第477話 僕の選んだ、第三の選択

 スペシャルウィーク最終日、

 合同教会に並ぶ人々の列を止めてまで集まった御前立の前、

 十一人の奥さんを前に、さあ、いよいよ『僕を愛する真の理由』が打ち明けられようとした瞬間!


「そのっ、第三の選択肢っていうのはですね……」

「ミストくん、まず第一と第二を教えて下さい」

「ですわ、いきなり『第三の選択肢』と言われても、意味がわかりませんわ」


 うん、ここは心の準備という事も含めて、

 まずは順番に説明を入れて行こう、大事な所だ。


「僕が今日ここで『ソフィーさんベルルちゃんが僕を好きな一番の理由』を当てるにあたって、

 選択肢はふたつあったと思うんだ、ひとつは『僕が正解を当てる』このルートはもう潰えちゃった」


 当ててたら何事もなかったんだけどね。


「それでもうひとつは『僕が不正解で、答えを教えてもらう』今、このルートに移行しようとしていたんだけれども」

「ミストくんは、それではない選択を選ぶと」

「それはいったい、何なのです? 教えていただきたいですわ」


 僕はリア先生を見ると、

 不安そうな表情ではあるものの、軽く頷いている。


(よし、言おう!!)


「それは、それはっ……それは『このまま答えを聞かない』という、選択肢ですっ!!」


 それを聞いたソフィーさんは、

 なんとなく『あーーー……』という表情、

 なんだろう、『はいはいそうきましたか』という感じを少しあきれる感じで増した雰囲気だ。


(うん、だめ貴族を見る目だね!)


 ベルルちゃんはぽかーんとしてて……

 あっ、ソフィーさんとふたり、ほぼ同時にリア先生を見た!

 そして少し強い口調でソフィーさんが話し掛ける。


「リアさん貴女の入れ知恵ですか」

「その、すまない、ミストがあまりに可哀想で、

 まあこういう風に助け船を出すのも私の役割だ、許して欲しい」


 ……助けてくれたのか、

 ということはやはり相当ショックな内容なんだろうか。

 

(これ、僕もリア先生を助けないとな)


「その、リア先生はヒントをくれただけていうか、

 あくまでもひとつの提案であって、僕が考えて下した決断とでもいうか、

 おっ、お願いだから! 単なる僕の、ワガママだからっ!!」


 ふたりが僕の方へ向き直す。


「ミストくん、本当にそれで良いの?」

「ミスト様、それは先延ばしですの? それとも逃げ、ですの?」

「その、う、うーん、聞かないでいられるのは、いつまでかなぁ」


 逆に聞いちゃった。


(あっ、ソフィーさんベルルちゃんが部屋の隅へ!)


 その間に僕はリア先生に頭を下げると、

 手の平をこちらに見せてまた軽く頷いている。


(第三夫人の役割、かぁ)


 うん、今後もこの聖女ふたりで困った事があれば、

 リア先生やアメリア先生に相談だな、あともちろんエスリンちゃんにも。


「ミストくん」「話がまとまりましたわ」「あっはい」


 改めてボクの前に立つ、

 ソフィーさんとベルルちゃん。


「まずはミストくんに『答えを教えない』という選択肢は、こちらにはありません」

「ですわ、これはミスト様には絶対に、絶対にわかっていただきたい内容ですわ」

「その、それって、ソフィーさんとベルルちゃんの、『正体』……ですよね?」「そうです」「ですわ」


 やっぱり避けては通れない道、かぁ。


「じゃあ、どのくらい先延ばしにできますか」

「んー……十年、ですね」「えっ、そんなに?!」

「わたくしも異存ありませんわ」「ベルルちゃんもかぁ」


 十年は聞かないで済む……耐えられるかな。


「あの、そもそもなぜ、十年?!」

「それはミストくんが、聞いた後、もうどうしようもないからです」

「ですわ、おそらく聞いた所で、もう、逃げようがない状況になっておられますわ」


 なんだそれ、聞いて逃げるとか!!


(やっぱり正体は、とんでもないバケモノか何かなんじゃあ……?!)


 でも人間だよね、よねっ?!

 あれか、『やっぱり一番の、本当に恐ろしいバケモノは人間でした』みたいな落ちのやつ?!

