幕間 最後の……

「よし……と……」


 私はあの後、この家から出るため、古臭い手法だが、置き手紙を書く事に決めた。


 そんなに急がなくてもと思うかもしれないが、神奈川では、任務完了のメールが届いたら、すぐに帰還すると言う暗黙の了解がある。帰還を1日でも遅らせてしまうと、疑われる可能性があるのだ。そうなれば、彼の家であるこの場所が割れてしまうかもしれない。


 それだけはなんとしても避けなくては。


 そういう理由で、私は今すぐにでも外に出て、神奈川に帰らなくてはならないのである。


 そういうわけで、先にも言った通り置き手紙を書いたわけだが……


「…………」


 "このたび、任務が完了したため、神奈川に帰還する事になりました。敵同士ではありましたが、感謝しかありません。誠にありがとうございました"


「…………はぁ」


 さすがに私も恩を感じていないわけではない。しかし、彼に向かってこういう感謝の手紙を書くというのは……


(さすがに恥ずかしい……)


「お前何見てんの?」


 突如、横から聞こえる声。その何度も聞いた声に私の体は過敏に反応した。


「……なっ! 何見てるんですか!! 起きたんなら言ってくださいよ!」


「いや、起きたのついさっきだし……」


 話を聞くと、どうやら起きたのは本当に直前らしく、私の今までの行動は見ていないらしい。もし私が置き手紙を書いている所を見られていれば、私は羞恥心で死んでいただろう。


「……で、何やってたんだよ」


「あ、あ〜……いや、それは……」


 ここで言ってしまえば終わりなのだが、こういうのは人間、何故か話しづらい。私は苦し紛れに、自分の頭にもないような言葉を放った。



「えっと……もう昼ですし……散歩にでも行きません?」









 ――――









「当たり前の事だが……俺と牛の戦いのせいで、所々工事が起きてるな……」


「人ごとみたいに言わないでくださいよ……これ捕まったら普通に死刑のレベルとかじゃないですからね……」


 俺たちは袖女の意味のわからない提案により、急に外を歩く事になった。マジで急に誘われた。


「捕まらなければいいんだよ、捕まらなければ。バレなきゃ犯罪じゃないってやつだ」


「はぁ……」


 袖女は俺の言葉に、ため息を吐いて反応を示す。だってしょうがないだろう。ばれなきゃ犯罪じゃないんだから。


「おいおい、何をそんなため息ついてんだよ。誘ってきたのはお前だろ?」


「まぁ……そうなんですけどね……はぁ……まぁ、ついてきてください。行きたい場所があるんですよ」


「ふぅん……」


 袖女にそう言われ、トコトコと道を歩く事1時間ほど。すでに周りには人がおらず、建造物もかなり少なくなってきた。


「……おい。まだなのか?もうかなり離れたが……」


「……よし、ここなら大丈夫……」


 袖女は周りをチェックした後、こちらに振り向いた。


「あの、実は……」


「ん?」


「……私、もう神奈川に帰らなくちゃいけないんです」


「…………そっか」


 当然と言えば当然の終わり。元々、袖女は任務が終われば帰らなくてはいけないのだ。いつかは言われると思っていた。それが今だっただけ。


「……お前のご飯、結構旨かったんだけどなぁ」


 誰に伝えたいわけもなくつぶやいたその言葉に、袖女も聞き取ったのか、ピクリと反応を示す。


「……って、それだけじゃなくて……お願いしたい事があるんです」


「……ん? なんだ?」





「神奈川に帰る前に、もう一度だけ手合わせをしたいんです」

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