第51話

「……殺人事件だって!?」

 安仁屋あにやが驚愕の表情で小林こばやしを見ている。


「またまた、惚けないでくださいよ、安仁屋先輩。貴方がそこの女子を意識不明にしたんでしょう?」

 一方の小林は凶悪な笑みを浮かべて安仁屋を睨んでいる。


「ちょっと、探偵少女だか何だか知らないけど、安仁屋君がそんな酷いことするわけないでしょう!!」

「大体どうやって安仁屋君があの子だけを狙うことができるのよ?」

「そうよ、そうよ!!」


 安仁屋のファンガールたちが一斉に小林に抗議する。


「……おいおい小林、この状況は流石に多勢に無勢やないか? これでもし安仁屋が無実やったらリンチじゃ済まへんで」

 白旗しらはたは心配そうに小林に言う。


「問題ない。何人味方がいようが、動かぬ証拠さえ突き付けてやれば私の勝ちだ」


「……動かぬ証拠ね。そんなものがあるのなら見せて貰いたいものだ」

 当の安仁屋も、小林を挑発するかのように笑みを浮かべている。


「…………」


 ふみは頭の中で状況を整理することにする。


 倒れた女子生徒は、安仁屋を取り巻く群衆の最前列にいた。女子生徒と安仁屋の距離は約一メートル程離れていた。そして安仁屋が演奏を始めた直後、一人だけ倒れて意識を失った。

 安仁屋は白いクラシックギターを抱えているくらいで、他には何も持っていない。もしも安仁屋が犯人なら、どうやって女子生徒を攻撃したのだろうか?


「……兇器きょうきがあのギターやとすると、安仁屋は音で被害者を殺そうとしたんや!!」


「……白旗先輩がまたトンチキな推理してる。一応訊きますけど、だったらどうして倒れた子以外は何ともないんです?」


「それは」


「それは?」


「それは、被害者にとって『クリスマス・イブ』は何らかのトラウマを思い起こさせるスイッチになっとったんや!!」


「……聴いただけで意識なくすくらいのトラウマなら、この時期迂闊うかつに外出してたら命が幾つあっても足りないですよ」


「さて、前座も済んだことだし本題に入りましょう」


「ちょっと待て、誰が前座や小林ィ!!」


「兇器はそのギターの中に隠された、です」


 小林はそう言ってクラシックギターをひっくり返して、サウンドホールから何かを取り出す。

 中から出てきたのは、夏場に首から提げる小型の扇風機だった。

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