第238話 ムスタへと続く道

 ゴスタ南の隠し別邸へ戻ってきた、

 馬車三台のうち一台を南下する『マジカルリスタート』に提供する、

 もちろん馬車の引手付きだ。


「では領主様、行って参ります」

「うん、くれぐれもみんな無事に、ね」


 彼らがメランの国王に会うまで時間が必要だ、

 なので僕らはゆっくりムスタを目指す事となった。


「それにしてもジンくんたち、冒険者パーティーとして様になってますね」

「ポークレットファミリーを除けばフォレチトンのエース冒険者ですから」

「ミスト様、この旅も一応、ポークレットファミリーへの依頼ですわ」

「そうだミスト、いっそここナスタや南のメランでダンジョン攻略も良いかもな」


 和気藹々とした馬車、乗るのが一台になった事で六人満員である、

 実は乗り込む前にキリィさんから、


 「狭く感じるのであれば私とモリィは引手の隣か後ろの荷台に」 


 と気を使って提案してくれたのだけれど、

 むしろこのくらいの方が賑やかで良いかなと。


(よくよく考えたら馬車の中、みんな僕の婚約者と愛人なんだよなぁ)


 他所の国で、冒険者ポークレットファミリーとして客観的に見ると信じられない、

 こんな大して能力もない、自由教教祖の力で魔力は有るには有る程度の男がハーレム王みたいな、

 いやまあ、それは他人から見てもあきらかに僕は一番下だろう、僕は自分の首に手を当てる。


(再出発前、『隷属の首輪』をはめ直したんだよなあ)


「ミストくん、ちょっと気にしているようですが、それはあくまで飾りですから」

「う、うん、わかってる、ちょっと確認しただけ」


 正妻に気を使わせてしまった、仕方が無い事だってわかっているはずなのに。


(よしこんな時は……寝よう!)


 みんなの雑談に相槌を打ちながらウトウトする。


「ミストくん、今回の件が上手く行けば、褒美にマジカルリスタートの奴隷は解放するそうです」

「なるほど、それは良い考えですね」

「ミスト様、これは奴隷には前もって告げてはおりませんわ、伝えると死んでしまうジンクスのようなものが」

「へー、そうなんだ、なるほど」

「所でミスト、伯母上がもう二人目を計画していてだな」「いいんじゃないですか」


 ……会話が成り立っているようで僕は一方的に何でも返事をする、そう、適当に。


「ミストくん、愛人申請は辺境伯正式就任と同時に受け付けられるそうです」

「うんうん」

「これは大事な話なのですわ、ミスト様、準愛人も申請しておりますが、実は……」

「んー……うん……」

「ミスト驚け、準愛人が通ると同時に娘が出来る」「……わぁい……」


 なんだかすごい話が聞こえたような気もするが、さっさと寝よう……


ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ


「……眠ってしまいましたね」

「精神的な疲労もあるようですわ」

「無理もない、このまま休ませよう」

「あの、ご主人様、いっそミスト様はムスタ近くに転移テントを設置するまでヨンスタで待機でも良かったのでは」

「ヨンスタどころかフォレチトンでご主人様にお待ちいていただいた方が」


 肩にもたれ掛って眠りに入ったミストを愛おしそうに軽く抱き寄せるソフィー。


「キリィさんモリィさんはやはり愛人ですね」

「いえそんな」「私達だって、きちんと愛しています、ですから心配で」

「それもそれで愛の形ですわ」


 と言いながらミストに精神浄化魔法をかけるベルル、ミストの顔が安らぐ。


「これはデートですわ、結婚式までに、もっと沢山の思い出を作りますわ」

「だな、私とてこの手で、この剣で『ミストを護った』という歴史を作って、

 将来、齢を重ねたミストやその間に産まれた子供たちに聞かせてやりたい」


 俯くキリィとモリィ。


「……お前たちは子供を産めない身体であったな、済まない」

「いえ」「それでもこの立場は幸せ以外の何物でもありませんから」


 そんな衝撃な事実も知らず、すやすや眠り涎を垂らすミストであった。


ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ


(あれ? 馬車が止まった……?!)


