第53話

 小林こばやしこえの活躍により犯人が警察に連行された後、ふみ白旗しらはたと何時もの喫茶店で、事件の反省会を行っていた。


「あの、白旗先輩、私ずっと疑問だったんですけど、先輩って賢いのか馬鹿なのかどっちなんですか?」

 注文が終わりウェイターが立ち去ると、ふみ香がそう切り出した。


「……何やねん、藪から棒に。ってか随分失礼な質問やな、オイ!!」


「いやだって、段々わからなくなってきちゃって。喜屋武きゃんさんが起こした同時多発殺人事件のときは先輩、ちゃんと推理で事件を解決できたじゃないですか。かと思えば、今回はまるでトンチンカンなことを言い出したり。白旗先輩の本来の実力はどっちなんですか?」


「……そんなもん、そのときのコンディションとか、色々あるやろが」

 白旗の煮え切らない返答。


「私、一つ気がついたんですけど、白旗先輩が事件を解決するのって、思い起こせば何時も小林先輩がいないときなんですよね。ほら、美術室で起きた『石膏せっこう像殺人事件』のときも、あの場には小林先輩いなかったじゃないですか」


「……そ、そやったかなァ。あんまり覚えてへんわ。けど俺の場合、逆境時の方が頭が冴えてきよるからな。多分、その所為やろ」


「いいえ、私の推理は逆です。


「……ギクッ!!」


「白旗先輩は小林先輩の前だと本来の実力を発揮できないのではありませんか?」


「…………」


 白旗は大きな溜息を吐く。


「……し、しゃーないやないか。小林は俺にとっての目標であり、初恋の相手なんや。小林の前で推理しとることを考えると、その、どうしてもアガってしもて、調子が出てきィひんのや」


「やっぱり。白旗先輩は小林先輩のことが好きなんですね」


「……アホ!! 好きとか、そんな恥ずいこと真顔で言う奴があるかァ!!」


 すると突然、ふみ香の背後のボックス席から盛大にグラスの割れる音と短い悲鳴が聞こえてくる。


「……な、何ごとやッ!?」


 ふみ香と白旗が慌てて様子を見に行ってみる。


「……はわわわわッ!!」


 ――するとそこには、茹でだこのように真っ赤になってソファに寝転がっている、小林声の無様な姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る