第61話

 ふみ小林こばやしに、鞄の中にあった大学ノートとボールペンを手渡した。


「ふむ、では説明しよう。三つの教室を使って作られたこの奇妙な暗号の答えはズバリ、豆腐図式とうふずしきだ」


「……豆腐図式ィ?」

 ふみ香の隣で白旗しらはたがポカンと口を開けている。


「この暗号を解くには、ある程度将棋の知識が必要になる。豆腐図式というのは盤面にのみが配置された詰め将棋のことだ。の『と』との『』の語呂が名前の由来だ」


 ――なるほど。

 豆腐図式だから豆腐が教室に配置されていたということか。


「そこまでわかってしまえば、後は簡単だ。クラスの教室を将棋盤に当て嵌めて、三年二組は『3二』、二年三組は『2三』、一年一組は『1一』をそれぞれ表している。そしてさっきも説明したが、盤面に配置される駒はのみだ」


「あッ!!」

 白旗が声を上げる。


「トマトジュースがかけられた赤い豆腐には、何もかけられていない白いままの豆腐には、玉子豆腐にはを当て嵌めれば完成だ」


 1一玉、3二と、2三歩。


 小林がノートにスラスラと図を書いていく。


 そこには簡単な詰め将棋ができていた。


【図A】https://kakuyomu.jp/users/kurayamizaka/news/16817330662287178892

「……ふん、お世辞にも良い問題とは言えない出来だな。まァ、あまり凝った詰め将棋を作られても、それはそれで自己満足に過ぎないわけだが」


「……あのクマのぬいぐるみと豆腐が詰め将棋の暗号になっていることはわかりました。ですが、誰が一体何の為にこんなことをしたんですか?」

 ふみ香が小林に質問する。


「おいおい、そんなの私が知るわけないだろう」


「……え?」


「私はお前たちに暗号を解けと言われたから、言われたとおり解いただけだ。何故こんなことをしたのか知りたいのなら、直接本人に訊きに行けばいいだろう」


「……直接って、小林先輩には犯人が誰だかわかっているのですか?」


「だから、そんなの私にわかるわけがないだろう。犯人が知りたければ、詰め将棋を解いてみればいいだろうが」


 ふみ香は改めて、ノートに書かれた詰め将棋を見てみる。


「……2二にを指せば、詰みですね。……あ、そうか!! 犯人は二年二組の教室に潜んでいるってことですね!!」


「ま、犯人がまともにゲームする気があればの話だがな」

 小林はそう言って、割り箸に付いたわたあめを食べきってしまう。


「小林先輩、ありがとうございます!!」


「……別に礼を言われる程でもない」


 ふみ香と白旗は二年二組の教室へと向かった。

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