第2話 卒業式直後の告白イベント
無事、卒業式が終わりGクラス仲間と三人で広い広い中庭に来た、
卒業式へ向かう時とは違い今度は人だらけ、卒業した上位クラスの従者が自主的に列を整理している、
アレグもメイソンも遠巻きにしか見られない、もちろん僕も……アレグが精一杯、背伸びをした。
「おいおい、今年の告白イベントは凄い人だなぁ」
「去年も一昨年もこんなにはいなかったよな、そん時は廊下から見てたけど!」
メイソンの言う通り、僕の見た前二回はこんなに酷くはなかった、
それに熱量が違う。
「やっぱり聖女様だからか……」
僕がそうつぶやいた説明をすると、このイベントは毎年卒業式の後に、
中庭にある大天使噴水の前で首席卒業者が愛の告白をする、または受けるというものだ、
なんでも第一期首席が昔の王子だったか何かで皆の前で当時の聖女に告白して幸せになったとか、
それ以来毎年続いている伝統行事らしい、去年は首席の男性が告白し、一昨年は首席の男性が告白されていた。
「まあ、ここ二年の出来レースに比べたら今回は真剣勝負らしいからな」
「えっアレグ今回のイベントについて何か知ってるのか!」
「ああ、ここ数年はすでにカップルが成立していて儀式的なものだったらしいけど、今回は違うらしい、あっサクスさん!」
アレグが呼び止めたのは確かDクラスだかのクラス長だ、
俺らGクラスにもそこそこ面倒見てくれていた。
「おお! お前らも記念参加か、手を差し出すだけの簡単なお仕事だからな」
「俺ら、頭悪いんで説明してください、今回の告白イベントってどうなってるんですか?」
「んーできるだけ簡単に言うと、本命がわからないんだ、だから極端に言えば誰にでもチャンスがある」
いつのまにかじわじわと列整理の従者たちに中庭の端へ追いやられるも、サクスさん(同学年)の説明は続く。
「卒業時点でSクラスは五人居たのは知ってるな?」
「式で見たっす」
「一人が首席の大聖女ソフィー=ミンスラー様、あと三人の男性がまず、ヴァンヴェイル公爵家のフレイディ様」
「あ!国王家に近い人だ!」
「次にハイドロン公爵家のエドワード様、国の東部を広く治める大領主の名家だね」
うちからはだいぶ西だけど。
「あと大商会で有名なバーナレー公爵家のフィンレー様」
「国王と教会を除けば一番の金持ちって所っすよね」
「まあそうだな、最後に五人目が冬期に滑り込んできた二学年飛び級の聖女ベルル=ヴェルカーク様だ」
うーん、誰ひとりとして会話したことがない、Sクラスは別世界だ。
「Sクラスとたまに合同になるAクラスの生徒やその従者から断片的に聞くと、どうやらソフィー様は本命が決まってないらしい」
「本命が、ってことは大体は決まってるってことすか」
「ああ、おそらくこの三人の誰かだろう、でもAクラスの生徒にも凄く親しく優しかったらしいからそこの可能性もゼロではない」
じゃあBクラス以下はゼロか、まあそうだよな。
「あ! それで誰を選ぶかみんな見たいんだ!」
「それもあるが告白に参加する事に意味があるんだ」
「えっ、記念とかじゃなくてですか?」
と、やっとはじめて話に参加できた僕。
「もちろん首席の聖女様に告白できる名誉なんて生涯これっきりだろうけど、貴族や教会や商会の者としては、僅かだけど繋がりができると言える」
「つまりどういうことですか」
「これは今回に限った事じゃないが、首席になるような生徒は当然凄い地位にある、その人に『正式に告白して振られた』という事実はある意味、相手への小さな貸しになるんだ」
あー、交渉なり何かのときに『あなた(の家)は私を振りましたよね、だから今回は』みたいなか、
頭悪くて具体的に言えないけど。
「もちろんそう何度も使える貸しじゃないし無視されても普通なんだが、意外と使える時は使えるらしい」
僕にそんなの使える時あるのかな?
ないだろなあ、あるわけがない。
「でもサクスさん、俺ら三人とも準男爵家ですぜ、俺らに告白する意味あるんすかね」
「それはお前たちで決める事だが、そもそもお前たち準貴族は貴族未満だから、まあないな!」
「そんなぁ! 準男爵って言っても男爵になる予定が一応あるって事になってるから卒業したのに!」
「この小さな貸しで爵位を上げてもらうまでは無理だろうな、俺んとこのボロい教会なら少しは修繕費が早く来るかもだが、おっと主役が来たようだ、じゃな」
いつのまにか聖女ソフィー様が噴水の前に来たようだが人垣で姿が見えない、
かろうじてアベルクス先生の頭頂らしきものが見えた、警備でもしているのだろうか?
