遥か遠くの次元

 ようやく目の前の緑タイツの女がグリードウーマン……つまり、連絡にあった敵の1人だと認識した俺は、ようやっと臨戦態勢を整える。


(周りにはあの貝殻頭1人だけ……こいつが全部やったのか? やるなぁ)


 俺の腕の中にいるこいつがそれ以外を倒したと考えると納得がいく。もうすぐやられそうなタイミングで俺が来たと言うわけか、カッコいいな俺、後で惚れられるんじゃないか?


(あ、そうだ……)


「自分で移動できるか?」


 いくら俺とはいえ、グリードウーマンがまだ実力を隠している可能性がある以上、いつでもマックスの力を出せるようにしておきたい。そのため、俺の腕の中にいる女を降ろして戦いたい。


「あ……う、うん! 移動するくらいなら……」


「そうか、じゃあこの犬を連れて安全な場所まで離れてくれ……おい、ブラック?」


 チェス隊の女を腕から離し、肩に乗っているブラックを渡そうとブラックを掴むが、なぜかかたくなに俺の肩から離れようとしない。どうやら自身も戦いたいらしい。


(まったく……)


「別に足手まといなわけじゃないぞ、この子のボディーガードをしてほしいだけだ。逆に頼りにしてるんだ」


「ウゥ……」


 だだをこねるブラックに対し、言葉をかけて宥める。俺もいつか子供を持ったら起こるであろう出来事を、今ここで体験できるとは思わなかった。


「ウ……ワン!」


 俺の言葉に、ようやくブラックも納得してくれたようで、自分からチェス隊の女の体へと飛び移っていった。


「じゃ」


「あ、うんっ! また後で……」


 チェス隊の女と別れを告げ、ブラックを抱えながらビルに着地したのを確認した後、再びグリードウーマンへ向き直る。


 この後起きる出来事に、密かな期待を抱きつつ……


「んじゃ……行くか!!」


 グリードウーマンに向かって、一気に加速した。









 ――――









 男は黒のビショップに真っ黒の犬を抱えさせ、移動させた後、こちらに向き直り、一気に加速。こちらへ距離を詰めてきた。


(……っけどね!)


 手に負えないレベルのスピードではない。少なくとも、強化された私の視力なら、ギリギリ視認できる。


 私はあえてギリギリまで男に距離を詰めさせる。そうすることで、急な方向転換を封じることができるからだ。


 そして、その作戦を見事に成功。男は私に向かってまっすぐ突っ込んできた。そのスピードは急激に方向転換できるようなスピードではない。もし方向転換しようものなら、体中の骨が反動でバキバキになってしまうことだろう。


 今すぐにでも回避行動をしたい衝動に駆られながら、冷静にその時を待ち……


(今よ!!)


 私の体に直撃するギリギリのところで回避。後は横から私の蹴りを一撃加えるだけで、体力的な面ではリードできるはず。


 が、男は私の考察を容易に上回り、首と体を同時にグリンと回し、一気に方向転換。右拳を胴体より後ろにセットし、発射の構えをとる。


(だけど、攻撃の着弾は私の方が早い!!)


 このまま足を振り抜けば、その衝撃でこの男後方まで弾き飛ばすことができるはず。少し予想ははずれたが、結果は変わらない。


 しかし、私の蹴りが着弾した瞬間、男は衝撃で弾き飛ばされることなく、逆に私の足が強い衝撃で弾き飛ばされてしまった。


 まるで、こちらの攻撃が跳ね返されたような……


(……いや、そんなの思ってる場合じゃない!)


 そんなことを考えている間にも、男の拳が発射され、私の顔面を射抜かんと言わんばかりに迫ってくる。


「ぐっ!!」


 私は迫ってくる拳に反応し、首を無理矢理曲げて回避する。回避した瞬間、首から何やら不穏な音がしたが、気にしている場合ではない。


(あの速度を見るに、距離をとってもすぐに接近されるのがオチね…….だったら!)


 近づいてくる男に対して、あえて私も自分から距離を詰める。


(接近戦よ!!)

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