第113話 子爵パーティーの色々な面々

 いよいよ子爵就任式後半戦と言っても良い、

 我がポークレット家の王都別邸で行われる子爵就任パーティーである、

 僕にしては柄にもなく、来賓を迎え入れるためあらかじめ最初に入って

 全員に挨拶しようと思ったが、ソフィーさんになぜか開始時間ぎりぎりに入るよう言われた。


(そのあたりの役割はソフィーさんベルルちゃんアメリア先生がやってくれると聞いていたが……)


 入ろうとすると母上もやってくれているみたいだ、さすが血の繋がった身内。


「それではお時間となりました、皆さま、壇上にご注目ください」


 王都別邸の若いメイドの声、

 これ多分、通る声で抜擢された司会者だな。


(これで僕がスピーチすればいいのか、ってあれ? 王様がいた!)


 壇上への道の途中でしれっと王様がグラスにワインを注がれている、

 それを片手に持ちながら入ってきた僕に話しかける、みんな注目だ。


「ミスト=ポークレット子爵よ、今後も東南部の開拓、期待しておるぞ」

「ははーっ」


 と僕の返事を聞いて満足そうにワインを呑み干し、

 グラスをメイドに渡して僕が入ってきた道を去って行った……

 これで一応パーティーに参加した事になるのか、うん、十分過ぎる。


(僕が思っている以上に重い、重大なパフォーマンスなんだろうな)


 さあスピーチを、と思ったら最初に壇上に上がったのは母上であった。


「皆様、この度は我が息子、ミスト=ポークレット子爵就任パーティーにようこそおいでなさいました、

 わたくし、カジーラ領のエスメ=チュニヘルク男爵夫人でございます、

 あまり子供の晴れの舞台に親が出しゃばるのはよろしくないので手短にお話ししますと、息子は……」


 とまあ、僕が学院から帰ってくるまで母子の思い出などまるっきりないのに、

 よくもまあ褒められるなというくらい僕を褒めてくれる、いやいいけれども。

 

(こうやって親として喋ってくれるだけでも、幸せに思える)


 嘘偽りなくそう思う、そしてそれはソフィーさんベルルちゃんのおかげだ、

 だからこそ僕はこういうスピーチの場で聖女たち、奥様方に感謝を伝えたいのだが、

 それは立場的に、こういう場所では言ってはいけないとソフィーさんにきつく言われた。


(それが貴族というものか)


 僕はこのまま本当にはりぼての貴族でいいのだろうか、

 おそらく操っている聖女様たちが完璧だから許されるのだと思う。


(じゃあ僕でなくても、別にそのへんの、それこそソフィーさんお気に入りの孤児の男の子でも)


 などと卑屈な事を考えているうちに母上のスピーチが終わりそうだ。


「というわけでして、今後ともカジーラとフォレチトンを親子供共よろしくお願い致します、

 それではこのあと史上最年少で就任された女性騎士団長様よりお言葉をいただきましょう」


 お、次はリア先生か、騎士団長の正装みたいな服で檀上へ。


「アルドライド王国騎士団長リア=アベルクスだ、騎士団長になってばかりで忙しいが、

 これだけは宣言させて欲しい、ミスト=ポークレット子爵に剣を向ける者は、

 国に剣を向けるのと同じである、私はそれを決して許しはしない、絶対にだ!」


 なんだか大事件になっているなぁ、僕の知らない所で。


「なお、騎士団長になった私は最初の仕事として女性騎士団員、女性衛兵のみの、

 名付けて『アルドライド王国ヴァルキュリア騎士部隊』を編成中だ、期待していてくれ」


 うわあ凄そう、そして強そう、リア先生やアメリア先生が引っ張っていくんだろうな、

 あれ? 第三夫人と愛人筆頭じゃなかったっけ? 誰の? 僕の! 記憶が確かならば。


「さあそれではミスト=ポークレット子爵の恩師にご登壇いただこう」


 え、誰? と思っていたら恰幅の良いチョビ髭おじさんが!

