第22話 殺しのライセンス
「冗談はさておき、今後はこの部屋を寝泊まりに使ってください。なにせ女王の私室ですから、誰もここには入ってこれません。私とお付きの専属メイドと、セバス以外は
「それは助かるな」
「それと一つリュージ様にお願いがあるんですけど」
「聞く気はない」
「少し聞いてくれるぐらいはいいじゃないですか! ちゃんと前振りでお部屋を貸してあげる話もしたでしょう!? ちゃんと空気読んでくださいよ、私も寝てないんですよ!」
「なにいきなりキレてんだよ」
「じゃあ言いますね」
「聞かないって言っただろ」
「度が過ぎた殺人はできれば控えてください」
「断る。つーか聞かないって言ってんだろ。勝手に話を進めるな」
「いいえ聞いてもらいます、度が過ぎた殺人は控えてください」
「……」
「控えてください」
「…………」
「ひ・か・え・て・く・だ・さ・い・っ!」
アストレアの強い意志を湛えた瞳が、リュージをとらえて離さない。
リュージは根負けして言った。
「つまり度が過ぎていなければ、殺してもいいってことだよな?」
「もちろんそこは復讐というあなたの目的を否定することになりますから、こちらも譲歩します」
「つまり女王様公認の『殺しの
リュージの軽口を、しかしアストレアは取り合わずに真面目な表情のまま言葉を続ける。
「ですが私にも見過ごせないラインはあります。だから約束してください、たいした理由もなく人を殺さないと。それが私にできる最大の譲歩です。私はリュージ様に恩義を感じていますし、上手くやっていきたいとも思っています」
しっかりとした口調で、これだけは譲れないと強い意思を込めてリュージに伝えるアストレア。
ついにリュージは観念したように言った。
面倒くさくなったともいう。
「分かった。お前が譲歩するように、俺もほんの少しだけだが譲歩しよう。約束する、理由なく殺しはしない」
「ありがとうございます。やはりリュージ様は理性的で、正義の心を持ったお方なのですね」
リュージが約束してくれたことに、アストレアは満面の笑みを浮かべた。
しかしリュージはやっぱりリュージなのだった。
「はぁ? 俺が正義の心を持っている? お前の目は節穴か? 頭は回るのに、大事なところで詰めが甘い女だな、お前は」
「……はい?」
リュージの言葉に、アストレアがこてんと不思議そうに小首を傾げた。
「今のは適当な殺す理由を作ってから殺すというだけの意味だ」
「ええっ!!??」
「そんなことより」
「いやあの、そんなことじゃないですからね? 少しは考えてくださいよ!? ねっ!? ねねっ!?」
「分かってる分かってる、前向きに善処する。それより頼んでいた件はどうなったんだ?」
「本当に分かっているんですか? まぁ確かめようがないので、分かっていることにしておきますけど……えっと、カイルロッド皇子を接待した商人の件ですよね。当時の王宮の記録を見ればすぐ分かりましたよ。聞きたいですか?」
アストレアが少し笑みを深くしながら『教えてあげようかなー? どうしようかなー?』みたいな顔をしたものの、
「さっきの意趣返しのつもりか? 無駄なマウントを取っている暇があったら、とっとと結論を言え」
リュージにつれなくあしらわれて、悲しそうに話し始めた。
「はい……。担当していたのはグラスゴー商会の会長ハインツ=グラスゴーです」
「グラスゴー商会会長のハインツ=グラスゴーだな?」
リュージはその名前を心に刻み込んだ。
強烈な憎悪と怒りがリュージの身体と心にみなぎっていく。
ギリギリと奥歯をかみしめた。
「ええ。ちなみにこのグラスゴー商会というのは王宮
「筆頭ねぇ」
「それはもう酷い人物のようでして。王侯貴族に多額の賄賂を贈っては様々な特権を融通してもらい、時には裏から手を回して商売敵を排除なんてことまでしながら、その地位にまでのぼりつめたみたいなんです」
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