第422話 あーあ、やっぱり来ちゃった

 コロシアムの一番豪華な控室、

 いや正確には戦士用で一番だ、なぜなら……


「先ほど、陛下がいらっしゃった、くれぐれも失礼の無いようにな」


 という宰相代理の人、名前なんだけええっと……ターナー・ザ・インサイトだっけ?


「ありがとうございますですわ、ヒューゴー=フェルナンディー宰相補佐官様」

「うむ、不敬無き様にな」


 今度はベルルちゃんに助けてもらった、

 そう、来賓用の一番豪華な控室は言わずもがな国王陛下が使っている。


(あーいよいよか、公爵就任式はやっぱり陛下のフルネームを言わされちゃうのかな)


 宰相代理さんの姿が見えなくなって慌てて例の小冊子にかじりつく、

 ええっとえっと、アルドルラド・ゴッフルデルド・ミュシュマレフト・

 ラファンデイデファンフォン・リヒャデバウト・グランガロス・エレクククククスル……ちがーう!


「新公爵!」「あっジンくん」


 なんだかいつもと違う着飾り方だ、

 ちょっとした国の兵隊長みたいな、

 魔法研究所の服ともまた違って新鮮だ。


「どうでしょう、陛下に失礼が無いでしょうか」

「う、うん、良いと思うよ」


 これくらい控えめの方がよっぽど僕には相応しい。


「でも良いのでしょうか、僕だけ代表してみたいな騎士爵」


 あ、そっちなんだ、

 まあ確かにいきなり勇者爵は無いよね、

 僕みたいな冒険者ギルド認定勇者ならまだしも。


「リーダーだからね、しょうがないよ、あっ! そういえば」

「どうしました?」

「冒険者ギルドで何かジンくんたちの弟子みたいなのに会ったよ」


 あれ、首を傾げている。


「弟子、ですか」

「あれ、ひょっとして、自称の偽物?!」


 かと思いきや一転して笑顔に。


「冗談ですよ、名前付けて欲しいらしいです、領主様に」

「びっくりしたあ! 一瞬、騙されたかと思ったよ」

「あはは、それで名前は」「うん、今日の就任式が終わるまで考えておくよ」


 今はそれどころじゃあないけれども。


(ええっと後はセスの男爵就任? それとお肉さんチームの公爵就任ってまさか一緒にやるんだろうか)


「ジンくん」

「はい、ソフィー様」

「国王陛下の名前をどうぞ」


 えっ抜き打ちテストをジンくんに?!


「アルドルラド・ゴッフルデルド・ミュシュマレフト・ラファンデイデファンフォン・リヒャデバウト・

 グランガロス・エレククス・シムオカーケン・ムレルハドン・ホンジャマカ・ビュルナート・アフウ・

 ドラゴファンゾ・テッテレー・ロベルィデ・フラウポウ・イフグベン・クエスベスト・バーローンド・

 エポロスエロポス・テレジルベルク・オモンバカル・スッ・ヴァレンリウス・レイボキキスギサモイ・

 フロリプラント・ランスキチクォー・ルドォゴドォ・シギステウデウ・アルカディウノン十一世陛下ですね」


 おお、凄い凄い、すらすらと全部言えた!!


「はいミストくん、復唱をどうぞ」

「ふぁっ?! えっと」「小冊子を見ない!」「は、はいっ!!」


 こういう時は天井を見ながら……


「アルドルラド・ゴッフルデルド・ミュシュマレフト・ラファンデイデファンフォン・リヒャデバウト・

 グランガロス・エレククス・シムオカミカ」「はい違います」「ぐあああああ」


 駄目だ、あと二か月は欲しい!!


「ししょーーー」

「ベルベット、綺麗な衣装ですわ」

「きかざりまーーー!!」


 おう、しゃらじゃらと装飾品で固めたベルベットちゃんがやってきた!


「れーのみはり、こうたいでーーー」

「ご苦労ですわ、そうですわ、ベルベット、国王陛下の名前をフルネームで言ってみるのですわ」

「はーーーい!!」


 えっ、八歳児に?!


「あるどるらど・ごっふるでるど・みゅしゅまれふと・らふぁんでいでふぁんふぉん・りひゃでばうと・

 ぐらんがろす・えれくくす・しむおかーけん・むれるはどん・ほんじゃまか・びゅるなーと・あふう・

 どらごふぁんぞ・てってれー・ろべるぃで・ふらうぽう・いふぐべん・くえすべすと・ばーろーんど・

 えぽろすえろぽす・てれじるべるく・おもんばかる・すっ・う”ぁれんりうす・れいぼききすぎさもい・

 ふろりぷらんと・らんすきちくぉー・るどぉごどぉ・しぎすてうでう・あるかでぃうのんぢゅういっせーでーーー!!」


(負けた……八歳児に負けた……)


「ミスト様、膝から崩れ落ちていないで、ベルベットを褒めてあげて下さいですわ」

「あっはい、凄いねベルベットちゃん、よくスラスラ言えたね、えらいえらい、いいこいいこ」

「えへへへへへーーー」


 あっ、今度はエスリンちゃんが着飾ってやってきた、

 メイド服じゃない、いかにも第四夫人って感じの!!


「ミストさん、いかがで、しょうか」

「うん、貴族の奥さんって感じに、ちゃんとなってる! 綺麗だよ」

「その、ありがとうございます」


 ちょっと照れてる、うん、僕まで照れちゃう。


「エスリンさん」

「はいソフィーさま」

「国王陛下のフルネームを」「もういいからー!!」


 結果、またもや完全敗北した

  だめ貴族だもの。  ミスト


(いや勝ち負けどうこうより、やっぱり一般常識なんだろうなぁ)


「ミスト」「あっリア先生」

「皆も時間だ、国王陛下による爵位認定式だ」


 来ちゃった、とうとう来てしまった……


「ええっと、僕の遺言は、『ソフィーさんベルルちゃんリア先生エスリンちゃん、

 アメリア先生ミランダさんキリィさんモリィさんジゼルさんエスタさん、

 ついでのおまけでサリーさん愛しています』ということでお願いします」


 あ、シーンとしちゃった。


「ミストくん」

「はい」

「とりあえず陛下の前では、黙っていて下さいね」


 さあ、どうなる僕の公爵就任式典!!!

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