 うん、まあ恩師か? と聞かれたらギリギリ許そう、って何様なんだろ僕は。


「ウッホン、グランセント王立聖貴学院でミスト=ポークレットの担任をさせていただいた、

 ピッカリ=イジューじゃ、正直、ここまで立派になるとはのう、思い起こせば入学した頃は……」


 と、Gクラスという言葉を避け、当たり障りのない挨拶が続いた、

 そのあたりはやはり教師という意味でのプロで、悪く言わず誰にでもあてはまりそうな良い事をすらすらと。


(でもまあ学院で敵か味方かといったら味方寄りだったしな、こうやって今日も来てくれたし)


 今のうちに、とアレグとメイソンの位置を確認すると、

 現役の、Gクラスの一年生女子四人と一緒に居た、仲良さそう、

 その奥にひとり男の影っぽいのがいて、あれが最後に捕まったコリーかな?

 いや悪い事した訳じゃないだろうが首は繋がっている感じだ、

 いったい何があったのかとても気になるが今はそれどころじゃない。


「……という訳で『奉仕は好きだが義務は遠慮する』の心をミスト君には贈りたい、以上じゃ」


 アレ?いますごい大事なアドバイスを貰った気がするが聞いてなかった、

 どうしよう、あとでソフィーちゃんかベルルちゃんに教えてもらおうっと。


「ではそろろそじゃな? ミスト君、来たまえ」


 来たまえときたか!

 壇上に向かうと両隣にソフィーさんベルルちゃんがつく、

 奥さんだからであって決して命を狙われた時の警備ではない、はず。


(実際狙われても、このふたりなら余裕で防いでくれそうだ)


 肩をポンと叩いてくれたイジュー先生に一礼する、

 恩師だし何より十二英雄だからね、内緒だけれど。

 壇上でみんなを見る、うん、気が引き締まる、さあ、スピーチだ。


「ミスト=ポークレット子爵です、子爵になれました、皆さんのおかげです、

 でも僕はここまでしてくれた皆さんにまだまだお返しができていません、

 つまり今、僕の、フォレチトンの力になっていただければ、

 もれなくお返しが来るというタイミングでもあります、どうか僕を、

 フォレチトンを、ポークレット家を信じて下さい、必ず良いお返しをします」


 ……とまあ後は国王陛下へのお世辞、国のために尽くす宣言を織り交ぜつつ、

 南部開拓の武勇伝(盛り盛り)やフォレチトンの宣伝とか話してシメに入る。


「それでは皆さん、貴族も平民も大教会も聖教会も、もちろん王族の方をも楽しめる、

 満足できる都市を作っておりますので何卒、ご指導ご鞭撻こ来光ゴブリン退治方法など、

 よろしくお願い致します、それでは皆さん、この後はポークレット家らしく、お気楽にご歓談ください」


 拍手に包まれる僕、

 まあ僕が言ったスピーチが正解って奥さんが言うんだし、

 こんな感じでいいよね? っていう目でソフィーさんベルルちゃんを見る。


(うん、笑顔だ)


 そうして壇上から降りると、

 司会のメイドさんが自由にしていいよこの後ダンスもあるよ的な説明をする、

 でも僕は、忙しい人たちはもうこれで帰るのでそういった人々のお見送りが先だ。


「ありがとうございました」


 子爵より偉い宰相代理とか大教会聖教会ギルドの偉いさんとか帰っていく、

 それがようやく終わるとダンスの時間、なのだがうっすら覚えている顔に呼び止められた。


「ミスト君、子爵就任おめでとう」

「えっと、Sクラスの」

「フレイディ=ヴァンヴェイルだよ」


 国王陛下に近い公爵家の!

 

「いやあ、卒業式の後に馬車で送り出した時はどうなるかと思ったよ」

「その時はどうも、お世話になりました」

「解決の力になれて良かったよ」


 握手、握手だ。


「そうそう紹介したい人がいるんだ、姉さん!」


 やってきたのは長身の金髪お嬢様だ。


「はじめまして子爵、エレイナ=ヴァンヴェイルです」


 貴族の令嬢的な挨拶ポーズを取られる、

 裾を持ち上げてチョコンっていうやつだ。


「はい、ミスト=ポークレットです、はじめまして」


 笑顔が美しい、大人だ、美人だ、お嬢様だ、

 そんな方と会話させてもらえているっていうだけでドキドキだ、

 目は離せない僕にフレイディ坊ちゃんが思わぬ提案をしてきた。


「どうかな、側室に」

「えっ誰の」

「ミスト=ポークレットくんが辺境伯になったらさ」


 あー聞いてた話はこれかぁ、

 いきなり公爵家から来るとは、

 さて、どう返そうか、断る事は確定している。


「すみません、辺境伯になってからの予定は側室含め全て決まっていまして」

「もうかい?気が早いね」

「全て緻密に計算してここまで来たので、今後もそんな感じになります、申し訳ないです」

「ですってお姉様」

「残念ですわあ」


 うん、正直言って僕にはもったいないというか、

 僕自身には何の価値もないから目的は明白というか、

 でも本気で政略結婚を考えてくれているならフォレチトンの未来は約束されているのだろう。


(すなわち聖女様の能力が確かって事なんだけれどね)


