第25話

 翌日、美里みさとふみ小林こばやしこえの誘いで、白旗しらはた誠士郎せいしろうと共に学校から近い喫茶店の窓際の席に座っていた。

 ふみ香はコーラフロート、白旗はジンジャーエール、小林はオレンジジュースを注文していた。


 ここでの話題が、昨日のグラウンドでの怪死事件だったことは言うまでもない。


 甲斐かい大翔ひろとが死亡したのは、14時15分頃。突然煙草の火が燃え上がって、顔に大火傷を負う。事件発生当時は授業の真っ最中で、その瞬間を窓から大勢の生徒が目撃していた。

 甲斐はその後すぐに緊急搬送されたが、間もなく息を引き取った。


「事件発生前、グラウンドはスプリンクラーで水が撒かれとった。グラウンドは泥濘ぬかるんどって、地面には甲斐一人分の足跡しか残っとらんかったらしいで。まァ目撃者の証言でも、グラウンドには甲斐一人しかおらんかったことは間違いないけどな」


「14時15分と言ったら、五限目の時間帯だな。四限目は授業でグラウンドは使われていたのか?」


「一年がサッカーの授業で使こうとったらしい。……そっちは何か情報持ってへんのか、小林?」


「故人の甲斐大翔についてなら少し。甲斐はわざわざ全校生徒に見せびらかすように、グラウンドの中心で煙草を吸うのが日課だったらしい。学校としては当然そんなことは容認できないのだが、甲斐の父親は代議士で、これまで腰の引けた対応しかしてこなかったそうだ」


「……何やそれは? 親の権力を笠に着て非行に走るとか、一番ダサいやつやないか」


「それは兎も角、甲斐がグラウンドで煙草を吸うことは学校関係者なら誰でも予想できることだった。そして彼を疎ましく思う人間も大勢いた」


「何や小林、お前この事件、殺しやと考えとるんか?」


「……そういうお前はどうなんだ、白旗?」


 小林声と白旗誠士郎。二人の探偵は向かい合って、互いに笑みを交わしている。


「…………」

 ふみ香としては、もっと和やかなお茶会がしたかったのだが、一度始まってしまってはもう止められない。


「……でも、この事件って警察もまだ殺人事件か事故かすら判断できてないんですよね? そんな事件、どうやって推理するんです?」


「アホ、せやから面白おもろいんやないか。警察でも解明できてへん謎を俺と小林、どっちが先に解くかの勝負や」


 白旗はさも自分と小林が対等であるかのように振る舞っているが、実際には戦績で小林に大きく水をあけられている。


「小林、悪いが今回は勝たして貰うでェ」


「……今回は何時になく強気だな、白旗」


 すると白旗はニヤリと笑って見せた。


「ふん、そりゃ強気にもなるわ。何せ学園一の名探偵のお前より先に犯人の使つこうたトリックに気が付いたんやからのう」

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