ぶつかっていけ

「よし! 準備できたんだな!」


「すみません。帰ってきたばかりなのに」


「いいんだな! あたしも運動したかったんだなー!」


(運動……か)


 私との試合は、日菜にとっては戦いですらないのか。自分に対する日菜の価値観に少し苛立つ。


(私だって戦えるところを見せてやる……!)


 確かに、日菜が神奈川本部にいた頃は全くと言っていいほど敵わなかった。だけど、私だって訓練や鍛錬を積んできたのだ。ただでやられはしない。


「じゃあ……試合開始!」


 審判役を買って出てくれた天子先輩が試合開始の声を上げた。


「行きます!」


 試合開始の声が聞こえた瞬間、私は勢いよく走り出し、日菜に向かって突撃する。


「甘いんだなー」


 しかし、スキルで高速化してもいないただの突撃など、このレベルになってくるとただ隙を晒しているだけ。鼻で笑われてしまう戦法だ。


(そんなことわかってるんですよ……!)


 しかし、そこで絡め手を使わない私ではない。私は走りながらも、胸の中心にエネルギーを溜め、何の予備動作もなく発射する。彼との戦いの時に使用したオーラビームだ。


 予備動作なしかつ、見えないその攻撃を初見で回避できる人物を私は知らない。何より、彼が回避できなかったのが、私のこの攻撃に対しての自信をより強くしていた。


「行くっ、づあ!?」


 私の予想通り、オーラビームは日菜にヒット。大したダメージはなさそうだが、大きく後ろにのけぞらせることに成功した。


(この技にダメージは期待していない。重要なのはこの技が当たったことで起こる衝撃だ)


 この攻撃の目的はダメージを与えることでなく、その衝撃で大きく後ろにのけぞらせ、何もできない時間を作ることだ。


「だなっ……」


 しかし、日菜はその体格も相まって、チェス隊の中でもずば抜けた身体能力を持つ兵士。ちょっとやそっとのけぞらされた程度では、大きな隙は生まれない。


(ならもっとたくさん!)


 解決策は簡単だ。連続で何度もオーラビームを撃つこと。それしかない。1番単純かつ1番効果的な対処方法だ。


 私は走りながら、何度も胸にオーラを溜め、何度も何度も発射する。なんだか体全体が銃口になったかのようだった。


 日菜はそれに面白い位当たってくれる。そのおかげで、もう私の拳が当たる距離まで来ていた。


「……っ!」


 日菜はオーラビームを受けながらも、私がすぐそばまで近づいているのを確認し、両腕を胸でクロスさせ、ガードの構えに入る。おそらく、オーラナックルがくると予想し、衝撃が来るであろう胸をガードしたといったところか。


 だが……


(昔の私ならそうしたでしょう……)


 私は彼の戦いを見てきたのだ。一瞬でも気を抜けば命取り。一撃一撃が殺人級の攻撃を必死に避けながら、反撃する彼の姿を。


 大阪派閥で見た、彼や牛の戦いに比べれば……


(ねっ!!)


 こんな試合、どうってことない。


 私は日菜が腕をクロスさせてガードしたのを確認すると、その勢いのまましゃがみこみ、日菜の視界から姿を消す。


「しっ!!」


 からに、私は足払いをして、オーラビームでただでさえ悪い状態の日菜のバランスをさらに崩す。


「なんっ……!?」


 日菜から見れば、目の前で私が消え、地面の感覚がなくなったように思えているだろう。


 これが私の真の狙い。最初からむやみやたらにこちらの手札を使うのではなく、大きな隙をどうにか作ってから、自分の手札を切る。


 ……彼を見て学んだことだ。


「ぐ……だな……」


 その影響により、蚊が止まってしまうほどの長い隙を見せた日菜。


(今だ!!)


 自分で作り出したこのチャンス。みすみす逃すわけがない。



 私は大きく振りかぶって、オーラを溜めた拳を――――



「だああああぁぁ!!!!」



 がら空きのお腹に突き刺した。



 私の渾身の一撃を受けた日菜は、口から血反吐を吐きながら大きく後ろに吹っ飛ばされ、特殊ガラスに激突する。残念ながら、彼のように特殊ガラスを破壊するまでには及ばなかった。


「さぁ! 早く起きなさい! あなたがこの程度でやられる人じゃない事は知っています!!」


 その言葉に呼応するように、日菜はブリッジの要領で手を使わないままむくりと起き上がる。


「……正直、ここまで強くなってるとは思ってなかったんだなー」


 瞬間、日菜の近くの地面が大きく盛り上がり、人間サイズの仏像が現れる。


(来る……!)


「だから……ちょっと本気なんだなー」


 日菜のスキル、石像回遊せきぞうかいゆうが発動した。

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