第185話 僕の居場所はどこにある
(おかしい、結局どうして僕はこうなっているんだろう……?)
真夜中、いやもう少ししたら夜明け前と言って良い時間、
僕は領主のベッドで寝ているのだが、位置関係がおかしい。
(ええっと、こういう時、本来は僕が真ん中で両脇が奥さんだよな……??)
そう、例えば第一夫人ソフィーさんと第二夫人ベルルちゃん、
この二人と同時に愛し合った時は最終的に僕が真ん中で、
奥さんは左右に抱きついてすやすや寝ていた、ベルルちゃんはたまに甘いお菓子を出して頬張っていたが。
(でも、でも今は……!!)
真ん中に第三夫人のリア先生が王様気分、いや女帝気分で眠っていて、
その両脇に主人である僕と第四夫人であるエスリンちゃんである、おかしくない?
(そしてすやすや、幸せそうに抱きついて眠るエスリンちゃん……)
恐かった、最後の方は本当に恐かった、
昨日も怖かったが今日はもっと怖くて、
あの大人しそうなエスリンちゃんが『殺す!』とか『死ね!』とか繰り返し叫び、
僕は恐怖しか感じないレベルの高笑いを聞きながら、果てながら意識を失った……
(アレだ、学院で聞いた事がある、あれは『ベッド山賊』とかいうやつだ)
普段はおとなしいのにベッドの上で豹変するという、
でも大体は男性がそう呼ばれるはずだから、女性だと『ベッド淫魔』だろうか?
いや殺しにかかってきてたから『ベッド殺人鬼』か、なんだそりゃ。
(……たくましいけど、やっぱり女性のやわらかさもあるなあリア先生)
いや鍛えた男の身体に抱かれた記憶は無いけれども!
蹴られた記憶はいっぱいあるな、嫌な事を思い出すのはやめよう。
(エスリンちゃんが遠い……)
間にリア先生という肉壁があるせいでエスリンちゃんに手が届かない、
いや伸ばせば触れるけど反対側でリア先生に抱きついている表情の幸せそうなこと、
と顔を確認したらトイレに行きたくなって寝室を抜け出す、下着くらいはつけるか。
ジャー……
トイレを済ませ部屋に戻る途中、ふとソフィーさんの部屋が気になった、
扉は無防備に鍵などかかっておらず覗くとベッドの方で夜光魔石だけがついており、
その下で妖しいふたつの人影がうごめいでいた。
「ふふふ、ソフィーお姉様」
「もう、ベルルちゃんったらぁ」
「こういうのもたまには良いですわ」
……うっわ、これって仲良いってレベルじゃないぞ、
正妻と第二夫人がベッドで絡み付いて何やってるんだか、
いちゃついているなんてもんじゃない、こ、これは……!!
(僕の所に嫁に来た理由のひとつって、まさか……?!)
下手すると僕と結婚した理由の一番はこれ、まであるかも?!
聞く機会があったら聞いてみたい気もするけど、
絶対触れちゃいけないことのような気もしないでもない。
(……そっとしておこう)
禁断のキャッキャウフフを封印するかのように静かに扉を閉め、
寝室へ戻ろうかと思ったが喉が渇いた、
もちろん寝室にも水差しはあるがエスリンちゃんの側だ、と僕は食堂の方へ。
(こっちはキリィさんモリィさんの部屋かぁ)
メイド長の部屋は専用だが、
副メイド長の部屋は一部屋にベッドふたつで、
そこにキリィさんモリィさんが寝ている。
(まさか、あのふたりまでもってことは)
ふとした好奇心のようなもので扉に手をかける、
中を覗くと真っ先に目に入ったのは、『目』だった!
「うわあっっ!!」
「……ご主人様、真夜中ですよ」
「ご、ごめんなさい、キリィさんかぁ」
覗いたら覗かれた、
見たら目が見ていた、このインパクトは心臓に悪い。
「ご、ごめん、水飲みに行こうとしてちょっと気になって」
「……夜這いでしたら早く入られて下さい」
「ち、ちがうよ、お水飲んだら寝るから、おやすみなさい!」
逃げるように食堂へ、
怖かったぁ、足音や気配で気付いたんだろうな、さすがはアサシン。
(あれだけリア先生とエスリンちゃんとやって、
この後キリィさんモリィさんとする気力体力は、さすがに無い)
お水をがぶがぶ飲んで落ち着いたら、
なんだか真夜中の散歩をしてみたくなった、
フォレチトンにしては今年の冬はそれほど寒くない、
本格的に寒くなるのは年が明けてからだけれどそれでも例年よりかなり過ごしやすい、
僕は衣服部屋へ行きちょっと着こんで外へ出てみる。
「ふう、さすがに夜中だと空気が冷たい」
なんとなく寝室に戻る気になれず、
かといってソフィーさんの部屋はアレだし、
キリィさんモリィさんの部屋に入るとアレをする流れだし、
変な話、居場所がなくなって追い出されるような気分で外を歩く。
(旧領主邸、ってあそこは今ほんっとに誰も居ないからなあ)
鍵も預かってないから多分、入れないだろう、
そうこう思いながら領主が無防備にぶらぶら歩く、
振り返っても護衛みたいなのが後をつけてない所を見ると、本当にひとりだ。
(それだけ治安が良いって事かな)
やがて到着した真夜中の市場、
もうちょっとしたら朝届く仕入れに備えた人が起きそうだけれど、
今は人っ子ひとりいない、さらに歩くと冒険者ギルド、
この時間でも出入りする冒険者はゼロじゃないだろうけれど、
ちょっと覗くと人は居ない、受付でベルを鳴らすと夜間常勤のひとりがすっ飛んでくるだろう。
(用も無いのにそれは可哀想かな)
とまあ夜中の街を彷徨って到着したのが、
噴水前の領主お仕置ベッドである、雨が降っても安心な簡易屋根付き、
その天井から僅かな光を発する夜光魔石、ベッドは本当に綺麗に清潔に保たれている、
使ってなければ誰でも寝て良いが冬だけあって誰もいない、ふと腰をかけてみる。
「あ、暖かい」
ベッドの裏に温める魔石が仕込まれてあり、
冬でもここで夜を明かすのは可能みたいだ、
喉が渇いた時はすぐ側の女神像噴水で飲めるのか。
「今夜の居場所は、ここかな」
上着を脱いで枕元へ置く。
(そういえば自由教の教会も作ってるんだよね)
噴水を取り囲む形で東に大教会、西に聖教会、
南に孤児院兼小児病棟があり、北は教会と教会を結ぶ通路だった、
でも南の孤児院が二階の空中回廊で両教会と繋がっているため、
北の通路だった所の空き地を潰してそこに自由教の教会を建設している、
もちろんそこも両教会と空中で繋げる予定だ。
(これがソフィーさんベルルちゃんの、実現したかった夢なんだよなあ)
などと考えながら僕はお仕置ベッドのシーツの中へ、
ここで眠ったら朝、誰が起こしてくれるのかな、と思いながら目を閉じる、
一番最初に気が付いて、やさしく声をかけてくれるのは誰だろう、と期待しつつ眠りにつく。
(起きた時、目の前に居る女性がきっと、僕の事を一番愛してくれている女性だろうなぁ……)
……チュンチュン、チュンチュン
(……ん?!)
朝、目が覚めると、僕はお仕置ベッドの天井から全裸で吊るされていた。
だめ貴族だもの。 ミスト
「な、な、なんでーーー?!」
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