第472話 見守ってくれた観客にお礼のコロシアム一周

「父上、母上!」


 僕らが闘技大会等でいつも座っている主賓席、

 バルコニーの国王席は別にして一番良い所に僕の両親が座っていた!


「おおミスト、素晴らしい結婚式だったぞ」

「良かったわよ、この後の披露宴も楽しみだわあ」


 ちゃんと一番良い席で、最初から最後まで見てくれていたんだ……

 感極まって僕が泣きそうな中、コロシアムに響くイジュー先生の声。


「さあ、これから場内一周の際、花嫁によるブーケの投入がある、

 席から過度に離れての争奪戦は、危険だから良い子のみんなは決してするなよ!

 ブーケの数はひとり100個、合計1100個だ、未婚の女性にできるだけ渡る事を、祈っているゾ!」


 エルフ隊や獣人メイド隊がアイテム袋を持って来た、

 それぞれを花嫁たちに渡す、馬車から投げるみたいだけど、

 身重のアメリア先生はどうするんだろう、と思ったらベルベットちゃんが横についた。


(ってそれに続いてチヨマル王子まで乗ろうとするなー!)


 新クノイチに連れて行かれて来賓客席の、

 ジッポンの両親へと無事、連行されたようだが、そのままもう帰るっぽい、

 他の少年少女たちも花嫁の裾を持って馬車まで届き次第、わらわらと引っ込んで行った。


「ミストくん、前列中央へ」

「わたくしどもが両隣ですわ」


 うん、運転席後ろの最前列がソフィーさん僕ベルルちゃん、

 後ろ二列目がリア先生、僕の真後ろがエスリンちゃん、あとメイド長のミランダさん、

 さらに後ろの三列目がアメリア先生の両隣にベルベットちゃんとキリィさん、あとは見えづらい。


(コロシアム内を左回りか、魔法花火がボンボン打ち上がるな)


 それに合わせてかブーケもボンボンと客席へ投げ込まれる、

 ソフィーさんベルルちゃんあとアメリアさん代理のベルベットちゃんは

 おそらく魔法でスタジアムのかなり上段まで投げてるな、最上段の席の女性もビックリだろう。


「あっ、ソフィーさんのご両親、あとお姉さんも!」


 元盲目聖女の方ね。


「ソフィー、おめでとう」

「合同教会オーナーの正妻として、しっかりやるのよ」

「はいっ、お父様、お母様!」


 という会話が出来るくらいには馬車に高さがあり、

 客席最前列の近い所を走っている、だからこそ魔法を使わず、

 自力でブーケを投げるリア先生やキリィさんモリィさんも一階中程くらいは平気で届く。


(さすがに非力系のミランダさんエスリンちゃんは一階最前列か二列目くらいまでだけどね)


 しかも届かなかった場合は下を並走するエルフメイドや獣人メイドが拾って投げてくれてるし、

 むしろその投げ直しの方がスタンド二階まで届くという、すげえな。


(あっ、ミランダさんのブーケがメイド教育係ノーリさんの腕の中へ!)


 めっちゃ喜んでるな! いやいいけど。


「ミストー!」「結婚おめでとっ!」


 おっ、アレグとメイソンだGクラス仲間の!

 奥さんと並んで観覧してくれてたみたいだな、

 さらにCクラス仲間や他の学院仲間、あとは幼馴染まで。


「ええっと僕は投げちゃ駄目なんだっけ」

「ミストくん、渡したい方でも?」

「いや別に、あっ、しいて言うなら新二年生のGクラス女子四人に」


 するとソフィーさんベルルちゃんから二束づつ丁寧に魔法で渡された、

 横取りを避けてまで……嬉しそうにしている、うん、良かった良かった。

 そうこうしているうちに、すぐ四分の一を回ったみたいだ、速いな。


「ここは大教会と騎士団のあたりですね、みんな手を振ってくれてます」


 特にヴァルキュリア騎士団のあたりにブーケが集中砲入されれる、

 リア先生は立ち上がって腕まくりまでして……ってあれ、動きが止まった?!


「リア先生、どうしたんですか」

「……目が良すぎるのも考え物だな、最上段最後列に、知り合いが居た」


 そう言って深々と頭を下げている。


(僕にはさっぱりわからないけど、まあいっか)


 そしてちょうど半分に差し掛かろうというあたりは領民中心だ、

 昔からの知った顔も居ればぜんぜん知らない亜人も、さらにオーガさんたちまで!

