第11話

『ごめんね色々連れ回しちゃって、つまんないでしょ?』


 店を出るとステラに謝る。かなり退屈だったはずなのに文句を言わないので少し申し訳なくなっていた。


「大丈夫だよ」


『いい子だね、夕食は美味しいものいっぱい食べさせてあげるからもう少し付き合ってね』


「うん!」


 日用品売り場で洗剤や石鹸等を買い女性専用の服が売っている店へ行ったのだが……。


 バタン! 


 ドアから出てぐったりと項垂れる俺はこの店に入った事を後悔していた。


(うぅ、地獄だったよ……あの服屋め人をマネキンの様に色々着せやがって! 酷い目にあったよ)


 若い店員の女性につかまるとキャアキャア言いながら次々と服を着せられもうめんどくさいとコーディネートされた服を全て買ってしまったのだった。


 買い物も終わりご飯を食べに高そうな店に入っていく、理由は個室がありそうだから。


 案の定個室があるというのでそこに決めて中に入る。


 メニューを持ってくる女性におすすめを聞くと見事に一番高いコースを勧められた。


 迷ったが写真がないのでどんな料理か分からず高いから美味しいだろうとそれに決める。


(今日でかなりのお金を使った気がするな、あんな大金を貰って金銭感覚が狂いそうだ)


 いきなり1000万ラナを受け取り1日で150万を使ったのを確認すると少し反省した。


 食事を終えて宿屋に帰ると早速さっき買った寝巻きを2人で着てベッドに入っていった。




「エレナお姉ちゃんおはよう!」


『うーんもう朝かぁ、ステラおはよう』


 昨日帰りにパン屋を見つけて買っておいたパンを食べた後ステラに話しかけた。


『ステラ、今日は冒険者ギルドに行ってから食材を色々見て周りたいんだけどいいかな?』


「分かった!」


 出かける前にアクセサリー屋で買ったネックレスのチェーンを取り出しマナの結晶石を付けた。


 あの白竜から出た虹色に輝く石だ。


 ネックレスをかけ少しマナを流してみると結晶石からマナが体に流れてくる。


(おお! 凄い量のマナだ! でも何だろう人の意思のようなものを感じる……)


「早く行こー!」


 結晶石から流れるマナに何かを感じていたがステラに声をかけられると『まあいいか』と呟いて部屋を出て行った。


 じー じー。


「可愛いなぁエレナちゃん」


「美しい……朝から幸せな気分になれる」


(今日も周りの視線が凄いけど気にしない気にしない!)


 周りの視線をかいくぐりギルドに着くと昨日の受付嬢が空いていたのでそこに向かい話しかけた。


『昨日はお世話になりました』


「いえ、今日は登録ですか?」


『はい、後できれば色々説明して頂けると助かります』


「分かりました。聞きましたよ別の大陸から来られたそうですね」


『はい、なので世間知らずでして』


「では登録の手続きをしますね」


 そう言われると金属のカードを渡された。


「と言っても簡単な手続きだけです。その冒険者証に名前を書くだけであなたの物と認識されます」


(それだけなのか……助かるよ色々情報を書くものと思っていたから安心した)


「やりたい依頼をあちらの掲示板から探して貰って冒険者証と一緒に受付に持ってくれば大丈夫です」


(何かブレイズファンタジーのサブクエストみたいで手続きも簡単そうだ)


「一応ランク付けもしていますけど依頼の達成数などで上がるのでそこまで重要視はさせていませんね」


『分かりました。ありがとうございます』


(今日は受けないけど依頼がどんなものか見てみるか)


 説明が終わるとステラを連れて掲示板の方へ歩いて行く。


 掲示板には沢山の紙が貼り付けられているのをひとつずつ心の中で読んでいった。


(なになに動物だか魔物だか分からないけど討伐の依頼に護衛の依頼と採取系の依頼もあるな……あ、お店の手伝いの依頼もある。まさにここは何でも屋だな)


 掲示板を食いつくように見ていると後ろから女性の声で話し掛けられた。


「こんにちは、あたいはアステシアだよろしく」


「わ、わたしはユーリアですぅ! 初めまして!」


『エレナです初めまして』


「あんた冒険者になったんだね。どう? うちらのPTに入らないかい?」


 アステシアと名乗る可愛い顔に似合わないたくましい体つきをしている女性が俺を勧誘してきた。


(どうしようかな……まだやる事多いしなぁ)


