第392話 思わぬ誕生日プレゼント会
(うっわ、昨日より増えてる)
我が城のパーティー会場、
昨日は二百人で普通の満員だったのが、
今日はなんとなく三百五十人くらいは居そう。
(超満員札止めっていうヤツだ!)
とはいえ決してぎゅうぎゅう詰めだとか、
足の踏み場も無いとか息苦しいとかいう訳では無く、
通路もきっちり確保してあり、整然と並べられた会場とでも言うべきかな。
「さすがに今日は、ちょっと通りにくいデュフ」
貴方はね。
(そんな肉塊様がプレゼントしてくれた獣人メイド四名がこれまた働く働く)
ていうかメイドだったんだ、どうやらボリネー卿としては、
メイドといえばよく働きよく動く獣人! というのを定着したいらしい、
おまけに夜もばっちりですよと、うん、確かにばっちりだったけどそれもあと、できて数日しか……
(あっ、隅の壇上に上がった司会はお馴染み、武神ガブリエル辺境伯のお抱え冒険者だ)
「はーい、みなさーん! 本日はミスト=ポークレット侯爵のお誕生日パーティーに、
ようこそいらっしゃいましたー! 本日司会のダンジョンをでかい顔して歩く男こと、ザッキーと申します!」
「そしてわたくし、眼鏡で何かをお見通し、タッシバでやんすー」
今更だが、こう見えても相当強いらしい。
「いやあ、今日は素晴らしい方々がミスト=ポークレット侯爵の誕生日に駆けつけてらっしゃいますねー、
お貴族様、お貴族様、ひとり飛ばして国王陛下」「えー国王陛下が来ちゃったでやんすかー?!」「嘘です!!」
あーびっくりした、
一瞬どよめきが起きちゃったよ、
僕の両隣りに座るソフィーさんベルルちゃんはニッコニコだけど。
「ミストくん、いかにミストくんが陛下のお気に入りでも、
侯爵のお誕生日会にはいらしゃらないかと」
「ですわ、でも公爵になった後なら、ひょっとしてですわ」
そんなに侯爵と公爵では違うのか、
結婚式の招待状も本来なら侯爵の時点で出すのはご法度だったりして、
いやそれならとっくに止められているというか、むしろ出せと言われた記憶が。
「さあ軽いジョークも飛び出した所で!」
「飛び出させたの親分でやんすよー」
「まずはミスト侯爵に、最愛の方々からプレゼントです!」
入って来たのはリア先生、
手には何か重ねた布を持っている、
これがまた、すんげーキラキラしているけど何だろう。
「ミスト、これは我々、正妻側室からのプレゼントだ」
いつのまにかリア先生の隣にちょこんと居るメイドエスリンちゃん、かわいい。
「私も少し、手伝いましたっ」
ふたりして広げたそれは、
会場が驚きの歓声を上げる程の、
立派な、立派な銀色のマントだった!!
「こ、これは……?!」
僕の声にマントの横に移動してまで説明するソフィーさんベルルちゃん。
「これはミストくんが冒険者として倒した敵の魔石を、
光魔石に加工しそれを糸状にして編んだマントです!」
「ですわ、ミスト様の魔力を上げ、魔法攻撃からも身を護りますわ」
確かに凄い魔力を感じる、
僕程度の魔力持ちでそう感じるんだ、
実際につけたらどうなることか……
「ミスト、背中を向けろ、つけてやろう」
「あっはい、お願いします」
装着されると確かにこれは凄い、
僕が唯一誇れる『魔力の繋ぎ役』も、
これがあれば……しかし気になる事が。
「あのリア先生、これ、思いっきり床に引きずってるんですが」
「なあに、成長すれば丁度良くなる」「はあ」
十六歳でここから背がねえ。
「ミストさん、ご立派です」
「そ、そう? エスリンちゃんがそう言うなら、えへへ」
皆の前で舞ってみせると少し拍手が起こった、
こんな僕でも様になっているのかな? と回転していると……
ぎゅむっ!
(あ、マント踏んじゃった!)
スッテーン!!
