【改稿版】クロノユウシャ(全方位復讐譚)~最愛の姉を奪われた少年は、勇者の力を手に入れ復讐の鬼となる~「泣いて喚いて許しを乞うても、今さらもう遅い。あの世で姉さんに懺悔しな」

マナシロカナタ✨2巻発売✨子犬を助けた~

第1章 奪われた日常

第1話 戻ることのない無邪気な日々

「こらリュージ! 見つけたわよ!」


 シェアステラ王国・王都。

 その外周部にある庶民が多く住む下町エリアに、ユリーシャ――まだ年若い娘の大きな声が響いた。


「げっ、姉さん!?」


 リュージと呼ばれた10歳ほどの少年が、その声を聞いた途端に木の棒を振り回すのを止めて、慌てたように振り返った。

 リュージは勉強をこっそり抜け出して、空き地で木の棒を使って剣術ごっこをして遊んでいたのだ。


「げっ、姉さん――じゃありません。またお勉強を抜け出して遊んでいたの? ちゃんとお勉強をしないとダメだって、いつも言ってるでしょ」


 ユリーシャが両手を腰に当てながら呆れたように言った。


「ええー……」


 ユリーシャは地区一番の器量よしと評判で優しくて、リュージにとっても自慢の姉ではあったのだが。

 こと勉強に関してユリーシャはかなり口うるさかったため、リュージは勉強時間に抜け出して遊ぶたびに、ユリーシャに見つかってこうして叱られていたのだった。


「早く戻ってお勉強の続きをやりなさい」


「だって算術は難しいんだもん。掛け算とか割り算とか、あんなのなんの役に立つんだよ?」


「たくさんの数をパッと計算できないと、パウロみたいになれないでしょ。パウロはすごいんだからね? わたしと同い年なのに、近々支店を1つ任されることになったんだから」


 パウロは2人の幼馴染で、ユリーシャと同じ年。

 しかし幼い時分に、この辺りでも有数の商家に算術の才能を見いだされて弟子入りし、メキメキと力を付けて、若くして支店を任されるまでになっていた。


 リュージにとってパウロは実の兄のような存在であり、姉のユリーシャと並んで自慢の存在だった。

 しかしそれとこれとは話が別なのだ。


「俺はパウロ兄や姉さんみたいに頭良くないもーん。数字を見たら頭の奥がウーってなるんだ」


「まったくもうこの子ったら、どこまでアホなのかしら……」


 12歳にもなってまだ算術の価値を理解できないリュージのアホさに、ユリーシャは思わずため息をついてしまう。


 しかしリュージは、ユリーシャにため息をつかれてもどこ吹く風だ。


「それにほら、剣術が強ければ騎士になれるかもしれないじゃん。姉さん知ってる? 近衛騎士っていって、偉い人を守る特別な騎士がいるんだって。すごいだろ? 俺はそれになるよ、それで悪い奴らからお姫様を守るんだ」


「はぁ……ねえパウロ。パウロからもリュージになにか言ってあげて。パウロの言うことならこの子も素直に聞くだろうし」


 あっけらかんとした様子で小さな子供のような夢物語を語るアホなリュージに、ユリーシャは再びため息をつきながら、遅れてやって来たパウロに援護を求めた。


「そうだね……」

 パウロは優しくていかにも誠実そうな口元に手を当てて、少し考えた後、


「人それぞれじゃないかな?」

 にっこり笑って言った。


「ほら見ろ!」

「なにがほら見ろ、よ。まったくパウロってば、リュージにはいつも甘いんだから」


「あははは……」

 ねたようにつぶやくユリーシャに、パウロは困ったような苦笑を返す。


 それを見たリュージはニヤッと笑って言った。


「あ、分かった~。姉さんってば、パウロ兄にもっと優しくして欲しいんでしょ?」

「きゅ、急になにを言ってるのよ!」


「うわっ、図星だ! 姉さんの顔、赤くなってるし! やーい、ラブラブだ~ラブラブ~ラブラブ~!」


「だからなにを言ってるのよアホリュージ!」


「照れてるし~! 俺知ってるんだぜ、姉さんが時々部屋で1人の時にベッドで『パウロ……もぞもぞ……あっ』とか切ない声で言ってるの」


「な、なななにゃっ!?」

 突然の秘密の暴露に、ユリーシャの顔が真っ赤に染まった。


 リュージにからかわれた最初の頃からかなり赤かったのだが、今はもうりんごのように真っ赤になってしまっている。


「あははは~! 姉さん、もう耳まで赤くなってるよ?」

「なっていません!」


 口調こそ強いものの、ユリーシャの視線はリュージではなく、完全にあらぬ方向を見つめていた。


「ってことで、パウロ兄はもっと姉さんを甘えさせてあげてね! 姉さんはしっかり者に見えて、すごく甘えたがり屋なんだから」


 そう言うと、リュージは2人に背を向けて逃げ出した。


「あ、ちょっと! どこに行くのよリュージ! 待ちなさい!」


「友達と遊んでくる! 暗くなる前には帰るから! 今日は父さんも母さんもいないから、2人はどうぞごゆっくり~」


 からかうような捨て台詞を言い残して逃げ去るリュージ。


「リュージ! 帰ったら算術の特訓だからね! 今日の課題が全部できるまで晩ご飯抜きだからね! 分かったわね!」


「俺は馬鹿だから、分っかりませーん」

「このっ、言ったわね!?」


「まぁまぁユリーシャ。リュージもそのうち勉強の大切さが分かるようになるさ」

「もぅ、本当にパウロはリュージに甘いんだから……」



 子供の頃のリュージは裕福ではないながらも、とても幸せな生活を送っていた。


 自慢の姉がいて、優しいパウロ兄がいて。

 算術の勉強だけは大嫌いだったけど、それでもこの幸せが明日も明後日も、ずっと続くのだと無邪気に信じていた。

 愚かなまでに信じていたのだ。


――――――――――


数ある作品の中から【改稿版】クロノユウシャをお読みいただき、ありがとうございます!

楽しんで頂けるよう頑張ります(ぺこり


改稿版ということで、既に最後まで完成しているので、初日は景気よく「複数話」更新します!


また、カクヨムコンに参加しています。


気に入ってもらえたら、

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数字がよければ、いろいろと作品の未来が良くなることもあると思いますので、なにとぞー!(>_<)

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