 このあたりの客席は隙間なくびっしりだ、もちろん一番上の方まで……


「ミストくん、ミストくん、あちらに」

「御覧になれますこと? 最上段のあちら、きちんといらしてますわ」

「えっ? ええっとお……あっ、あれはマンタ爺ちゃんか! そしてその両隣は!!」


 うん、はっきりとは見えないけどあれは多分、

 オリヴィエさんとヴァネッサさんのメイドお婆ちゃんズだ!

 腕を振ってくれている、なんだかマンタ爺ちゃんに振らされているような気もしないでもないけど!!


(でも、でも遠くからでも、こうして再会できて、嬉しいな)


 表情まではわからないけどとにかく立って頭を下げよう、

 うん、なんだかんだ言ってもお世話になった幼い頃からのメイドだ、

 僕は思わず俯きながら『ありがとう』と口に出した、何度も、何度も、何度も。


「ミストくん」

「はいソフィーさん」

「もう目の前は砂漠の皆さんです」「えっ」


 もうとっくに通り過ぎていた

  だめ貴族だもの。  ミスト


「いや、みんなにも感謝を……アイーン!!」

「「「「「アイーーーーーン!!!!!」」」」」


 うん、ノリが良くて助かった。

 あとは考古学者の皆さんも居る、

 所長のヤモットさんはなぜか自由教教祖代理のメルさんと並んで!


(なぜだろな~♪)


 こうして半分を過ぎたあたりでこれはナスタンとか他国の皆さんかな、

 王子がハニートラップの魔女たち、すなわちお嫁さんたちと一緒に観てる、

 さすがに来賓席はまずかったのかな、とはいえ最前列だ、ゴリラはもうとっくに見たよ、学友の隣に居た! 


「さあミストくん四分の三です」

「このあたりは聖教会のエリアですわあ」


 今更だけど客席も大教会と聖教会で大雑把に分けてるんだよな、

 反対側になるように……披露宴の席もそんな感じにしてあるとか。

 手にしているお弁当も『聖女ベルルの愛妻弁当』や『ベルベット総司教の育ちざかり弁当』が多い。


(って知らない間に新作が?!)


 ベルルちゃんが多めに愛想を振りまいている、

 あと後ろの方の席は冒険者っぽいのも多いなあ、

 ミラクルスタンダートのみんなも見えた、うん、また変わってるなんて事は無い。


(ほんっとに、最初に見たメンバーとは、全員違うんだけどなあ……?!)


 そして正面、来賓席の方へ。


「あっ、ベルルちゃんのご両親と、そのご家族も!」

「ベルル、いいか、きちんと手綱を握るんだぞ」

「いいわね、身も心も征服しなくちゃ駄目よ?」「幸せになりますわ!」


(ソフィーさんの前でなんてこと言ってるんだ……)


 例の義爺さんは寝てるし!

 飽きたのかな? まあいいや。


「ベルルちゃんはお任せ下さいっ!!」


(あーお義父さんお義母さん、ちょっと嫌そうな顔しないでー!!)


 こうしてぐるりと一周し終えた僕らは正面ゲートに戻ってきた、

 そのタイミングでありったけの魔法花火が撃ち上がり、スタジアムが大歓声に包まれる。

 やがてそれも終わると……


「以上でミスト=ポークレット公爵の結婚式は終わりだ、

 皆よ、すでに入場の時に貰った者は良いが、帰りに引き出物の受け取りは忘れるなよ?

 配布場所は各所にあるゆえ並びの少ない所を探すと良い、では以上だ!」


 あーやっぱりお土産付きかあ。


「ソフィーさん、今日って、入場無料?」

「そんなことはありません」

「ですわ、お好きな金額を、祝福の気持ち分を入場の際に入れて貰うシステムですわ」


 合同教会システムの先払い版だったかあ。


「……ちらっと見えたお土産の箱、結構すっしりで重そうだったけど」

「あとでミストくんにもあげますね」「余りはあるはずですわ」


(うーん、赤字の予感!!)


 馬車からみんな降りると今度は亜人メイドたちが花嫁ドレスの裾を持ってくれて、

 みんなで控室へと戻る、さあこれからドレスを脱ぎ、着替えて結婚披露宴の準備、

 と行くその前に大事な大事な集まりが合同教会である、最後の大事な大切な確認に。


(あっ、そこへ行く前に!)


「みんなごめん、答え合わせの前に、ちょっとお礼を言ってくる!」


 そう言って、衛兵に聞いて僕の走った先は……!!

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