帰りの家
俺はあの後、帰り道にスマホで母親に『友達と食べるので夕食は要りません』とだけメールを入れ、家の前まで来ていた。
なぜわざわざ夕食がいらないとだけメールを入れるのかと言うと、この腕と耳のせいだ。
耳はともかく、腕がなくなっている状態と言うのは非常に目立つ。近くで見れば一発でばれるし、夕食を家族で囲むなどもってのほかだ。とにかく家族と一緒になるのは極力避けねばならない。
(学校には怪我をしたと電話を入れておいたし……時間的に妹の下校はありえない時間だ。しばらくは問題ないだろう……)
俺は我が家のドアノブをひねり、家の中に入る。
右へ左へ頭をひねり、家の中に人がいないことを一応確認する。
「いないっ……と」
いないことを確認した後、俺は自分の部屋への廊下を走り抜け、自分の部屋へと入った。
「ふいー……」
ほっと一息。この怪我ではこれ以上の活動は無理だろうし、俺この1日はこれにて終了だ。
(活動はできないが……考えることはできる)
俺は自分の部屋に用意されている机に座り込み、頭の中をゆっくりと回転させる。
(まず今日遭遇した偽黒ジャケットだが……あれはおそらく、俺をこの体に変えた犯人ではない)
そう考える理由は1つ。もしあの偽黒ジャケットが犯人なら、あのタイミングで助ける理由がないからだ。
ハカセとの話し合いで、俺を藤崎剣斗の体にしたのは、俺を殺すためだとわかった。そしてそれは1人の行動ではなく、複数人、何かしらの組織の行動だと言うことも判明した。
俺を殺すことが目的なのならば、もう少しで俺を殺せそうなあのタイミングで助け舟を出すのはありえない。「俺たちの手で殺さないと意味がないんだ!!」的なプライドがあるならわからなくはないが。
(確定とは言えないが、あの偽黒ジャケットはおそらく俺の体入れ替えとなんら関係性はないだろう……つまり、今俺が狙うべきは……)
今1番怪しいのはあの人物。1日目の終わりあたりに遭遇したあの人物だ。
(教員を殺したところを見られた……あの謎の人物だ)
偽黒ジャケットと同じく、黒フードと黒い体で身を包んだあの人物。とても小柄で藤崎剣斗と同じ位の身体能力を持つあの謎の人物だ。
今のところ、あの人物が1番犯人らしき動きをしており、俺を殺そうとしている組織の差し金である可能性が高い。そしてその正体も、確定ではないが何となくつかめている。
(あの謎の人物は……おそらく……)
明日は必ず謎の人物を狙うと心に決め、体の痛みを抑えるためにベットに潜り込んだ。
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