煙草

藤咲ひかり

煙草

私はふと煙草たばこの香りを感じて目を覚ました。

香りがしたほうに目を向けると彼女が窓を開けてサッシにひじを置きもたれながら煙草を吸っているのが目に入った。


彼女はよく私を気遣って煙草をやめようかと聞いてくる。

でも私はそのたびにやめなくていいよと返す。


だって私は彼女の煙草を吸っている姿が好きだから。

煙草を挟んでいる長くて綺麗きれいな指。

そっと煙草をくわえて静かに煙を吐く綺麗な桜色の唇とその仕草。

煙草を吸っているときの彼女の、どこか遠くを眺めている瞳。

風に吹かれてなびく艶やかな美しいショートボブの黒髪。


煙草を吸っている際の彼女の仕草やその表情がたまらなく好きでつい見惚れてしまう。

普段から落ち着いた性格の彼女が煙草を吸っているときはより一層、大人に見えてとてもかっこよくてまた好きになる。


私はそっとベッドから降りると、彼女に近づきそっと後ろから抱きしめる。


「どうしたの?」

「なんだか目が覚めちゃっただけ」

「そっか」


そういうと彼女はちょうど吸い終えた煙草の火を灰皿に押し当てて消すと、こちらに体ごと振り返り私を抱きしめてくれた。

私は彼女の胸に顔をうずめ、体温と心臓の穏やかな鼓動を感じながら鼻から息を深く吸った。


彼女の暖かい匂いと一緒に澄んだ静かな夜の香りとさっきまで吸っていた煙草の匂いが鼻腔びこうをくすぐる。

私の大好きないつも私を安心させてくれる彼女の匂い。


「臭いからあんまりがないで」

「いい匂いだよ?」


彼女がこちらを気遣うように優しく促す言葉に首を振って否定する。

すると彼女は困ったように笑うと私の頭を優しく撫でてくれた。


暖かい手が私の頭を何度も優しく撫でる。

顔を上げ彼女の顔を見ると、彼女の瞳がとても大切なものを見るような愛おしそうな瞳をしていている。

そのたびに私の心が温かくなる。

再び私はこの幸せをかみしめるように彼女の胸に顔をうずめた。

そうして温かさと幸せを感じていると、どこかに行っていた眠気が再び私を襲う。


「ほら、ちゃんとベッドに行って寝よ?」


そんな私の様子を見て悟ったらしい彼女は私の頭を撫でていた手を止め優しく私の背中をたたいてそう言った。

私が彼女の言葉に頷くと彼女は私の手を取ってベッドまで歩く。

彼女に連れられてベットに行き横になると彼女も私の隣で横になり、私の上に布団をかけてくれる。


「えへへ」


彼女のその優しさが嬉しくてつい笑みがこぼれる。

すると彼女は微笑みながら私の頭を優しく撫でておでこにキスをしてくれた。


「むぅ、おでこだけ?」


私は眠気にあらがいながらむくれたように尋ねると彼女は苦笑しながらも私の唇に優しくキスを落としてくれる。

唇から彼女の吸っているハイライトの香りを感じた。

彼女がキスをしてくれたことが嬉しくてたまらなくてもっと彼女と触れ合っていたかったけれど眠気がいい加減限界に来ていた私は彼女を抱きしめて眠ることにした。

そうすると彼女もこちらを抱きしめ返してくれた。


「おやすみ」


私を抱きしめながら彼女が私の耳元でそっとささやいた。

彼女を抱きしめたことで先程よりもうすれた煙草の香りと彼女の香りが混ざった大好きな匂いを感じ幸せに包まれながら私は意識を手放した。


意識を手放す直前にまぶたに彼女がキスをしてくれたのを感じて私は笑みがこぼれた。

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煙草 藤咲ひかり @FujinoHikari

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