めっちゃしんどそー

 次の日、朝9時に目を覚ました俺の目に最初に映ったのは、朝ご飯を作っている袖女の姿だった。


「んあ……」


 昨日も見た景色だ。大阪派閥での同棲生活を思い出し、少し物思いにふける。


(今は半同棲ぐらいだし……)


 よく考えると、袖女を神奈川派閥から奪ってもいいんじゃないかと思ってしまう。あいつがいるだけで、神奈川派閥のスキル情報とご飯係、家番の3つが一気に手に入るのだから、超優良物件に見えるのも仕方がない。


(戦闘力もそれなりにあるし……使い道は無限だな。万能ナイフみたいだ)


 そう考えたらなんだか袖女の顔が万能ナイフに見えてきた。


「……何見てるんですか?」


 いつの間にか袖女の顔をじっと見つめていたらしく、袖女が少し照れ臭そうになりながら、言葉を投げかけてきた。


「ああ、すまん。ちょっと万能ナイフだった」


「はい?」


「ごめん。つい本音が」


 万能ナイフのことばかり考えていたせいか、ついつい万能ナイフという単語が出てきてしまった。こんな漫画のようなことが実際に起こるとは信じていなかったので、実際に自分がやってしまったことに、内心少し驚いていた。


「……ま、いいです。今日の朝食はトーストですよ」


 俺がテーブルへ移動すると、食パンの上にベーコンと目玉焼きが乗ったトーストとコーンポタージュが出てきた。


 いつもの袖女の料理と比べると質素な食卓だが、朝ご飯としては十分だ。袖女の毎日の料理が美味すぎてそう見えているだけなので、いつも袖女の料理を褒めるべきか。


 そう思いつつ、トーストを一口かじる。


(……うまっ)


 ちゃんとうまい。上に乗っているベーコンエッグが焼き過ぎと生焼けの間、ちょうどいい焼き加減で完成されていて、ぱっと見、目玉焼きに何もかかっておらず、味が薄いのかなと思ったが、目玉焼きの下敷きになっているベーコンの塩っけが目玉焼きを引き立てており、寝起きの舌に十分な味覚を感じさせてくれた。


 コーンポタージュもいい。ベーコンの塩辛さを甘さで浄化させてくれる。いいリセットアイテムだ。


「すいません。今日は私も起きるのが遅くなってしまって、簡単なものしか作れませんでした」


「大丈夫。ちゃんとうまいよ」


 うまいと答えた俺の言葉を聞くと、袖女は急に顔色を変え、自信に満ちた顔になる。


「ま、私が作ったんだから当然ですよ!」


「おーそうだねそうだねー」


「……全然そう思ってなさそうですね」


 当たり前だ。こちとらトーストに夢中なんだ。


 しかし、袖女がいい顔しているのはいただけない。何か言い返す言葉は無いものか……


(……飯関係では無理だから……)


 そうだ。あるじゃないか。もともと予定していた袖女にとってすばらしい妙案が。


「……袖女、朝ご飯食べ終わったら準備しろよ」


「ん? どこかに行くんですか?」


「ああ、訓練所にな」


 その瞬間、袖女の顔がガチリと固まる。


「あ、後、今日から朝と夜、毎日やるからな」


 その言葉に袖女がうなだれる様子を見て、昨日と同じく、とても快感を覚えた。

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