第71話 大罪魔人カイルロッド=デルピエロ

「魔人って、あの魔人か? 大昔に世界を大混乱に陥れたっていう、7人の人ならざる者たち」

「そうさ、ボクはその大罪魔人が一柱ひとはしらなんだよ」


 その言葉とともに、カイルロッド=デルピエロから禍々しいオーラが立ち昇りはじめた。


「これは『気』か? いや、違う! これは──!」


 神明流の使う『気』とどこか似通った――しかし決定的に違う悪意の塊のような邪悪な波動を、リュージはヒシヒシと感じ取っていた。


「気付いたみたいだね」


 カイルロッド=デルピエロがクックッと可笑しそうに笑う。


「なるほどな。その吐き気がするほどに真っ黒なオーラ……人間じゃないってのはどうも嘘じゃないみたいだな。魔人ってことなら、さっき八ノ型『シンゲツ』を簡単に避けたみせたのにも納得だ」


「へぇ、魔人と聞いて即座にその存在を受け入れ、なおかつ動揺もしない。さすがだねぇ、勇者を継ぐ者は」


「神明流を知っているのか?」


「大昔、仲間の魔人が2人ほど、お前たち神明流を使う勇者に殺されたからね。名前くらいは憶えているさ」


「じゃあお前で3人目ってことだな」


「そうだねぇ、もし君たちが2人で一致協力して向かってきていれば、魔人の中じゃ戦闘力が低いボクは、為すすべなく討たれていただろうね。だけどね――!」


 そこでカイルロッド=デルピエロは軽くタメを作ると、人を騙して破滅に追い込んだ悪魔が、さあどうだと種明かしした時のような笑い顔になって言った。


「お前たちは事もあろうに、勇者の力を持つ者同士でつぶし合った! 生き残った方も力を使い切ってへとへとだ。これを笑わずに何を笑うって言うんだい? しかもあの強い大男ならまだしも、残ったのは弱っちい弟子の方ときた! さっきの戦いを見ていたけれど、君程度ならボクでも余裕でひねりつぶせるさ!」


「えらく自信満々だな。だったら試してみるか?」


「元よりその気さ。なにせ楽しみにしていた慰安旅行を台無しにされたんだからね。憂さ晴らしをしないと気が済まないよ。まったく、いい女を何人も用意させたっていうのに」


「なにが慰安旅行だ。また姉さんみたいに若い娘を凌辱して弄ぶつもりだったのか――!」


 カイルロッド=デルピエロのその暴言のごとき言いように、リュージの中で怒りが嵐のように激しく荒ぶっていく――!


「姉さん? 誰のことだい? 悪いけど犯した女が多すぎて、誰のことを言っているか分からないんだよねぇ」


「なんだと……?」


「だってそうだろ? 君は食べたパンの枚数をイチイチ記憶しているのかい? 病的だね、それは。あはははっ!」


「何をヘラヘラと笑っていやがる! 7年前の夏に! シェアステラ王国にお忍びで来たお前が、さらって犯して凌辱した若い娘のことだ! 俺と同じ黒い髪に、黒い瞳の! 忘れたとは言わさねぇぞ!」


「んん~? ああ、あの女か。そうか、あの女は君の姉だったのか」

「そうだ!」


「そうかそうか、あれは君の姉だったのか。つまりこれはその復讐というわけかい。なるほどね」


「やっとてめぇの置かれた状況が分かったみたいだな」


「ああ、理解したよ。そして君のおかげで思い出した。あれは実にいい女だったよ。美しいだけでなく、どれだけ犯し尽くしても、泣きながら最後まで好きな男の名前を必死に呟いていたんだからね。そう、『パウロ! パウロ!』って」


「てめぇ……! いい加減にしろよ……!」


「容姿が美しいだけでなく、どこまでも一途な心。ああいう最高の女を無理やり犯して犯して、身体だけでなくその尊厳まで犯し尽くすのは、最高に気持ちがよかっ――」


 カイルロッド=デルピエロの口から出る下種を極めたセリフに、リュージの怒りがついに頂点に達した。


「神明流・皆伝奥義・五ノ型『乱れカザハナ』!」


 最後まで言い切ることを許さず、冬に乱れ舞う風花のごとき荒れ狂う斬撃の舞をお見舞いする。

 しかし――。


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