【改稿版】クロノユウシャ(全方位復讐譚)~最愛の姉を奪われた少年は、勇者の力を手に入れ復讐の鬼となる~「泣いて喚いて許しを乞うても、今さらもう遅い。あの世で姉さんに懺悔しな」
第80話 アフターエピソード(1)青年リーダーのラッセル
第80話 アフターエピソード(1)青年リーダーのラッセル
「やぁ、リュージ君じゃないか」
リュージが王宮の中庭を歩いていると、後ろから声がかけられた。
「ん? ああラッセルか」
リュージは振り向くと、相手の顔を見て小さく笑みを浮かべた。
ラッセルは、かつて王都動乱を起こした平民たちのリーダーだった青年だ。
それ以来リュージとはちょこちょこ縁があり、しばらくはお互いの名前も知らなかったが、今ではもう互いの名前を知り、世間話をするような間柄になっていた。
復讐を終えたリュージにはもう、親しい相手にまで名前を隠す必要はない。
ちなみにラッセルは、今は平民の代表としてアストレアの出席する御前会議にも参加が許されている――いわゆる上級平民だ――こともあって、リュージは自分の知らないアストレアの情報を得る手段として、ラッセルをかなり重宝していた。
表向きこそ恭順の意を示しているものの、あわよくばアストレアを亡き者にしようと考えている守旧派貴族は、まだ少なくない。
リュージはアストレアを守るため、常日頃から情報収集を怠っていなかった。
しばらく他愛もない話をした後、
「リュージ君はモレイオス男爵という貴族を知ってるかい?」
ラッセルがリュージにとある貴族について尋ねた。
「いや、貴族の名前なんかをイチイチ覚えてはいないな」
リュージはどの貴族かを思い出そうとして、そもそもアストレアの近くでよく見かける数名の上級貴族以外は、貴族の名前をろくに覚えていないことに思い至る。
「モレイオス男爵は宮廷貴族で、ずっと中立派の一人として行動していたんだけど、最近怪しい動きを見せていてね。アストレア女王陛下の剣たるリュージ君にも少し、モレイオス男爵の動きに注意しておいて欲しいんだよ」
「怪しい動き? どういう意味だ?」
アストレアの名前が出たことで、リュージの目が鋭い眼光を帯びた。
「先だっての内戦で、セルバンテス大公に味方したことで領地を取り上げられたり貴族の地位を剥奪された、いわゆる旧セルバンテス派の貴族の一派がいるのは知っているよね?」
「ああ、そんなのもいたな」
取り上げた広大な領地には既に、アストレアを支持する貴族たちによって新たに統治されている。
「さらにもう1つ。元・第二王女フレイヤ派で、今は要職から外されている反主流派の貴族たち」
「なるほどな。ここまで聞くだけでも、十分すぎるほどキナ臭いな」
ちなみにフレイヤはもうこの世にはいない。
最初の王都動乱のおり、散々慰み者にされたフレイヤは心が壊れて食事もとらなくなり、やせ細って惨めに死んでいったとリュージは聞かされていた。
もちろんそのことについて、リュージには何の感傷もない。
そもそも、そう仕向けたのはリュージなのだから、感傷などあるはずがなかった。
閑話休題。
「モレイオス男爵は彼らアストレア女王陛下に恨みを持つ者たちを秘密裏に束ね、さらには町のゴロツキや浪人たちをこっそりと集めているみたいなんだ」
「なんだそりゃ、まさかアストレアへの謀反か?」
「おいおい、ちゃんとアストレア女王陛下と言いなよ。不敬罪で捕まってしまうよ?」
「俺とお前の仲だろ? 細かいことは気にするな」
「全然細かくはないと思うんだけど……ま、リュージ君が歯に衣着せぬタイプなのは、今に始まったことじゃないか」
ラッセルが今、王宮に登城し御前会議で発言が許されるのは、反乱を成功させてくれたリュージのおかげだ。
リュージが悪を討つ悪『クロノユウシャ』であることも薄々と察している。
だからラッセルはリュージのことを心の底から信頼しており、リュージがアストレアの一の味方であることも理解していたため、それ以上あれこれ言いとがめることはなかった。
「それで、モレイオス男爵って奴の話の続きは?」
「状況を見る限り、僕はアストレア女王陛下に対する武力蜂起の可能性もあるんじゃないかと思っている」
「1度裏切った奴は次も必ず裏切る。この世の真理だな」
「悲しい話だね」
リュージの中に、カイルロッド皇子を殺して復讐を成し遂げて以降久しく感じていなかった強い怒りが、ふつふつと湧き上がってくる。
「アストレアの優しさに付け込み、あろうことか謀反を起こそうとするなど断じて許せん」
「念のため言っておくと、まだそうだと決まったわけではないからね? 疑わしい状況証拠は多いけれど、それだけだから」
リュージから漂いはじめた強い怒りの余波を感じ、ラッセルは慌ててリュージをなだめすかした。
「OK。とりあえず話は分かった。モレイオス男爵だったな、少し探ってみるよ。それにしても詳しいな? どうやってそんな情報を得たんだ? ラッセルは御前会議に呼ばれはしても、何の権利もない庶民のままだろ?」
「庶民には庶民の情報網ってやつがあるのさ。僕も伊達に反乱のリーダーをやってはいなかったってこと。こう見えて顔が広くてね。王都で浪人やゴロツキを集めてたらすぐに分かるんだ」
「なるほどな」
ちょっと自慢げなラッセルの言葉を聞いて、リュージはおおいに納得した。
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