第4話 クロノユウシャ

「力……だって?」


 大男の突然の提案に、リュージはいぶかし気に問い返す。


「こう見えてオレは、遠い昔に『白の勇者』って呼ばれてた正義の味方の末裔でな。さっき教えた『気』を使って戦う『神明流』って技を、代々継承してきたんだ。それをお前に教えてやろう」


「その技を使えるようになれば、復讐できるようになるのか?」


「まぁできるだろうな」


「本当に……?」


「なにせ勇者が魔人を倒した技だぞ? 復讐くらい余裕に決まってるだろ」


「魔人だって? はっ! そんなの絵本の中の話じゃないか……馬鹿にすんなよ、じじい。期待して損した……」


「いやいや、ほんとなんだってば。つーかさっきから口の悪いガキだなぁ。実際お前もさっき、すごい力を使っただろ? あれが動かぬ証拠さ」


「……」

「な? 信じる気になったろ?」

「……うん」


 他でもない自分の身に起こった不思議な変化。

 さすがに自分の身に起こったこととあっては、否定しようにもしようがない。

 リュージは小さな声で頷いた。


「ま、できれば復讐じゃなくて正しいことのために。助けを求める誰かのために使って欲しいんだけどな。なにせ勇者が世界を救った技なわけだし」


「そんなことをしないといけないなら、要らない」


「まぁそう言うなって。技ってのはな、突き詰めれば道具に過ぎないんだよ」

「道具……?」


「道具ってのは、それを使う人間によって良い物にも悪い物にもなる。料理をするための包丁で、人も殺せるようにな」


「つまり復讐できるってことなんだろ?」

「要はお前の心次第ってことさ、何をするにしてもな」


 大男の言葉は、いい年して2桁の掛け算がなんとかできる程度の馬鹿なリュージには、少しばかり難しかった。

 それでも。


「……さい」

「ん? なんだって?」


「俺に力をください! 戦うための力を! 復讐するための力を! 勇者の技を俺に教えてください! お願いします!」


 この時点で、リュージは強く強く決意していた。

 死すらいとわぬ覚悟を決めていた。


 (俺はなるんだ――勇者に。

 といっても、正義の味方の『白の勇者』じゃない。


 正義だのなんだの、そんな綺麗ごとはクソ喰らえだ。


 全ての悪を、不条理を、理不尽を!

 それら全てを、更なる暴力でねじ伏せる悪なる勇者に!


 理不尽を理不尽でねじ伏せる『黒の勇者』に、俺はなる――!


 そして姉さんとパウロ兄を殺したクソどもを、片っ端から血祭りにあげてやる!)


「元よりその気さ。オレには子供がいない、だから勇者の技はオレの代で途絶えると思っていたんだが、オレは今日ここでお前に出会ってしまった。まったく世の中ってヤツはムカつくほどによくできてやがるぜ。神様ってのはもしかしたら本当にいるのかもしれないなぁ」


「この世に、神様なんていやしないさ。いたら、こんなクソみたいな世界なわけがないだろ」


「きっとそれも、お前の心次第だろうよ。ああそれと、今日から俺のことは師匠と呼べよ?」



 これがリュージと師匠――『白の勇者』の末裔サイガ=オオトリとの出会いであり。


 同時に年月にして7年にも及ぶ神明流奥義を会得するための、辛くて苦しい、文字通り死と隣り合わせの、常軌を逸した修行の始まりでもあった。


 そして全ての修行を終えたリュージが故郷――シェアステラ王国・王都に戻ったことで、7年越しの復讐が幕を開けるのだった。



~~プロローグ END~~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る