狙いすまして

 俺は目を閉じた状態で、砂や小石が何かにぶつかる音を分別する。


 どうしようもないほど果てしない難易度を誇る行為だが、相手のスキル情報が定かでは無い以上、相手の視界をブロックすると同時に、うまくいけばこちらの攻撃を当てることができるこの策を選択するしかない。


(……いや、するしかなかったと言ったほうが正しいか)


 もしかしたら、俺がこの策をとることも読まれているかも知れない。ただ先に言ったように、手に入れている情報が定かでは無いかつ少ない今、的に読まれているかもしれないという可能性を踏まえた上でも、そこに飛び込むしかない。


(だから感じろ……音の違いを……)


 前からはカチンカチンと硬いものにぶつかる音が聞こえる。後ろにはいない。


 右からも同じく、カチンカチンとぶつかる音が聞こえる。右もない。


(ぐ……)


 その事実に、俺は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。そのわけは右と前におじいさんがいなかったからだ。


 俺の利き腕は右であり、その関係で右か前に敵がいた方が、攻撃を発射するまでの速度が速い。


 戦闘において、相手がおじいさんのように瞬間的に移動する敵であればあるほど、攻撃の発射速度が重要になってくる。


 なので、俺の目線から見て前か右にいた方が、攻撃の発射速度が速くなり、あのおじいさんに攻撃が当たる確率がさらに上がったのだが、現実はそうもいかないらしい。


(運……いや、あのおじいさんのことだ。これも計算ずくかも……)


 俺はそう考えながらも、耳をじっとすませて集中する。とりあえず右と前にはいない。残るは左と後ろだ。


(後ろにはいない……ということは……!)


 残るは左のみ。もうじっとしている必要性も、わざわざいるとわかっている左側の音を聞く必要性もない。後ろの音を聞いた瞬間、体をぐりんと左側に向け、反射に闘力、エリアマインドを使った拳を振り上げ、そのまま勢いよく拳を発射した。


「むうぅぅん!!」


 その拳は凄まじい轟音を響かせ、宙に舞っていた砂吹雪を切り開き、その先にいるであろうおじいさんに向かってまっすぐと向かっていく。


 それも当然だ。今回の一撃は今までとは違い、実戦用のガチな一撃なのだ。最初の寸止めしようとしていた攻撃とは訳が違う。


 寸止めだってする気はない。倫理観がとか知るか。俺はとっくの昔に犯罪を犯してしまっているのだ。倫理観あったら犯罪なんてしてたまるか。


 それに、俺をここまで翻弄させたおじいさんが、たった一撃で死んでしまうわけがない。正体は気になるが、それを聞くのは戦いが終わった後だ。


(だから……沈め!!)


 拳が向かった先で、確かな炸裂音が響き渡った。


 

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