第303話 エスリンちゃんと誕生日デート

「おはようエスリンちゃん、誕生日おめでとう」

「あ、ありがとう、ございます、ミスト、さん、おはようございます」


 結婚式まで2か月を切って、

 今日はエスリンちゃん16歳の誕生日だ。


(今日は朝、この待ち合わせまで会わないようにしていたんだよな)


 ちなみに待ち合わせ場所は女神像噴水前、

 そう、領主お仕置ベッドの前だ、だってここがいいってエスリンちゃんが!

 何か意味があるのだろうか、もちろん観光客の有名な待ち合わせ場所ではあるけれども。


「エスリンちゃん、その、その服、かわいい」

「ミストさんも、かっこいいですよ、本当に」

「あっはい、ありがとう」


 こうしてあらためてデートするとなると、

 緊張するっていうか、ぎこちない、でもすぐ慣れるはず。


(エスリンちゃんの可愛い服、なんとなくサリーさんチョイスかな)


 僕の服も先日、ムスタで貰った中で一番デート向きなやつだ、

 これが領主っぽい格好かといえば疑問符が付くが、デートならまあ、わかる。


「じゃ、あらためて今のフォレチトンを、見て回ろう」

「はいっ、ミストさんっ!」


 お手て繋いで仲良しデート、

 昔の、エスリンちゃんが連れ去られる前を思い出すな、

 うん、人通りがあるから少し強めに握っても大丈夫そうだ。


「あそこに、自動販売機がありますね」

「うん、昔は無人販売所だった所、今はフォレチトンパーシブのジュース売り場だ」


 銅貨を入れて木のカップが落ち果実汁が搾られ入る、

 飲み終わったカップは販売機の上に置いておけば後で業者が洗って入れてくれる。


「これ、夏に領主邸、お城の中に欲しいかも」

「今でも、冬でも暖かい紅茶とかを入れる自販機を製作中だそうですよ」

「あっ、それ欲しい」


 と歩いていくと『旧中央街』に到着する、

 一年前まで大して人の居なかった市場だが、

 活気に満ち溢れている、これでもミストシティよりは大人しい方だ。


「朝だからかな、荷物が多いね」

「でも、でも箱の模様が、ちょっと」

「うん、怖いのもあるけど大丈夫、意外と良い肉、いや良い人だから」


 ボリネー先輩の顔が描かれた箱が積み上がっている、

 しかも三種類、絵本みたいな可愛いやつと、無駄にかっこいいやつと、

 まんま顔を映したような悪徳商業貴族顔のやつ、これでも中身に差があるらしい。


(が、詳細は忘れました、てへてへ)


 これがバーナレー商会のままだったらどうなっていたんだろう?

 今にして思えばボリネー先輩と提携して良かったと思える、

 元々はリア先生目当てだったんだけどなあのお肉様、今やどうでもいいか。


「何か買って欲しい物とか、あるかな」

「いえ、大概は自分で揃えられるので、特には」

「そっ、そうですか」


 こういう時はいらない物でも


『あれ買って~』


 ってなるものじゃなかったのか?!

 う~ん、エスリンちゃんの心を手に入れるには、まだまだか。


(でもまあ、エスリンちゃん自身を僕の所へ取り戻せたんだし)


 僕は何もしていないけれど!

 だからこそ、指輪を渡すときはかっこよくしなきゃ。


「あっちは旧領主邸、いや旧々領主邸か」

「懐かしいですね、すっかり観光施設になっています」


 僕の生家なんて観光したい人とか居るんだろうか?

 時と場合によってはゲストハウスに使っているけれども。


(人妻エルフと踊りそこねた苦い思い出が……)


「エスリンちゃん、入る?」

「ええっと、ミストさんが入りたいのでしたら」

「じゃ、いっか」


 特に何も無いからね。

 逆に僕らが居る時に観光客が来たらびっくりするだろうな。


(ええっと、次はっと)


 このままいけば今度は旧領主邸、

 つまりアメリア勇者爵邸だ、

 もうかなりお腹も大きくなっている。


「ミストさん、あそこ」

「あっ、ミストシティ行きの無料馬車だ!」


 しかも誰も乗っておらず、

 引手は見知った女性だ、うん、これは僕らを待ってたな。


「その、どうします、か」

「もちろん乗ろう、ふたりっきりで!」


 向かい合って座るとエスリンちゃんまだちょっと緊張気味、

 かといって隣りに移動したら引かれそうだ、怖がらせたくは無い。


「あー旧中央街からミストシティまでの道も広くなったね」

「はい、ただ昔からあった畑をずらしたりとか大変だったようです」


 噂をすればというか、

 自慢の畑をずらされたであろうマンタ爺ちゃんが、

 ペットのワーウルフを連れて散歩をしている。


「マンタじいちゃん!」

「おう、ハーレムうはうはスケベ坊主ではないか」

「言い方! その言い方!」


 まあ合ってはいるけれども!


「ええっとあらためてエスリンちゃんです」

「おはようございます」

「おう、たまに良く会うぞ、坊主よりもよっぽどな!」


 い、いつのまに!


「マンタ爺ちゃん、畑をずらして、ごめんなさい」

「構わんよ、フォレチトンのためじゃ、それに畑仕事が続けられるならば、些細な事じゃて」


 大人だなあ、

 さすが昔、アルドライドで十七番目に偉かっただけの事はある!

 だよね??


「あっそうだ、マンタ爺ちゃん、二か月後の結婚式には来てくれるよね?」

「領主様の結婚式じゃ、行かぬ訳にはいくまい、ただし! 目立つつもりも無い」

「そ、そんなあ、僕とマンタ爺ちゃんの仲なのにぃ」


 やさしい顔で僕の頭を撫でるマンタ爺ちゃん。


「本当に、ほんっとうに困った事があったら、ワシに聞きに来るんじゃ」

「うん! そうする」

「最もあと何年生きられるか、わからんがの!」


 そんなブラックジョークを後にしてマンタ爺ちゃんと別れた。


「……長生きして欲しいな」

「きっと、あと三十年、いえ五十年は生きていただけるかと」

「って爺ちゃん、いま何歳なんだっけ?」


 という会話の後、しばらく馬車が走るとミストシティへ到着した、

 来たは良いが馬車はどこにつけるのだろう? と思っていたら、

 合同教会の正面の着いた、観光客はすでにそこそこ入っているみたいだ。


「あっ、クルケさん!」

「これはこれは領主様」


 総司教ベルベットちゃんの補佐役の一人、

 神官のクルケさんだ、元は聖教会らしいが自由教会にも入ってくれた。


「いま、ベルベット様が面白い事をやってらっしゃいますよ」

「面白い事???」


 エスリンちゃんと一緒に行くと、

 飾り女神像の前でテーブルが設置してあり、

 ふたり、いやひとりとオーガが向かい合って肘をついて手を組んでいる。


(そして審判の位置っぽい所にベルベットちゃんだ)


「あーーーりょーしゅさまーーー!!」

「ベルベットちゃん、朝からこれは何をやっているの?」

「これはーーーアームレスリングというやつでーーー」


 ええっ、相手の腕を押して、甲を着けたら勝ちのやつ?!


「ええっと、片方の女性は」

「普通の主婦さんでーーー」

「こっちのオーガは」

「合同教会の警備、用心棒さんでーーー」

「で、この二人がアームレスリングで対決するの?!」


 お互い本気の表情だ。


(クルケさんも頷いている、どうなってるのこれ)


 あまりの状況に理解が追いつかない

  だめ貴族だもの。 ミスト

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