第414話 あえてこんな所でみんなと休む

「んでね、それでね、ソフィー……さまが……ね……」

「……おやすみ」


 孤児院のみんなの寝室、

 謎の結婚式を見て目が冴えた最後のひとりがようやく眠ったようだ。


(ふう、起こしたのは僕らのせいだからね)


 手伝ってくれた夜勤番の職員さんに頭を下げると、

 入れ替わりで僕の奥様達がやってきた、うん、みんな寝間着になってる。


(僕もクノイチさんから貰って着替えたよ!)


 今夜は朝までここで一休みだ。


「ソフィーさん、シャマルク魔法国のなんちゃらサーカス団だっけ、あの爺さんたちは」

「はい、丁重にご案内して、今は我が城で休まれておられます」


 そう、ソフィーさんに投げた。

 お城っていうのは当然、僕の侯爵邸だけどあの大人数、どこで寝てるんだろ?


(宴会の間に雑魚寝してる姿を浮かべたが、まさか、ね)


「ベルルちゃんもおかえり、そっちの方はどうだった?」

「はいですわ、レブル王子は五人の花嫁と明日朝までお話をするようですわ、

 最も一方通行的な話のようですが、キリィさんモリィさんが監視中ですわ」


 うん、あの元悪女たちにして貰わないといけない償い、

 それは責任もってちゃんと本当にレブル王子を生涯愛する事だ、

 そのあたりの教育はきっちりとされてるだろうし、これからも……


「それでミストくん」「あっはいソフィーさん」

「花嫁衣裳が真っ黒だった真意を」

「それはわたくしも知りたいですわあ」


 子供たちがぐっすりなので声を潜めながら説明する。


「以前、学院の寮エリアで捨てられてた小説にあってさ、

 不本意な嫁入りした貴族令嬢が最後の抵抗として、

 真っ黒な花嫁衣裳を着て『私は決して貴殿に染まりません』って」


 途中までしか捨てられてなかったから物語終盤は知らないけれど!


「では、あの魔女たちはレブル王子に染まらないと?」

「ううん、ひとつは仮とはいえ大切な結婚式を黒衣でしなければならない、

 僕らで殺しておいて何だけど、もう関係ないかもしれないけれど、

 女帝ミラーに対しての弔い兼、彼女たちへの罰とでもいうか」


 その割には嬉しそうだったけどね、

 記憶消したから故・女帝への想いなんてゼロだろうけど。


「ミスト様、他にも何かありまして?」

「うん、単純に小説で読んだ黒いウェディングドレスを実際見てみたかったっていう

 軽い僕の我がままもあったけど、レブル王子にも、認めたくないにしても、

 彼女達は悪人ですよと、確かあのアニェス、往生際に王子を殺そうとしてましたし」


 ナスタンとしては黒歴史にしたいだろうけど、

 おそらく国民には『ナナスータへ避難中、恋に落ちた』とか、

 適当な取ってつけた美談にして公表するんだろうな。


「ミストくん、それだけ?」

「あー実は、後は……レブル王子側が普通に白かったでしょ新郎の服、

 だから結婚後、王子には花嫁五人に黒く染められて下さいっていう」

「それは悪い方へ?」「いやその、その方が、そう思った方が単に……興奮するかなと」


 遅れてリア先生が戻ってきた。


「あっおかえりなさい、どうしました?」

「いやなに、ボリネー先輩と少し、な」

「嫌ですよ肉塊様にNTR(寝取ら)れるのは」


 ずいっと僕に迫るリア先生。


「結婚後、そのような事を言えば容赦なく頬を叩くぞ」

「あっはい、ごめんなさい」

「明けた今日の軽い打ち合わせだ、何をするか見当はついているな?」


(何かあるんだよな、って実はもう……)


「ごめんなさい、さすがに耳に入っちゃっています、

 通りすがりの人とかの雑談とか、あとはまあ、色々」


 サリーさんが呟いていたりとか。


「そうか、わかっているか」

「はい、公爵就任式、あっ、陛下の名前をちゃんと記憶しないと」

「それはもう安心して下さい、でも一応、直前までは」


 ソフィーさんの『安心だけど憶えろ』がまた発動してしまった。


「ミスト様、この子たちを起こしてはいけませんからもう眠りますわ」

「そ、そうですね、朝になったら就任式ですし」

「ミスト、それだけでは無いぞ」「えっまだ何か」「まあそっちはオマケだから当日で良い」


 いやもう日付は当日なんですけれどもー!


「ミストくん、今夜は本当にここで良いのね?」

「はい、場所どうこうよりソフィーさんベルルちゃんリア先生と、

 こうして、こういう形でも婚前に一緒に眠れるのが嬉しいです、

 将来の予行練習みたいな気もしますから」


 エスリンちゃんも入れて子供四人生まれたとして、

 こうやって子供達を寝かしつけて、一緒に眠る事もあるだろうからね。


(そう考えると、本当に結婚するんだなあと……するよね?!)


「それでミスト様、結婚前の夜は今日を入れてあと三回ですわ」

「うん、朝になって公爵就任式を終えたらその夜と、あとは結婚式前夜か」

「つまり、遊べるのはあと二回までという事になりますわ」


 ベルルちゃんにそんなこと言われると、ちょっとむず痒い。


(年下の婚約者に浮気を推奨されるのは何ともかんとも)


 あとヴァルキュリア騎士団の更衣室みたいに昼間でも、

 っていうのは思ってても言わないでおこう、リア先生は知ってるし。 よね?


「残りの夜が少ないからこそ、次は誰とって決めているんだ、それは……」

「ミストくん、そのお方っていうのは」

「うん、結婚前々夜って事だから当然……」「ノーリさんですね」「ちがーーーう!!」


 いくらだめ貴族でもあそこまでの熟女はちょっと。

  だめ貴族でも! ミスト。


(そういえばあのプロフェッショナルメイドさんも、もうお役御免かぁ)


 それにしてもソフィーさんがボケるとは、珍しい。


「んー、おしっこー」

「あっごめん、起こしちゃたか、じゃあ僕が」


 そう言って孤児を、ってよく見たらナリューくんか、

 連れだしてトイレへ、ついでに僕も隣で用を済ませよう、

 こんな子供に『ちっさ』とか言われる心配も無いだろうし。


(……外は風が強いな)


 春だからね、なんてことを思いつつ、

 ナリューくんにきちんと手を洗わせてから出ると、

 リア先生が待ち構えていた、なぜだか表情が暗い。


「ど、どどどどうしたんですか」

「とりあえず彼を」「あっはい」


 ナリューくんを部屋まで送り届けた後、

 リア先生に連れてこられたのは誰も居ない部屋、

 なんとなく少し前まで病人用の部屋だったんだろうなって思う。


(暗いなぁ、部屋だけじゃなくリア先生の表情もだけれど)


 そう思っていたら突如、リア先生が僕に抱きついてきた!


(いや、身長差的に僕が抱き包まれている感じだ)


 そして低い声が搾り出される。


「ミスト……ミスト、助けてくれ」

「えっ、リア先生」

「もう、私を助けられるのは……ミストだけだ」


 あっ泣いてる、

 いったいどういう事だろう?!?!

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