第215話 この婚約者陣を相手に怒る勇気
「さすがの僕も言わせてもらうよ、不正は良くない」
自分で言っておいて『何がさすがだ』と思わなくもないが、
夕食後、落ち着いてからみんなを居間に集めて今日の出来事を問う。
「ミストくん、今日はなんだか落ち着いていますね」
「……静かに怒っている、とでも言うかな」
「あら、珍しい表情のミスト様ですわね」
少しちゃかされた気もするが、構わず続けよう、
戻ってきたリア先生もメイド姿のエスリンちゃんと一緒に聞いている、
離れた所でアメリア先生が食後酒とでもいうべきか透明なお酒を嗜んでいた。
(アメリア先生もガッツリ絡んでるはずなんだけどなあ、多分)
僕は大きなため息ののち、ソフィーさんに問う。
「なぜあんな事を」
「……まず、私たちは『そんなの知りません』で押し通す事ができます」
「それは」
「でもミストくんに嘘はつきたくない、ミストくんをここにいるみんなが愛しているからこそ、
ミストくんに聞かれた事は正直にお答えします、よろしいですね?」
「あっ、はい、わかりました」
ってなんで僕が責められてるみたいになってるのー?!
昨夜の失態は置いといて、これはあくまで別の話だ!
「その上で申します、まずはそうですね、不正のテストです」
「えっ?!」
「変動オッズ制の場合、もし大量にオッズが動かされた場合、どうなるか」
「それで同じ番号を沢山買わせたと」
「そうですね、計算だけではわからない実際の動きを見てみたかったからです」
でも、それとこれとは別だと思う。
「さらに、また別の不正のテストです」
「と、いうと」
「レース中の魔法による干渉はずっと防いでいました」
「い、いつのまに」
「リアさんからアメリアさんまでの間ですね、もちろん大回りの」
そういえば僕らの席の右前と左前におふたりが警備していた、
そしてぐるりと他の警備兵も取り囲んでいたのだけれど、
魔法で妨害する奴がいないかずっと見張っていたのか。
「ですわ、ちなみにわたくしとリアお姉様も後ろの席から魔法がとばないか注意していましたわ」
「ええ、もちろん元から見えない魔法防御防壁は設置してありました、私たちの前以外は」
抜けてた部分はソフィーさんベルルちゃんが守っていたのか、
魔法防御防壁を超えるレベルの強い魔力にだけ備えていたと。
「でも肝心のソフィーさんたちがやっちゃったんじゃ」
「ですからテストですね、実際どのような不自然な動きで、どのくらいの方々が騒ぐか」
「でもそれって、テストするなら何も本番でなくても」
「何も知らない方々にどの程度バレるかというテストです」
「意外とみなさん気付きませんでしたわ」
……ひとり金貨一枚分って購入制限してたのはこのためか、
一般の観客が白金貨とか賭けてて不正ってわかったら、とんでもない事になる。
(いや、金貨一枚だって相当な額だ)
「それと、これはもちろん後付になるのですが、ミストくんのフォローのためです」
「ええっと、昨日、僕が迷惑をかけたというか不快な思いをさせた貴族の皆さんに」
「はい、ミストくんに買い方を教えてもらって、同じオークを買うと良い事が起こるかもと」
「ようは接待ですわ、あくまでも『ミスト様は今日のメインのみ豪運なので』とアドバイスしたまでですわ」
「それって、アドバイス……?!」
でも、効果はあったんだろうなあ。
とここでリア先生が話に入ってきた。
「ミスト、終わってから伺った様子だと昨夜のパーティーの失態は今日のレースでほぼ取り戻せたぞ」
「つまり、こういう形で僕の尻拭いを」
「ああ、あとはハイドロンのお嬢様の、心の傷だけと言って良い」
そういやハイドロンの、ぼっちゃんの方も僕に乗っかって8番買ってたなあ、
あのレベルの公爵家跡継ぎが金貨8枚儲けた所で、と思うけどお小遣いには十分か。
「そういえばハイドロンのぼっちゃんはベルルちゃんを諦めていないんじゃ」
「その時はわたくしも、奥の手を使いますわ」
「え、奥の手って」
「その時はその時に、ですわ」
「あっはい」
この手の『奥の手』は聞かない方がいい、多分。
「あの、ミストさん」
「エスリンちゃんは黙ってて」
「そ、そんな」
「ごめんね、でも本当に今はエスリンちゃんは入って欲しくない」
「私もミストさんの妻になります、ですからそんな、悲しくなる事を言わないで下さい」
随分と主張するなあ、
おそらくリア先生のためっていうのもあるんだろう。
「ソフィーさんベルルちゃん、こういうのはもうやめて下さい」
「はい、オークレースに関しては魔法はもちろん不正な干渉はもうしません」
「今回だけの特別なケースですわ、でもこれで今後は妨害なく行える貴重なデータが取れましたわ」
うーーーん、でもなあ。
「やっぱり僕、領主と言う立場上、みんなを怒らないといけない」
「あら、でしたら頬を叩いて下さい、遠慮なく」
「まあ素敵ですわ、怒ったミスト様に引っ叩かれるなんて、今後二度とない貴重な体験ですわ」
「ミスト、ならサリーも呼んできて良いか? おそらく漏らすほど喜ぶだろう」
「あの、ミストさん、リアお姉様をぶつなら私もぶって下さい、そうでないならぶたないで下さい」
うわーエスリンちゃん、やっかいな脅し方するなあ。
「どうするのミスト殿、ここで婚約者四人の頬を叩く勇気が貴殿におあり?」
「アメリア先生、変に煽らないで下さい」
「もちろん私も共犯よ、ただ私はぶたれたらそれが愛する人でも反射的にやり返すかも知れないわね」
もっと強い脅しきたーーー!!
「ミストくん、私を引っ叩いて話が済むならさあ、どうぞ」
「なんでしたら髪の毛掴んで引っ張り回しても構いませんことよ?」
「ミストよく考えろ、ミストが婚約者に手をあげるという意味を」
「お願いミストさん、その、お願いします、お願いします」
な、なんで僕が脅されてるみたいになってるんだよう!
ここで本当に端から引っ叩いたらどうなるんだろう、
今後、僕が別の失態をした時に、そのせいで容赦がなくなる気がする。
(そもそも今は……あ、そうか)
僕は改めてみんなの前に立って息を吸い込む、
そして大きな声で……!!
「めっ!!!!」
ぽかーんとするソフィーさんベルルちゃんリア先生エスリンちゃん
アメリア先生はお酒をおかわりしている。
「以上です、今は、サービス期間ですから」
そうして座る僕、
さすがに今回はみんなもほっと胸を撫でおろした感じだ。
「私、ミストくんの婚約者で良かったです」
「ですわ、もうこのような不正は行わない事を誓いますわ」
「ミストが度量の大きな男で安心したぞ」
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」
「う、うん、こっ、今回だけだからねっ!」
お酒をくいっと飲み干したアメリア先生がぼそりとつぶやくように言う。
「ミスト殿ってそんなに不正なく生きてきた領主様かしら?」
ぎくり
「と、とにかく! オークレース、お客さん減らないといいな」
実は奥様方が恐いだけとはとても言えない
だめ貴族だもの。 ミスト
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。