 確かにソフィーさんベルルちゃんは、今日あった結婚式の余興じゃないが、『真の魔王』より強そうだけれども!!


「十年、十年かぁ……」


 天を仰ぐとベルベットちゃんとアンナちゃんが、

 四階の部屋から身を乗り出して覗き込んでいる、

 なんだバッチリ聞いているんじゃないか、静かだからねあの距離でも。


(十年経てば、答えを聞いても逃げられない、か)


 でも逆に、今のこの幸せが、

 何事もなく十年続くと思えば……!!


「うんわったよ、十年後に、聞きますっ!」

「では決定ですね?」「決定ですわ?」

「……はいっ、そうして下さい、答えを聞くのは、十年後でっ!!」


 うん、これでいい、

 これこそ、これぞまさに、

 だめ貴族ミスト=ポークレット、第三の選択だ!!


「それでは『ミストくんを好きな一番の、真の理由』を伝えるのは十年後になったという事で」


 僕を何だか強く両脇から確保するソフィーさんとベルルちゃん!


「えっ、何、どうしたの?!」

「今からペナルティを行います」

「ですわ、一番きついお仕置をしてさしあげますわ」


 まるで引きずるように厳重な扉、すなわち外の方へ!


「い、いったい何をっ」

「当然、お仕置ですから女神像噴水の前で」

「あのベッドでお仕置ですわ、内容は当然、一番きつい『処刑』同然の行為ですわ」


(しょ、処刑って、ま、まさか!!)


 扉が開き、クルケさんやイデーヨさん、

 並んでいる一般の方々を横目に連れて行かれる!!


「い、いやいや、今からって、披露宴はっ?!」

「まだ時間がありますし、そうですね、いっそ披露宴はお仕置をしながらというのはどうでしょう」

「素晴らしいアイディアですわ、お仕置ベッドの前にテーブルを並べ、青空披露宴に変更ですわぁ!」


 そ、そんな趣味の悪い強制処刑、嫌だあああああ!!!


「りっ、リア先生、た、助けてっ!」

「これはもう仕方が無い、私も手伝おう」

「そんなあ!」「リアお姉様がそうおっしゃられるなら私も」「エスリンちゃんまでっ?!」


 教会前の屋根なし馬車へ、無理矢理乗せられるっ!


「行先変更、旧中央街の噴水前へ」

「ミランダさんとキリィさんとモリィさんとエスタさんは、披露宴の場所変更を知らせて急いで準備ですわ」

「「「「かしこまりました」」」」


(ほ、本当にするのおおおおお?!?!)


「アメリア先生!」

「あらあら、私は見ているだけしかできないけど、何なら解説でもしましょうかしら」

「サリーさんっ!」「はいいぃぃ、精力ポーションの準備を致しますううぅぅ」「そ、そんなあ!!」


 ジゼルさんもやる気満々だし!


「ドワーフ的には、これ、どうなのっ!」

「基本的にドワーフは、そういう羞恥心は、あまりありませんよ♪」

「そ、そっかぁ……」


 何気にベルベットちゃんもアンナちゃんを抱えて空中からついてきてるし!

 いや、年齢一桁の女の子に見せちゃ駄目でしょ、ってこれそういう事をされるんだよねっ?!


「ええっと、えっと! ソフィーさん、ベルルちゃんっ!!」

「ミストくん、愛していますよ、ですからこそ、こういうお仕置は、きっちりと」

「ミスト様、まだわたくしどもと、ミスト様との愛を疑っていらっしゃる方々に、証明を致しましょう!!」


 あああ、馬車が走り出しちゃったぁ……


「そんな、そんなっ、許してえええええぇぇぇ……」

「答えを教えない以上、私たちの愛を、もっともっとわかっていただいます」

「これから先、一生一緒ですわ、ですからこそまずは、一番きついお仕置を、身を持って憶えていただきますわぁ!!


(や、やっ、やだあああああああああ!!!!!)


 こうして僕の新婚初夜? は、

 空の下、披露宴のメイン出し物として、一般公開もされてしまった……

  だめ貴族だもの。 ミスト


 ――そして、十年の月日が経った。


 ※もうちょっとだけ続くんじゃよ!

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