運命的で必然な
そもそも、彼に興味を持ったのは、お忍びでよく通っている喫茶店で見かけたのが始まりだった。
その喫茶店は、お世辞にも繁盛している店とは言い難く、他の子綺麗な神奈川の飲食店とは違い、木製でツタなどの植物がひしめき合っているその外観は、とても近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
しかし、中に入るとそのイメージは一転、物腰柔らかそうなマスターがうまいコーヒーとそれに合う食事を提供してくれる隠れた名店だ。
俺はそこに行くため、いつものようにまるちゃんを誘い、部屋からこっそりと抜け出して喫茶店に向かっていた。
「……なぁ、はっちゃん」
喫茶店向かっている途中、いつもいかつい顔で自信満々な発言をするまるちゃんが、いつもとは真逆の不安そうな顔で喋りかけてきた。
「どうしたんじゃ? まるちゃん」
表面上は何が言いたいのかわからないといった顔をしているが、俺はなんとなく、まるちゃんが言いたいことを察していた。
「ここから先……神奈川派閥はどうなっていくんだろうな」
「……そうじゃな」
戦争が一旦落ち着き、冷戦が行われているこの時代、最大派閥と呼ばれる派閥たちは、総じて戦力の弱体化を受けていた。
そしてそれは、神奈川派閥も例外ではない。……いや、むしろ最大派閥たちの中で1番の弱体化を受けてしまっているのかもしれなかった。
「俺たちへの依存……いや、執着ともいうべきかの。それを払拭しない限りは……のう」
「……やっぱそうなっちまうか」
今の時代、どの派閥も変革をもたらしている。
東京派閥は強力なスキルを持つ兵士たちによる新たな戦力の増加を、大きな土地を持つ北海道派閥は、大型兵器の開発を、九州全てを統一している福岡派閥は、海外との繋がりを使い、外国人兵士を積極的に雇っている。
それに比べて、我らが神奈川派閥は東京派閥と同盟を結んだ以外、何も進展はなし。むしろ会議での大失態で他派閥からのイメージはガタ落ちだろう。
「……僕らの命はもはや長くはねぇ。はやく後釜を見つけてぇもんだが……」
「皮肉じゃな。神奈川派閥のためにしなければいけないことを神奈川派閥の人間たちに止められるとは」
俺たちも70を過ぎ、そろそろ次世代のキングを見つけたいところだが、いくら後釜を探し、その子をキングにしたいと思っていても、その神奈川派閥自身がそれを許さない。
(過去の功績に何を期待しておるのか……)
白のキングと黒のキング……つまり俺たちの作り上げた功績。それが大きすぎて、中々俺たちに次ぐ……できれば、俺たちを超えた力を持つキングを探すことができない状況になっていた。
「……お、着いたぞはっちゃん」
「……そうじゃなまるちゃん。この話は一旦、喫茶店に入ってから考えるとしよう」
その時の俺たちは、そこで運命的ともいえる出会いをするとは知らなかった。
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