第81話 アフターエピソード(2)モレイオス男爵の罪

 リュージと青年リーダーのラッセルが、そんな情報のやり取りをしてから約2週間。


 その間にリュージはモレイオス男爵の動向を調べ上げていた。

 ラッセルからもらった情報をもとに、アストレアにも協力してもらいながら徹底的に調べ上げ――徹底的に調べ上げるまでもなく、モレイオス男爵は完全に真っ黒だった。


 王都の各地に私兵を集めてクーデターを起こそうと計画していたのだ。


 今もモレイオス男爵邸にて大絶賛、秘密の会議の真っ最中だった。


 神明流・皆伝奥義・六ノ型『さくの夜ナギ』によって『気』を極限まで低下させたリュージは、新月の夜に風が凪いでいるかのごとく、気配を完全に消して屋敷に忍び込むと、天井裏に潜んで聞き耳を立てていた。


「戦力は相当に整いましたな」

「我らの手勢もいつでも行けますぞ。この国を我らの手に正しく取り戻すのです」


「我ら伝統ある古き良き貴族の領地を奪い、高貴なる身分を剥奪するなどしおってからに……あの生意気な小娘には目にもの見せてくれるわ」


「なんでも御前会議に平民を呼び、発言を許可していると聞き及んでおります。平民に政治参加させるなどあるまじきことですぞ」


「まったくだ、断じて許せん」

「国家と政治をいったい何と心得ておるのかあの小娘は」


「くくっ、だが顔は実に美しいではないか。捕まえた暁にはワシの逸物をあのおしゃべりな口につっこんでひぃひぃ言わせてやろうぞ」


「おおっ、それはよいですのぅ。ぜひ私も混ぜていただきたく。ふひひ、2本刺しといきましょう」


「ではワシも」

「3本刺しですな」


「これは夢が広がりますな」

「ククッ、広がるのはあの娘の穴でしょうや」


「ははっ、これは上手いこと言いますなぁ」

「なーに、これが詩心と言うものです」


「ではその時には、3本刺ししながら優雅に連詩としゃれ込みましょうか」

「おおっ! それは興が乗りそうですなぁ!

「きっとよい詩が紡げますぞ」


「よいですなぁ。よいですなぁ」

「あっはっは」

「おっほっほ」


「はい、お前ら全員アウト」


 いつの間にか音もなく部屋の中に降りたっていたリュージが、ここに集まった謀反人たちのあまりの愚物っぷりにため息をつきながら言った。


「なっ、何者だ! 名を名乗れ!」

 突然部屋の中央に現れたリュージに、座長であるモレイオス男爵が指をさして怒鳴った。


「テメェらに名乗る名前なんざねぇんだよ。でもまぁクロノユウシャと言えば、今から何が起こるかは、そのバカな頭でも少しは理解できるかな?」


「クロノユウシャだと!?」

「昨今、世間を賑わせている義賊か!」

「グラスゴー商会で一夜にて数百人斬り殺したという殺人狂だぞ!」

「まさか本当にいたのか!?」

「殺人狂の分際で偉そうに!」

「それよりもなぜここにいる!」


「なぜ? お前らの悪事を正すために決まっている。話はすべて聞かせてもらったぞ。全員国家反逆罪だ。神妙にしろ」


「ふはははっ、なにが国家反逆罪だ無法者めが! 私を誰だと思っている!」


 代表するように一歩前に出たモレイオス男爵が、高笑いをしながら言った。


「何がおかしい?」


「我こそはおそれ多くもシェアステラ王国より男爵の地位を授かったレイノルズ=モレイオス男爵であるぞ! キサマのような怪しげな無法者風情が何を言おうと、誰も信じぬわ! ええい図が高い! 物も知らぬこの下賤の民めが! とっととこうべを垂れんか!」


 勝ち誇ったように言ったモレイオス男爵だったが――、 


「奇遇だな、俺もシェアステラ王国の女王アストレアから、悪を討つ悪『クロノユウシャ』の名前を貰っているんだよ」


 リュージのその言葉を聞いて、大きく目を見開いた。


「なん……だと!? アストレア女王陛下からだと……? そうか! クロノユウシャとは女王直属の公儀隠密であったか! そう考えれば、今までのことにも全て納得がいく! 忌々しいあの女め、敵対勢力を秘密裏に殺して回っておったのだな!」


 実のところはまったく違っていて、実際はリュージがアストレアの権力を利用して勝手に復讐をしていただけだし、その対象がたまたまアストレアの政敵やら政商やらだっただけである。


 しかし敢えて説明することでもなかったので、リュージはそこについては何も言及はしなかった。

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