第458話 自由教の女神様に結婚のご報告
「こちらでございます」
砂漠の国最北、アプス神殿はもうすでに立派な都市となっていた。
「ええっと領主って誰なの」
「メル様ですね」「いつのまにい?!」
自由教の教祖代理、
元は普通の眼鏡考古学者である。
(ちなみに案内してくれているのは、王都から派遣された警備の男性兵士さんだよ!)
クノイチはついてきているんだろうかどうだろうか、
まったく気配を感じないのは完璧に消しているためか、
それともさすがに眠っているのか、まあ平和そうだからいいや。
「住人ってやっぱり、神殿地下の岩塩発掘、その肉体労働者ですか」
「それもありますが観光客目当て、あと周辺のジャイアントデスワーム狩りも」
「ええっと狩り方がもう確立されているのかな」「はい、街の結界にぶつける形で」
なるほど、海から魚を釣り上げて陸へ上げちゃうみたいな作戦かな?
「観光客ってそんなに居るんだ」
「中の運動施設が地味に人気ですね、運動不足に最適だと」
「本当は試練の難関なはずだったんだけどね」
説明すると神殿は大集会場から下は豊富な岩塩採掘場で、
これがまた今後何百年掘っても大丈夫なうっはうっはらしい、
もちろん儲けの一部は我がフォレチトンにも流れてきている。
(そして上部は、完全な観光施設なんだけれども……)
元々は外部から入って来た者に対し、
最高で三十五だっけの試練で迎え撃つ難関があって、
それを全てクリアしないと最終試練まで辿り着けない、という建前だった。
(でも、あまりにも人が来なさすぎて、難易度が最弱になってたんだよな)
あの仕掛けだらけの坂道、あの最初の関門さえクリアできれば最終関門、
あの金貨転がしゲームに辿り着けたという、なので残された三十四の関門は、
誰でも参加できる娯楽施設に改造した、それぞれ人が死なない難易度にね。
(そして一般開放したら、これが人気の遊具施設になっちゃった)
本来なら自由教教徒のための試練なんだけれども、
観光客のお遊びランドになってしまっている、
まっ、入場料が美味しいからあえてそうしたのだけれども。
「あっ、入口だ、ガイドさんがいっぱいだね」
「それぞれ値段が違うようですが、わかり易いように金額を掲げていますね」
うわ、褐色のめっちゃ巨乳がめっちゃ高い値段を書いてる!
かと思えばアルドライドから来たっぽい考古学のじいさんも……
いや、研究所所長のヤモットさんじゃないよ、あの人は何気に忙しいはずだから。
(子供も安い値段で頑張ってるな、チップあげたくなっちゃう)
そういう作戦か。
「ヨウコソ、教祖(キョーソ)サマ!!」
入場券売り場の褐色男性が共通語で歓迎してくれた、
やはり観光客相手となると憶えなきゃいけないからね、
そんな感じで久々に中へ……うん、涼しい、注意事項は翻訳されてる。
(確か女神様の間は……こっちだこっちだ)
兵士さんに案内されて例の、罠の坂を安全に登る、
もうここは単なる近道で、難関に戻すつもりは無いらしい。
一番上まですいすい行くと、待っていたのは……!!
「教祖様、ご結婚、おめでとうございます」
「メルさん! ずっと教祖代理を押し付けて、ごめんね」
「いえいえ、とんでも……ふわぁ」
なんだか眠そうだ。
「大丈夫?」
「はい、少し徹夜で、教祖代理としての修業を」
「そんなことしてたんだ、もう休んで良いよ」「ありがとうございます、ではお言葉に甘えて」
結局、最後まで? 僕に気は無かったみたいだな、
彼女があれでぐいぐい来たら第四準愛人の可能性もあっただろうに。
(って僕は何様なの?!)
ここまで連れてきた兵士さんは一応、
入って来た坂道を向いて警備してくれている、
メルさんは仮眠室かどっかへ行ったのかな。
「さて、これをクリアしなくちゃ」
お土産でレプリカを売っているオシリス金貨の本物、
すぐ挑戦できるように横に詰んである、これを箱へ入れて、っと……
(さあ、今日はこの金貨転がしゲーム、何回でクリアできるかな?!)
コロコロコロコロ……ポトンッ!
コロコロコローーー……ポトンッ!
コロッ! ポトンッ!!
「むきいいいいいいいいいい!!!」
久々で二十九回かかった
だめ貴族だもの。 ミスト
「さあ、最後のライン、今度こそっ!!」
コロコロコロッ……ストンッ!!!
(クリアできたああああああああ!!!!!)
光に包まれるうううううぅぅぅぅぅ……
(あっ、この感覚、懐かしい……)
「……お久しぶりですね、教祖ミスト=ポークレット」
「はい、マルシー様……って眩しすぎて、輪郭すら見えないっ!!」
「貴方のお陰で、ここまで力を取り戻す事ができました」
なんだか、でっかい○(マル)のような気もするが、
あっ、だからマルシーなのか、ってじゃあシーはなんだっていう。
「僕、今日、結婚しますっ!」
「それはおめでとう、自由教の教徒を沢山作ってね」
「はいっ、もちろん子供も、って押し付けは気が引けるけど」
でもまあ合同教会イコール自由教も含まれるから何とかなりそうだ。
「それとその、ごめんなさい、教祖の仕事を代理に任せっきりで」
「いえ、信者が増えてさえいれば、文句は言いませんよ」
「はあ」「あと、きちんと祈っていらしていますよね」「一応は」
ミストシティの新公爵邸、
あの四階、最上階の部屋はポークレット家の身内だけが使う、
各宗教の女神像が造られていて、僕もマルシー様の像を祈っている。
「それだけで十分ですよ、ただ、ここまで自由教を育てたのです、
アナタの願いを、アナタに叶えましょう」「えっ、それ本当に?!」
「ええ、何でもおっしゃって下さい、できうる限りの願いを、ひとつ」
じゃあ、ええっと、えええっとお……
(そうだここは、無能なだめ貴族の僕のために!)
「無属性では無い、強い光魔法が欲しいです」
「まあ、それはなかなか良い願いですね、それで構いませんね?」
「はいっ、お願いしますっ!!」「わかりました……」
おお、マルシー様の方から光魔法を感じる!
それが巨大な光の玉になって僕の方へ……来ない?!
行ったのは、えっ、空中で眠っている、あれはメルさん?!?!
「では、授けましょう」
あああ、光の玉が入って行っちゃった。
「マルシー様、これって!」
「私は確かに言いましたよ、貴方(アナタ)の願いを、貴女(アナタ)に叶えましょうと、私の身体の向きまで変えて」
「そんな、眩しくて見られなかったよう!!」
自分の信仰する神に詐欺られた気分
だめ教祖だもの。 ミスト
(でもまあいっか、メルさんも聖女様になったんだし)
「僕の願いを、メルさんに叶えてくれて、ありがとうございます」
「貴方はもう幸せですからね、メルさんの恋を応援してあげて下さい」
「えっ、メルさんの好きな人って?」「それは、ここだけの秘密ですよ? その方の名は、ヤ……」
と、ここで意識が戻った。
(ええっと、ま、まさか、ね)
「教祖様、起きられましたか」
「うん、フォレチトンに帰るよ、ありがとう」
メルさんの魔力については……自分で気付くかな。
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