第309話 帝国に打つ手無し

「……という事で、武神ガブリエル辺境伯もご満悦でした」


 まだ居る王都別邸、

 そこで僕は弟分パーティー『マジカルリスタート』のリーダー、

 ジンくんからアルドライド北東部のダンジョン攻略を聞き終えた。


「なる程、隣国にそんな危険なダンジョンがあったなんて」

「ザッキーさんタッシバさんのパーティーや、サトリョッタさんズシさんのパーティーも

 助っ人で力になってくれて、仲間も頑張ってくれて、僕は最後にボスのトドメを刺しただけです」


 その最後が一番大切なんだけどな、

 と思いながら僕は兄貴分らしく頷いてみせる。


「前衛の二人も頑張ってくれたんだよね、元奴隷の」

「はい、ターもゲーも山賊上がりだなんてもう誰も思ってなんかいません!」

「よし、君たちがS級パーティーになったら、その二人に苗字をあげよう」「本当ですか?!」


 もちろん他で苗字が欲しいメンバーが居たら言って欲しい。


「あーでも」

「何か問題でも」

「ターもゲーも、神官の女性に婿養子に入るとかなんとか」


(あー、じゃあ教会名だかの苗字が貰えるんじゃ)


「んー、じゃあ何か勲章でも考えるかな」

「えっ、いいんですか?!」

「もちろん国王陛下を刺激しない範囲でね」


 フォレチトンのローカル勲章なら許して貰えるだろう、

 あと本当にS級になったならそれこそ陛下に騎士爵位を頼むだけ頼んでみてもいいし。

 ただ確かこういうのって、代表して貰えるのリーダーだけだったりするんだよなぁ。


「それでボス倒した後はどうなったの?」

「はい、サンとノウの僧侶ふたりで魔界への渦を封印して、

 ソフィー様からお預かりしたアイテム袋へ入れて先ほど、お渡ししました」

「あーうんありがとう、よくわからないけどアレ、集めてるらしいんだよね」


 これでアルドライドから見た北西、北東、南東の大きなダンジョンは

 封印もしくは魔界への渦の回収に成功したのかな、後は南西か、誰が行くんだろう。


「それであの、そろそろ僕たち、この大陸を離れようかと」

「えええええ、海を渡っちゃうの?!」

「はい、やはり僕たちは冒険者ですから」


 となると戻ってくるのは年単位、

 下手すると十年単位とかだってありうる。


「さ、さっき前衛ふたりが婿養子に入るとか言ってたのに?!」

「そうですね、でも恋人は理解していますし、子供さえできればあとは自由で良いらしいですよ」

「それは物わかりが良いというか何というか、ひょっとしてジンくん達も?!」


 ウンウン頷いている。


「そっかー、それでどこへ行くの」

「大陸東のチュカパイ、そのさらに海を越えた東にジッポンという国があるそうです」

「あー学院で拾った小説で読んだ事あるな、色々と神秘的な国だよね」


 あれ、実在してたんだ!!


「さらにそこから東の海を越えた、海の孤島ワイハーにも行ってしまおうかなと」

「うん、海を渡るのは大変そうだけど、行く時が来たら教えてね」

「少なくとも領主様の結婚式までは居ますよ!」


 あと2カ月も無いけれど。


「ありがとう、君たちも旅立つ前に結婚式は」

「形だけでもしようかなと」

「そっかそっか、うん、それはした方が良いね」


(こっそり参加して驚かせよう)


 といった会話が終わって入れ替わりでリア先生がやってきた。


「帝国から来た貴族はみんな落ち着いたようだ」

「うん、とにかく安全は保障してあげないとね」

「そこで出てくる直前までの、帝国の情報を聞いてまとめてきた」


 おお、書類にしてある!

 僕は隣のキリィさんに受け取らせる。


「それで、そのまとめを、まとめて言うと」

「……そうだな、一言で述べると『帝国に打つ手なし』だそうだ」

「ですよねえ、帝国自体が大きいから、あの規模の国に味方になる隣国があっても、たかが知れていそう」


 ゴーレムも二体とも、頑張って暴れてるみたいだし。


「これは予測だが、一番あてになる仲間がもう使い物にならないようだ」

「えっ、味方って?!」

「いいか、これはあくまで予測であり予想であり、時と場合によっては妄想とも言えるのだが……」


 なんだかややこしいが、とりあえず聞こう。


「帝国のその味方って、どこの国ですか、ひょっとしてアルドライドの一部貴族?」

「いや、はっきり言ってしまえば……魔物だ」

「あーーー、はいはい、そんなこと確かに言っていましたねえ」


 スタンピードは魔物と手を組んでやってたんじゃないかっていう。


「まず帝国奥地にあったドラゴンの棲家だが、綺麗さっぱり消滅している」

「だ、誰がやったんでしょうねえ、そんなドラゴンの棲む火山を消し飛ばすとか」


 まさかそんな8歳児が居るとは、ねえ。


「さらにスタンピードが起きる予定だったダンジョン自体、行方不明だそうだ」

「だそうだ、って行方不明にした瞬間を一緒に見たじゃないですか」

「まあな、いま帝国の奴らは残された時間で目一杯あがいている、そんな状況だ」


 降参する事もできず、

 かといってアルドライドに攻め込む余裕も無く、

 時間が経てば経つ程に追い込まれていく状況で打つ手なしとは。


「じゃあ、後は帝国が死滅するのを待つのみですか」

「だと良いが、死に際というのはヤケになって何をするかわからぬ」

「監視は引き続き必要ですね、わかりました、リア先生も引き続きお願いします」


 まだ名目上は騎士団長様だからね、

 忙しいのを押し付けて申し訳ないけれども。


「ミストにお願いされなくても陛下に頼まれているからな」

「さ、さようですか、ごめんなさい」

「謝るまでしなくて良い、確かにミストのためにやっている事でもあるからな」


 ……リア先生にもご褒美は必要だな。


「リア先生、結婚式が終わったら、僕に目一杯、甘えて良いですからね!」

「……ミスト、いいか」「はい、なんでしょ」


 まーた僕の頭を掴まれるかなと思ったら、

 おでこにチュッとキスをされた。


「気持ちは嬉しいが、十年早い」

「あっはい、そうでした」

「ま、十年後に同じような事を言われても、十年早いと言うだろうがな!」


 そして間は詰まらない

  だめ貴族だもの。 ミスト


「それでリア先生、ジンくんの話で思ったんですが」

「なんだ、どうした」

「アルドライド南西にも大きいダンジョンとかあるんじゃないですか?

 もしあれば、そこの攻略はどうなっているのでしょうか」


 王都別邸にも壁に貼られている大陸地図、

 その南西の方を見るリア先生。


「このあたりがテリトリーであるあのお方に任せてある」

「あ、あのお方っていうと」

「ミストも私も、ベルベットもよく知る人物だ」


(あーーーーー、あの肉かあっ!!)


 一瞬にして悪い表情の肉を思い浮かべたのであった。

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