一筋の希望

 暗い、暗い暗闇の中、俺はどっちが上か下かもわからず、まるで水の中にいるかのように、ふわふわと浮遊感を感じながら漂っていた。


(……懐かしいなぁ。ここに来るのも)


 負けたり力を使い果たして気絶すると、時たま入ることができるこの場所。最初の方は果てしなく黒く、意識もおぼろげでどことなく不気味な感じを覚えたものだが、今となっては慣れてしまい、意識もはっきりとあり、不快な感情は芽生えなくなってしまった。


(にしても、どこなんだろうなぁここ)


 前々から思っていたが、本当にここはどこなんだろう。


 俺が知る限りではこんな場所に見覚えはない。一種の精神世界と言うやつなのだろうか。


(まぁ、この世界に入ったってことは、俺もまだ強くなる余地があるってことだな)


 この暗闇の世界に来た後は、決まって強くなるチャンスをくれる。俺にできることは、そのチャンスをなんとしてもものにする。それだけだ。


 俺自身、今の強さに満足などしていない。今の俺の強さでは、全力でやって桃鈴才華と同等、あるいはそれ以下だと踏んでいるからだ。そんな中途半端な強さに留まって満足するほど俺は謙虚ではない。


(あのおじいさんと訓練すれば……もっともっと強くなれる)


 さぁ行こう。止まってなんていられない。


 俺は頭を上に上げ、近づいてくるその光に身を任せた。









 ――――









「……見たことある天井だ」


「そりゃ訓練所から動いてないからの」


 目覚めた俺の寝起きの一言に、おじいさんは即座に反応する。真面目に答えないで欲しい。なんだか気まずくなるから。


 周りを見てみると、おじいさんの言う通り訓練所だということがわかった。どうやら観客スペースにあるベンチに運ばれたらしい。


「んしょ……」


 寝そべっていた体を持ち上げ、今一度周りをぐるりと見渡した後、おじいさんの方に向き直り、ゆっくりと喋りかけた。


「……強いんだな」


「お? 目上には敬語を使えと言ったはずじゃが?」


 俺はその返答に、口角を大きく釣り上げて言葉を返す。


「いずれ超えるんだから敬語はいらないだろ?」


「……ほう?」


 その言葉におじいさんは目を細め、俺を見定めるように数秒間の間眺めた後、年寄りらしくゆっくりゆったりとベンチから腰を上げた。


「……明日から、今日と同じ時間、この民間訓練所で待っておるぞ」


「……ああ」


 おじいさんはそう言い、出口に向かって歩いていく。


 出口に到着するまであと1歩といったところで、おじいさんは何か思い出したように、いまだにベンチに座り俺の方を見て、俺に聞こえるような大きな声を出した。



「自己紹介がまだじゃったな! 俺の名は八木はちのき源五郎げんごろう!」



「おーう……」



 そして、一拍置いた後――――



「『白のキング』じゃ! 覚えておいて損はないぞい!」



「おーう……え? ちょ、待て、は!!?」



 急なカミングアウトに呆然とする俺を無視し、白のキングは外に出て行った。

 

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