『すいませんまだ活動を始めるのは先でして、この子の両親を探すのを優先してるんです』


「そう、じゃあどこのPTにも入らないんだな?」


『そうですね』


「ならいいや。皆んなあんたを狙ってるから先手を打ったってわけ」


『え、どう言う事ですか?』


「ふふ、分かるだろ? あんたの様な綺麗な子ほっとける訳ないじゃん! 特に男共は見た目で狙っている人が殆どだけど!」


 アステシアさんは周りでジロジロと俺を見ている男冒険者達を見て大きな声で言った。


 それを聞いた男達は視線を逸らす。


 俺は男とパーティーを組む気になれなかった。

 

(分かっていたけどゲンナリするな……常にイヤらしい目で見られたりするんだろうな、気持ち悪い……中身が男だから尚更だ)


「でもあたい達は違う! 昨日ギルド長室に入って行ったところを見るとあんた只者ではないね」


 アステシアさんがそう言うと後ろのユーリアさんもうんうんと頷いている。


「こう見えてもあたい達ランクも実力も結構上なんだぜ?」


 そう言うだけあって確かにふたりの装備は今言った事が嘘では無いと納得するくらいの強そうな物に見えた。


「もしもその子の親が見つかったら考えてなPTの事」


(まあ男とPT組むよりこの2人の方がいい気もするけど、しかも2人とも可愛い顔してるし)


 そうも思ったが俺は料理が第一優先だ、資金調達用に依頼を受けるつもりなので別にパーティを組まなくても問題はなかった。


『分かりました。ではこれで』


「時間取らせて悪かったな」


 アステシアさん達と別れギルドを出ると沸々と気分が上がってくる。


(いよいよ待ちに待った食材を見に行けるぞ!)


 はしゃぐ気持ちが手を繋いで歩いているステラにも伝わったのか笑顔で話しかけてくる。


「エレナお姉ちゃん嬉しそうだね!」


『そうなんだよねー』


 嬉しそうな顔をしながら市場がある場所に向かった。


(まずは色々な食材の味をみたいな、次に調味料と小麦粉、大豆に動物の乳が欲しいな……この世界に米なんてあるのかな)


 それから数時間後……。


『いやーいっぱい買ってしまった』


 俺は気になった食材をひたすら買い漁ると満面の笑みで市場を出て行った。


(やっぱり楽しいな! 夢中になりすぎて時間を忘れて買い物をしてしまった! ステラにはまた付き合わせちゃったな)


 帰りに本でも買ってあげようというわけで本屋にやって来るとステラには子供向けの絵本を何冊か選び、俺も料理の本があったので買う。


「あはは!」


「まてー!」


 子供の元気な声が聞こえて足が止まった。


 宿屋に帰る途中で教会と思われる建物を見つけると建物の前では子供達が元気に遊んでいる姿が目に入った。


(ギルド長が言っていた孤児達かな?)


 子供達と一緒に遊びたそうに羨ましそうな顔で見ているステラに声をかけた。


『ステラちょっと教会に寄っていいかな』


「お祈りするの?」


『そうだねステラがお父さんお母さんに会えるようにね』


「私もお祈りしたい」


『じゃあ行こうか』


 教会の扉を開けて中に入ると白いローブに身を包んだシスターらしき人がやってくる。


「ようこそおいでくださいました」


『お祈りをしたいのですがいいですか?』


「どうぞこちらへ」


 祭壇の前に立つとステラの両親の無事を祈る、隣でステラも同じ様に祈っていた。


『あの、これはお布施です』


 お祈りが終わり金貨の入った袋をシスターに渡すと驚いた声を上げた。


「こんなに! ありがとうございます……孤児の子が多く運営も苦しくて……助かります」


『外で遊んでいるのは孤児院の子ですか?』


「はい、皆親を魔物によって失った子達です」


 俺は孤児達を見たとき何かしたいという思いが芽生えていた。


『孤児達は育った後どうするんですか?』


「17になるとそれぞれ冒険者ギルドや街の店へ働きに出ます……でも教育が充分でないのであまりいい扱いはされません」


(格差か、どの世界でもあるなこういう話は……俺に何かできる事はないかな少し考えてみよう)

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