっかりふくよかなベルルちゃん二十四歳、

 いや全体が太い、良い言い方をすれば貫録が半端ない。


(ジッポンの国王がベルル親方とかベルル関とか呼んでたな)


 まあ教会の聖女としては魔力がはちきれんばかり、という事にしています。

 そんな感じでふたりとも十年前よりグレードアップした聖女服だ。


(なんでも『大聖女』という称号を手に入れたらしいよ!)


 僕はだめ貴族のままですが、なにか?

  だめ貴族はだめ貴族だもの。 ミスト


「ミストくん、それはそうと、きちんと領主としての勉強は続けていますか?」

「あっはい、それはもう、アメリア先生やリア先生から、それなりに」

「ミスト様の場合は、あと四十年は学習が必要ですわ」


 声は十年経って大人になっても、

 言われる事はずっとあんまり変わらないんだよなあ。


(僕が成長していないだけか!!)


「それはそうと、式典でも言ったけど、結婚して十年経ちました!」

「そうね、この十年、あっという間だけど幸せだったわ」

「ですわ、もちろんこの先も幸せであり続けるために、今日は約束を守っていただきますわ」


 うん、わかってる、

 今日のこの場は、そのために集まったんだ。


(子供達も居るから、合同教会じゃないよ!)


 とはいえ居間の奥にベルベットちゃん作の、

 最新小型女神像が置いてある、ちなみに顔は……


 へ へ

 女 女

  神


  栗


(……まったくもう、栗みたいな口しやがって)


 魔力は凄い、うん、この部屋に居たら多少怪我しても瞬時に治る、

 だが心の傷はどうかな? という訳で十年待たせた、約束の時間だ。


「ええっと、場所はどうしよう」

「どこでも良いですよ」

「そのままソファーに座ってで良いですわ」


 うん、十年経ってあらためて思う、

 ふたりとも男の子ひとり女の子ふたり産んで、

 三人の子持ちになって、色んな意味で余裕が、貫録が出た、そして……


(僕への愛情は当然なものとなった気がする)


 十年前より厳しさ三倍、愛情十倍とでもいうべきか、

 極端な話じゃないが、僕はこのふたりの愛情で今日まで生かされた気がする、

 もちろんリア先生やエスリンちゃんたちの愛もあるが、この二人は中心かつ桁違いに愛を感じる。


(だからこそ、この愛の出所、僕を愛する『真の理由』が、わからないままなんだよなぁ……)


「ミストくん、十年間、楽しかったわ」

「それでミスト様、十年間、きちんと答えを考えてらして?」

「えっ、ええっ、その、答えるチャンス、貰えるの?!」


 あっ、キッとした怖い表情のソフィーさんになった!


「さすがに十年も経てば、気付きますよね?」

「ですわですわ、この十年間、毎日がヒントの固まりでしたわ」

「えええぇぇぇ……今になってそんなこと、言われましても」


 でも流れ的には、

 とりあえず答えるしかないか。


(実はひとつだけ、これなんじゃないかっていうのが、ある!)


 まあ、妄想みたいなものなんだけどね、

 何も言わないで答えを告げられるよりもは、ちょっとはマシか、ちょっとは。


「外れてお仕置は、無いですよね?」

「んーどうしましょう」「決めてませんわ」「ええ……」


 当てに行こうにも、

 十年経ってもさっぱりなんですけれども!


「さあミストくん」

「ミスト様、さあ」


 リア先生を見ると、キリッとした表情で頷いている!

 ええい、ここはもう、僕の妄想を告げるだけ告げてみよう!!

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