 僕の両隣で黙って聞いていたソフィーさんベルルちゃんが僕に腕組みしてきた、

 それが無言の返事なんだろう聖女様なりの、うん、やや嬉しい。


「こんな感じなので」

「わかったよ、でも資金は出してるし、良い関係は続けさせてもらうよ」

「それはもちろんです、今後ともよろしくお願いします」


 話しが終わった頃合いでダンスの時間だ、

 次々と僕と話したい貴族が連なるのを防いでくれたっぽい、

 音楽の演奏がはじまり、最初に中央で待ち構えていたドレスの御婦人は……!


「は、母上?!」

「さあ、踊りましょう」


 照れくささより嬉しさの方が勝ってダンスを舞う、

 男爵就任パーティー以来、アメリア先生に引き続き鍛えられ、

 ようやくまともにちゃんと合わせられるダンスを覚えた成果を見せる。


「ほんと、立派になって」

「母上も、お元気になられて」

「ああ、ミスト、私のかわいい息子……」


 一通り踊りが終わると僕を抱き寄せ、

 耳元で『かわいそうに……』と呟いで母上は離れた。


(か、かわいそうって!!)


 聞き間違いでなければどういう意味だろう、

 混乱しているうちに次に来たのはソフィーさんだ。


「さ、踊りましょう」

「はい、もちろん」


 こうしてソフィーさんと踊った後はベルルちゃん、

 それが終わるとそれまで警備していたはずのリア先生が乱入のように組みついてきた。


「少しの間だけ婚約者に戻らせてもらおう」


 女性すら息を呑む美しい踊りを見せたリア先生は、

 終わるとさっさと警備に戻ってしまった、騎士服でよく踊れるよ。


(次はアメリア先生か、と思ったが見当たらない)


 僕が続いて誰かと踊る気配が無い事から、

 フリータイムになったと思ったのか来賓のみんなも踊りはじめる、

 ここがアピールとばかりに貴族の御婦人方を中心に……


(あ、イジュー先生まで! 一緒に踊っているちっちゃい女性は娘さん、いやあれ奥さんか)


「さあミストさん、私と」

「あ、はいっ! シャーロット様っ!」


 第三王子のお姫様に誘われたんじゃ断れない、

 そしてこの後も次々と接待のような感じで入れ替わり立ち代わり女性と踊り、

 ダンスもそろそろおひらきか、という所で僕は群衆の奥の奥から女の子を引っ張り出した。


「えっ? え? ええっ?」

「確かGクラスリーダーのナタリーちゃんだよね、せっかく来たんだから」

「で、でも、私、貴族のパーティーの踊りだなんて!」

「僕に任せてくれたらいいから、ね?」

「は、はいっ」


 僕も男だダンスの主導権くらい握れるぞ、

 といった感じで先導して何か形にするも、

 結構もつれる、これは勢いで誤魔化すしかないな。


「ご、ごめんなさい、私っ」

「大丈夫、だい、じょーぶ、なんです!」

「はい、はいっ」


 何とかやっつけで終わり次の子へ、

 案の定、逃げようとしていたのをキリィさんモリィさんが確保してくれていた、

 それを見て笑っているアレグとメイソン、君らも踊ればいいのに……あとひとり?知らない!


「さあ、マキちゃん!」

「お、お願いしまぁす!」


 体操の授業と思って割り切ったマキちゃん、

 他人の見よう見まねで乗り切ろうとしたマイムちゃんが終わり、

 正真正銘の最後、サラサちゃんはなんというか、脱力した人形みたいだった。


(ふう、終わった、これで彼女たちに良い思い出が残るといいな)


 そんな僕の気持ちとは裏腹に、

 Gクラスの女の子たちはダンス酔いで顔面蒼白になっていたのだった……

   だめ貴族だもの。 ミスト


 あ、あとパーティー最後にサプライズでプレゼントボックスが運び込まれたんだけれど、

 中身が出てくるときに腰グキッてなってたから詳細は言わないでおいてあげます、

 伝説の女勇者も形無しだぁ。

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