第179話 懐かしい話や今現在のお話など
シャーーー……
(うう、ちょっと緊張する)
懐かしの狭いお風呂、いや狭いといってもあるだけマシだ、
エスリンちゃんはほとんど下着姿みたいになって僕の頭を洗ってくれている。
「ミストさん、おかゆい所はありませんか?」
「う、うん、大丈夫だけれど、お湯がちょっと熱いかも」
「調節しますね、ミストさんはお風呂は熱くない方が好きなんですね」
「んーどうだろう、季節やその時によるかな」
ひとりで入る時は熱いお風呂でサッと済ませて、
ふたりで入る時は温めのお風呂で長い時間いちゃいちゃ、なんて言えない。
「その、ミストさん、フォレチトンの変貌にはびっくりしました」
「僕もびっくりしている、九か月前まではエスリンちゃんの知ってるフォレチトンだったよ」
「ミストさんが伯爵になられたというのも、その、驚きました」
「僕も驚いているよ、何もしていないのに」
「いえ、全てミストさま、ミストさんのお手柄だとお聞きしております」
全部手柄にしてもらってるだけ、っていう事実を知らないのかな、
ソフィーさんベルルちゃんは僕のためにしている事だから僕の手柄だって言うけれど。
「耳の後ろは綺麗に洗うようになりましたか?」
「え、うん、ま、まあ」
「昔はシャワーもお水でしたものね」
懐かしいなあ、冬は部屋で濡らした布で全身拭いて終わらせた事もあったな。
「実はいまだから言えるのですが」
そう言って脇を洗ってくれる、くすぐったい。
「うん」
「メイドのオリヴィエさまとヴァネッサさまが使える魔石を隠し持っていまして」
「えっ」
「夜遅く、お湯を浴びていたようです」
「ええっと、それは母上を入れるためじゃ」
そんな訳ないか。
「口止めされていましたが、もうその必要は無いので」
「よく覚えているね」
「……実は記憶を全て消す選択肢もあったそうです、私の」
「えええっ」
「でも、ミストさまのために、いえ、ミストさんのために、残してあげたいと」
あげたいっていう事はソフィーさんベルルちゃんの意志、意向かな、
うん、確かにそれはありがたい、こうやって懐かしい話ができるのは。
「エスリンちゃん、変な事言ってもいいかな」
「はい?」
そう言いながら洗う手が下に伸びてきた、
あ、足だよね、と僕は湯船から出して向ける、
ちゃんと大事な所は隠しているよ!
「ソフィーさんベルルちゃんが、怖く感じる事があるんだ」
「はあ、私にとっては命の恩人ですが」
「そういう意味では僕にとってもかな」
足の指の間まで丹念に洗ってくれて、くすぐった気持ちいい。
「変な言い方になるけれど、エスリンちゃんには、僕の味方になって欲しい」
「えっ、あのおふたりは、敵なんですか?!」
「んー、なんていうかな、あのふたりに何もかも握られてて、手の平で転がされてて、
全てがあのふたりの思い通りにされている感じがして、僕はなんていうか……」
みじめだ、なんて言っても良いのかな。
「幸せでは、ないのですか?」
「そりゃあ幸せ過ぎて怖い感じだよ」
「愛していただいていますよね?」
「そりゃあもう、恐怖を感じるくらいに」
「それは私もわかります、怖いくらいに愛してもらう感覚は」
だ、誰にー?!
ってリア先生か、うー、嫉妬する。
(今度は膝の裏、そしてじわじわと上へ、ここから先は実況は控えるべきかな)
「僕ってどうしてこんなにソフィーさんベルルちゃんに愛されているんだろう」
「……あれだけのお方です、お相手は選び放題でしょう」
「そう、そこなんだよ、どうして、なぜ、あえて僕なのか」
「私もどうして助けていただけたのか、ミストさま、ミストさんのおかげだという事はわかりますが」
「エスリンちゃんは助けられるべくして助けられた、被害者だから」
しまった、被害者なんて言っちゃった、
と思ったが大丈夫そうだ、変な事を思い出さずに、
僕の太ももの付け根を洗う事に集中してくれているっぽい。
(あ、あくまで婚約者に身体を洗ってもらっているだけだからねえっ!!)
「ミストさん、変な例えになってしまいますが」
「うん」
「例えば貴族の階級のように、人にランクがあったとします」
「あるね、冒険者でも、学校でも」
「ソフィーさまベルルさまが最高ランク、ミストさま、さんが最低ランクだとします、ごめんなさい」
いや、謝らなくてもそうだったから。
「確かに学校では僕はGクラス、ソフィーさんベルルちゃんはSクラスだったね」
「それで、それでいくと、Gクラスの方は相手にSクラスの方を選ぶことはできませんよね」
「うん、無理だね、高嶺の花すぎる、ていうか近づく事すら許されない」
同じ空気を吸うな、まである。
「でも、Sクラスの方は、誰でも選べます、相手がSクラスはもちろん、Aでも、BでもCでも、そして……」
「Gクラスでも?」
「はい、つまり、誰でも選べるという事は、ミストさんは選択肢に入っている、入っていたという事です」
「じゃあ、なんであえてGクラスに」
「……理由はいくらでもあるのではないでしょうか」
確かに、一番の理由は教えてもらってないけれど、
それ以外の大きな理由、細かい理由はいくつか聞いた。
「でも、どうしても絶対に僕でないといけないって理由は、はわわわ」
デリケートな所を洗われているううう!!
「それはあると思います」
「うん、そしてそれを当てろって」
「なぜ自分でないと駄目なのか、を考えれば、おのずと結論は出るかと」
「えっ、エスリンちゃん、あの聖女様たちが僕を好きな一番の理由、知ってるの?!」
「教えてはもらってませんが、おそらくこうでしょうという事は、なんとなく」
エスリンちゃんでも予想つく事なのか、
と全身くまなく洗ってもらうのが終了した、
危なかった、漏れそうだった、何がとは言わないけれども。
「あの」
「は、はい」
「まだ恥ずかしいので、先にベッドで待っていただけますか、私も、準備をしますので」
「ええっ」
「私も、その、このお風呂で、洗ってから、行きますね」
(うひょおおおおおおお!!!)
くるか、ついに、もうくるのか!
ここで『じゃあ僕もエスリンちゃんを洗ってあげよう』とか言ったら、
ど変態丸出しでトラウマになっちゃうかな、ここは男らしくキリッと!
「うんわかった、無理しないでね」
「は、はいっ、身を清めて、参ります」
「じゃ、先に待ってるから」
どっきどきが止まらない
だめ貴族ついに最初の婚約者と!! ミスト
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