 外は日が傾き始めている、

 道の先には女性の兵士が通せんぼ、

 兵隊としては合せて十二人くらい居た、

 その先はどうやら二手に分かれているようだ。


「検閲だ、荷物を見せてもらおう」


 そう言ったリア先生とは違うタイプのきつそうな女性、

 他の兵士に荷台の中を見られるがアイテム袋の中までは確認しないみたいだ、

 ソフィーさんが冒険者カードを見せると、女性衛兵が頭を下げる。


「失礼いたしました、この先は橋が壊れております、山道を抜けていただけますか」

「それは大変ですね、わかりました」


 馬車がすれ違え無さそうな細い道へと入る、

 魔物とか出てきそうだが大丈夫かな、僕らは平気でも馬が。


「ミスト様、わかってらっしゃいますわ?」

「え、なにもわかってないけれど」

「でしたらよろしいですわ」


 何だろう? と思っていたらどんどんどんどん森の中へ、

 たまに横に逃げられる場所が作られているからすれ違える所を見ると、

 まったく使っていない道では無いのだろうけれど、ちょっと不安になる。


(あーあ、日も沈んじゃった)


 前を魔石が照らして進むと広場に出た、

 おそらくここで野営しろといったエリアなんだろう、

 しかしそこをスルーして進む、ゆっくり行くんじゃなかったの?!


「ええっとソフィーさん」

「ミストくん、わかっていないようですが」

「はい」

「あれは罠です」

「あー、なるほど」


 やっと気が付いた。


「ミスト、わざわざ用意されている場所に止まるとさすがの我々も分が悪い」

「何があるかわかりませんからね」


 いかにポークレットファミリーが強くても。


「今頃、慌てているでしょう」

「ここからどう出るかですわ」


 こうして進んでいると、馬がいななきを上げたと思ったら馬車が急停車した!


(なんだなんだなんだ?!)


 馬車から降りるみんな、

 遅れて僕も出るとあたりをライト魔法で照らすソフィーさん、

 道の先には誰も居ない、と思ったら居た、上だ! しかも三人!!


「これより先は行かせません」

「とりあえず軽くお手合わせいたしましょう」

「ここであっけなく敗れるようならそれまで、身ぐるみ剥がせていただきます」


 全身を黒いローブで包んで顔も隠している女性の声、

 いかにも只者ではない感じに僕は震える。


「浮遊魔法ですか、興味はありますね」

「ですわ、是非とも教えていただきたいですわ」

「ミスト、我々は少し下がろう」


 僕の前で護ってくれるリア先生、

 キリィさんモリィさんは馬車の引手を護っている、

 そしてソフィーさんベルルちゃんに対峙する謎の浮遊魔法使い三人。


「睡眠魔法は効かないようですね」

「ですわ、ここは正攻法で行きますわ」


(いよいよ魔法バトルか、人数的には不利だが、さあどうなる……?!)


 その数分後。


「きゅ~」「むきゅ~」「うきゅ~」


 目を回して重ね合う魔法使い三人、

 意外とあっけなくソフィーさんベルルちゃんが圧勝した。


(いや、相手の魔力は半端なかったはずだけど、うちの奥さんはレベルが違った)


 レベルどころか種類が違うんじゃって程だ、

 もうここまでくるとソフィーさんベルルちゃんって人間じゃないのでは?!


(でも女神や天使じゃないんだよな、あれ? 人外じゃないとは言ってないかも)


 ということはひょっとして、

 ソフィーさんベルルちゃんって……?!


「さあミスト」

「はいリア先生」

「こいつらを剥いでくれ」

「ろ、ローブをですか」

「いや、身ぐるみ剥ぐとか言っていたからな、その言葉の責任は取ってもらおう」


(えええええ)


 興奮したらどうしよう

  だめ貴族だもの。 ミスト

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る