疑い

「あ……はい」


(あ、まずっ)


 黒のクイーンの雰囲気に流されて、勢いで了承の返事をしてしまったが、すぐに心の中でやってしまったと悪態をつく。


 相手からすれば、こちらは急激に順位を上げている可愛くない新人。しかも出身地も神奈川派閥ではなく東京派閥ときた。


 そんな人物、今までずっと神奈川派閥にいた黒のクイーンが良い印象を抱くわけがない。返答次第では、俺が黒ジャケットだと特定されかねない。


 つまり、ここでの最善手はそのお話の誘いを断ること。それが1番の道だったが、俺がついつい勢いで了承の返事をしてしまった以上、もうその最善手はチリとなって消えている。


(こうなった以上、できるだけ発言に気をつけて話をしないと……)


 そんなことを思っていると、早速黒のクイーンの口から言葉が飛んできた。


「抱いているその子……グリードウーマンはあなたが?」


「……ええ、まぁ」


「そう……強いのね」


 その言葉に、俺は黒のクイーンに向ける目力を少し強くし、前より声を大きくして返答する。


「あんなのを見せたあなたが言いますか」


「あれは戦いではないわ、ただ相手の方から私にひれ伏しただけ……私は強くはないわよ? 無・敵・ではあるけれど」


(えっ、うざ……)


 黒のクイーンのあまりにもな言い草に、例えようのないウザさを感じつつ、戦いではないと堂々と言われたシュルカーがかわいそうだと感じてしまった。


 しかし、それ以上に……


「無敵、ですか……面白いことを言いますね。黒のクイーン」


「あら? 気に障ったかしら?」


 面白い女だ。瞬時に俺の本質を見抜き、俺にとってそそる言葉を投げかけてくる。


(……あえて食いついてみるか)


 せっかく向こうから来てくれたのだ。ここはわざと食いつき、後のために情報を入手しておくのも1つの手だ。


「ええ、とても。私があなたに負けるビジョンがとても見えないので」


「……へぇ」


 瞬間、言葉と同時に体に強い圧力がかかる。



「む……!?」



(これがシュルカーを跪かせた力か……)



 俺はその圧力に……落胆を覚えた。



(この程度……か……)



 これくらいならスキルを使わずとも、十分に抵抗することが可能。むしろ移動だって、さほど辛さを感じずにできる。


「ぐあっ……!?」


 しかし、ここはあえて効いているふりをする。この女は俺がキングになる過程において1番の脅威だ。これで俺のことを弱いと思ってくれたら儲け物。いざ戦闘になった時、一時的にだが優位に立てる。


「…………ごめんなさいね? ちょっと遊ばせてもらったわ」


 その言葉とともに、体から圧力が抜ける。


「グリードウーマンをこちらに渡してもらっていい?」


「了解です……彼女はどうなるんですか?」


「彼女はやったことが大きすぎる…… 300年ぐらい神奈川本部の地下牢獄で過ごしてもらうことになるかも」


「そうですか」


 グリードウーマンが死刑になる可能性もあったので、そこら辺は少し不安だったが杞憂だったらしい。


「それじゃ、この辺で」


 黒のクイーンにグリードウーマンを手渡し、ブラックを回収するため、あのチェス隊の子の下に移動しようとしたその時、黒のクイーンが一言、ぼそりとつぶやく。


「次は効いているふりなんてしないでね」


「……なんのことでしょう?」


 ……バレたか。




 

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