「いででで」
派手に転ぶもマントは無事だ。
「……とまあ、これくらい丈夫なマントという訳だ」
「は、はいっ、ありがとう、ございます、嬉しいです」
ソフィーさんに治癒魔法をかけてもらう、
意外と痛かったと思ったら痣が出来ていた、
それがみるみる消えていく……ほんと、情けない領主様だね。
(マント自体に治癒魔法とかは無いのか、いやいいけど)
もうちょっとコンパクトにして貰った方がダンジョンでも使えるのに、
そういえば結婚してからも冒険者活動はさせられるんだろうか、
ラミアダンジョン周辺の活性化を何とかしたいんだけど、って僕でなくていいか。
(うん、僕のお抱え冒険者『マジカルリスタート』もテーブルでくつろいでいるな)
「ミストくん、これ、物凄く高価だから売らないでね」
「ですわ、怪しい妖しい女商人に騙されないようにですわ」
「あは、あはは、だ、だいじょうぶ、うん」
だが確信が出来る程、自信は無い
だめ貴族だもの。 ミスト
「そんな商人は吾輩が近づかせないデュフよ」
「あっ先輩、頼もしいです」
「もっとも吾輩が用意するかも知れないデュフがね」
うん、ここは笑う所にしておこう。
マントを大切に仕舞って席に戻ると司会の進行が再開される。
「さあ続きまして国王陛下からのプレゼントです!」
「なんと、宮廷魔法使い御用達、この世に七本しかないという、
特別仕様の、魔法の杖だそうでやんす~!」
メイドサリーさんが紫の布に包んだ杖を持ってくるが、
はみ出た部分の装飾でめっちゃ豪華なのがもう見て取れる。
「こ、これは!」
「ロイヤルイリュージョンスタッフだそうですぅ」
「凄いな、両手杖か、錫杖と言ってもいいのかな」
持って構えるとシャンッと鈴の音がする、
そんなのが仕込まれtいるのか、うん、魔力に満ち溢れている。
(さっきのマントと組み合わせたら最強だな)
「なお、同じものは二度と造れないそうなので、
くれぐれも破損しないようにとの伝言です!」
「壊したらそれはそれは恐ろしいでやんすよ~」
不敬になりそうだ、
うん、じゃあこれは飾り用かな?
盗まれたら大ごとだから防犯しっかりしておかないと。
「ミストくん、大丈夫ですよ」
「ですわ、これ以上の物ならいつでも、ソフィーお姉様とわたくしめと、
ジゼルさんで造れますわ、これはこれで宝物庫にでもですわ」
うん、大事なお客様や偉いお客様が来た時だけ、
領主謁見の間でマントとこの杖を装着していたらいいかな、
これでさらに王冠があればもう立派な国王様だ、いや独立しないけれども!
「つーづきましては、ななな、と、遠くジッポンの国王様からプレゼントです!」
「直接お渡ししたいそうでやんすー」
入って来たジッポン国王夫妻とチヨマル坊ちゃん、
先導はキリィさんとモリィさんだ、坊ちゃん王妃様にべったりだな。
「うむ、我が名はヒデトク、日出(ひい)ずる国、ジッポンの王である」
あらためて来場の皆さんに自己紹介した、
その迫力にみんな行驚いてるな、頭上の変な、結った髪も気になるみたい。
「ミスト=ポークレット侯爵には返すに返し切れぬ大恩がある、
それを僅かばかり返そう、さあ、持って参れ!!」
扉から入って来たのは巨大な黒い箱ふたつ、
その側面には大きな、金色の紋様が施されている、
運んできたのはクノイチの衣装だが知らない顔ばかり。
(と、いう事は中には……!!)
「では、箱を開けよ!!」
出来たのはやっぱり!
「えっと、アサミさんとムラサメさん?!」
箱の蓋を持ち上げるとぱたりぱたりと側面が倒れ、
高速で腰を左右に振るクノイチふたり!
いやそのお約束まで誰から聞いたの、まったくもう!!
(キレッキレで腰がふたつに見える!!)
それはともかく。
「こやつらはこちらでいうアサシンとしても優秀である、
このふたつの生命(いのち)、そなたに捧げる、好きに使ってやってくれ」
「は、はいっ、ありがとうございますっ!!」
箱の蓋を置いて僕の前に跪くクノイチふたり、
こうして次々と優秀なメイド、いやクノイチをメイドにしちゃ駄目か?
ボリネー先輩の獣人といい、立派すぎる人材の贈り物は僕に余りあるな。
(まあソフィーさんたちが上手く使うでしょう)
僕がアッチに使えるのはあと数日だし。
「アサミ―! ムラサメー!」
チヨマル坊ちゃんがふたりの前へ。
「また遊びに来るからの!」
「若、ありがとうございます」
「チヨマル様との日々、決して忘れません」
ちょっと悪い事しちゃったかな、
と思ったら別のクノイチが坊ちゃんを戻す。
「ユキカ、ベニ、これからは二人に代わって頼むぞ!」
「承知致しております」「この命に代えても、お世話させていただきます」
もう後任がしっかりついているのか、安心した。
そして僕が貰ったクノイチふたりが両脇にやってきてささやく。
「これから一生、お仕えいたします」
「何でもお申し付け下さい、バレなければ良いのです、バレなければ」
な、ななな、何のコトかな?!
「さあ、ジッポンの国王御一行にはテーブルについていただいて!」
「ここからはコロシアムでは泣く、パーティー会場向けのショーでやんすー!」
こうして僕のお誕生パーティーは、
沢山のプレゼントに囲まれたのだった。
(みんな、みんな本当に、ありがとう)
こんなに良い物いっぱい貰っちゃって、
こんな僕で、返せるのかなあ……???
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