仕方ない、怒られるの覚悟で花壇の上に立とう、もうどうせ卒業したし……うん見えた、
学院服から綺麗な服に着替えたソフィー様、前には先生、横にあれは、ベルル様か、残念だが胸までは見えない。
「皆よ、よく聞け! ただ今より百二十六期生の首席卒業、ソフィー=ミンスラーよりまずは話がある! 心して聞くように!」
先生の声で中庭がとたんに静かになる、これだけの人数で静かだと怖いな、エリアサイレントの魔法でもかけられたみたいに。
「皆さま、今回は私ソフィー=ミンスラーに告白していただけるという事で光栄に思っております、が、条件があります、以下の方のみ告白してください」
お、これは早々に脱落するやつだ!
Bクラス以下はカエレ! とか侯爵またはそれに準ずる地位以下はお断りとか。
「私は大教会の聖女です、ですから軽いお付き合いから、というつもりはありません、本気で一生を添い遂げていただける方に、プロポーズをしていただきたいのです」
つまり、好きですつきあってください、
ではなく結婚してくださいって言わないと駄目ってことだな、
うん、これはさすがに僕でもわかる!
「プロポーズを受諾した場合、そのまま私を連れて帰っていただきます、
家訓により嫁に出る時は今着ている一番質素な服しか持参できません、
ミンスラー家との繋がりもなくなります」
えええええあの服で? どこぞの令嬢がパーティー行く服より綺麗だぞ?
シンプルといえばシンプルと言えなくもないが装飾もそこそこあるし……
家訓かぁ、その身ひとつで嫁に行けってことか、あれ?
家との繋がりがないってことはさっき聞いた告白特典も無しってことか?
よくわかんないけど。
「最後に、結婚していただける方にはとある重要な魔法をかけさせていただきます、
内容は言えませんが将来いつかはお話します、
どんな魔法でもかまわないという方のみお願いします」
怖いな、効果の知らない魔法をかけられるなんて……
でも聖女様なんだから変な事はしないはず、まあ関係ないけど。
「では告白の方を、よろしくお願いします」
さささっと聖女の前に並ぶ三人のかっこいい男子たち、
あれが同じSクラスの仲間なんだろう、まず最初に手を差し出したのは・・・?
と、ここで僕は警備中の、おそらく誰かの従者に花壇から引きずり下ろされた、
あとは声だけ聞こう、横を見るとメイソンは少しあくびをしてら、
僕も徹夜明けで眠い。
「フレイディです、三年間貴女と共に学べた事、誇りに思っています、これからは生涯賭けて、護らせてください! お願いします!」
少し間をおいてプロポーズは続く。
「やっとこの日が来ました……エドワード=ハイドロンです、これからも君にはやさしくエドと呼ばれ続けたい、結婚しよう」
あーなんとなくこの雰囲気、空気感はこの人で決まりかな、うん、僕の直感がそう言ってる、今からでも賭けられないかな。
「……バーナレー大商会のフィンレーです、生涯不自由はさせません、なんでもします、なんでも買い与えます、よろしくお願いします」
金か? やっぱり金か? 聖女さまもやっぱりか?
さっきの話だとほぼ持参金なしで嫁入りするみたいだし!
「「「「「よろしくお願いします!!!!!」」」」」
遅れて一斉にあがる声、これはあの三人の後ろに並んでた二列目の男たちだろう、
多分Aクラス、ひょっとしたら下級生のSクラスも混じっていそうだけど……
そしてようやく僕の視界に入る三列目・四列目の男たちが無言で手を差し出す、ああこれは大体ルールというか順序作法が前もって行きわたっていたんだな、
六列目か七列目の僕たちには当然そんな話はこないけど! さっき親切に説明してくれたサクスさんも手を出してる、
他にも若い先生や上の卒業生ぽいの、学院とはまったく関係なさそうな知らない大人もいるな、誰でも参加していいのか……
隣りを見るとアレグもメイソンも形だけといった感じで手を出し、その向こう隣りには妙に小ざっぱりした用務員のお爺さんが一輪の花を差し出している、
よし、一番最後になるが僕もうつむきながら右手を出して……
ゲシゲシッ!!
手を出したとたん、さっき僕を引きずり下ろした誰かの従者に蹴りを入れられる!
しかも何度も何度も……これはさっきの罰則か何かか?
痛いけど声を押し殺して我慢、我慢……
……ずいぶん長いな、蹴りもだが沈黙も……これいつプロポーズ受けるんだ?
もう抱き合ってたりして、ちょっと顔を上げるかな……?
きゅっ
突然、腰への蹴りの痛みとは別な感触が手の平に繋がる、
やわらかくも強さのあるそのぬくもりは僕があまり体感したことのない女性のものか……
何事かと前を向くと、どこからどう入ってきたのか目の前に満面の笑みの聖女様がやさしく声をかけてくれた!
「そのプロポーズ、お受けいたしますわ」
ええええええええええええええええええ?!?!?!?!?!
徹夜明け、首席卒業の聖女様に告白を受けてもらう幻を見た
だめ貴族だもの。 ミスト
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。