過疎状態

「これと……これと……あとこれ……」


 次の日、私は道具を揃えるため、医療用具店に来ていた。


 医療用具店と言うのは、最近できた店で、主に医療系のスキルの為に用意されたものである。家でも医療の道具を使うことで、さらなるスキルの開拓を進めるんだとか。


 そんな場所に、医療スキルでもない私が来た理由はもちろん、あのゴリラの腕を調べるためだ。


 神奈川は日本屈指の科学力を持った派閥。よって学校で受ける勉強も科学のものが多く、医療関係のものなど日常茶飯事だった。


 よって、ゴリラの腕でも、ある程度は器具が揃えば調べることが可能と言うわけだ。


 しかし、問題なのはその器具。1つでもうん十万する物ばかり。金銭的な問題で、この技術が役立つ事は一生ないと思っていた。


 やはり人生と言うものはわからない。知っておいて損になるものなど、1つもないと言うことか。


 問題のお金も今日の朝、200万を渡された事によって一気に解決した。


(今日は休みももらったし……家に帰ったらすぐに調べますかね)


 さすがの私と言えど、ゴリラの腕を調べるなんて始めての経験だ。正直、どうなるんだろうと言うわくわく感がある。


 しかもそれだけではない。これで大阪派閥の技術がわかれば、私の任務の達成に1歩近づく。


「よし、これで全部ですね……」


 私は器具をすべて買い終わると、会計を済ませて店を出る。私の体も正直なのか、早く家に帰ろうと早足になってしまっている。


「さて……がんばりますか!!」










 ――――










 同時刻、我が家。


「さて……どうするか……」


 今回の戦い。一見、いつもと同じ様に見えるが、実は違う。今の俺は、大事な要素が2つ欠落しているのだ。


 まず1つが相手の情報。相手の情報が十二支獣と言う存在がいるのと、牛の能力ぐらいしか無い。


 これはかなり致命的だ。あの時はハカセが俺の取りきれなかった情報をとってきてくれてかなり助かったのだが、今、俺の横にハカセはいない。自分でなんとかやるしかないのだが、ここは相手のテリトリーかつ、今までと違い、こちらが認知されている為、おそらく場所も知られている。そんな状態で情報を集めるなど論外。つまり、俺は情報を集める事はできない。


 もう1つが、何回戦うかわからない点だ。


 今までならば、何かの目標を達成するために、その過程として敵を倒していたのだ。その為、戦う量がある程度想定でき、雑魚と戦う時は体力を温存したりと、ある程度体力を調整する事ができた。


 しかし、今は違う。過程としてではなく、目標として敵を倒すのだ。そしてその数はわからない。立て続けに十二支獣が目の前に現れる可能性もある。そうなってしまえば、さすがに危うい。


 攻めるにしても、夜になったら、大阪派閥本部はもぬけの殻。どこかで不意打ちを食うのがオチである。


 何もかもが足りない。圧倒的な過疎状態。






(どうする……俺1人では何もかも足らない……誰かに情報を調達させるしか……)






「…………あいつにやらせるか」





 苦肉の策だが、それを実行するしか、俺に残された道はなかった。












 ――――










 同時刻、とある一室にて。



「……おっ、終わったようだねネーリエン」


「まぁな……強い奴と戦わせてやると言ったら、すぐに了承してくれたよ。簡単なもんだ」


「ちょっとちょっと、そんなこと言ったらいけないよ。頭が良くなくても、立派な家族なんだからね……」

 

 そう言うと、ベドネは缶コーヒーを手に取り、その中身を口に含んだ。缶をよく見ると、かなり甘めのカフェオレよりのコーヒーだと言うことがわかる。


「とにかく、明日が本番だ。龍、虎、兎で確実に行く」


「おやおや、十二支獣を3体出すとは……かなり念入りなんだね?」


「ああ、ゴリラの時は"羊"で不眠にさせてお膳立てしたのに負けたからな……今回は確実に行く。相手が1人だとしても容赦はしない」


「お~怖いねぇ」


 ネーリエンは前回の失敗がかなり脳に焼き付いているらしく、今回は絶対に成功させると意気込んでいた。


「……っと、そろそろ時間だね」


「ん? 何か用事があるのか?」


「まぁね、僕にもいろいろあるのさ」


 ベドネは缶コーヒーをぐいっと飲み終えると、机に空の缶を置き、一室を出て行った。











 ――――











「情報が無いと、本当に何も出来ないな……」


 あの後、俺は我が家でゆっくりと袖女を待っていたのだが……あまりにも暇だ。


 大阪派閥の動きを推測しようとしても、情報が何もないんだから推測しようもない。本当に無駄な時間だ。


(真面目にやることないし……こういう時こそ、何も考えず休むべきだな)


 前は無理だったが、考えることがないんだから、今は普通に休めそうな気がする。


(床に横になって……瞳を閉じて……)


 視界を真っ暗にすることで、心を落ち着かせるのだ。ゆっくりゆっくりと…………




 あ、なんだか…………




 眠く…………




 ねみ…………




ピンポーン。




「…………」




 ありえん。ありえなすぎる。このタイミングで来訪者なんて、世界が俺に休むなと言っているようにしか思えない。


「……はーい。今出まーす」


 しかし、怪しまれないためにも、ここは出る以外ない。生活には犠牲がつきものなのだ。




 どうやってドアを開けると




「どもども~」




 そこには、白衣をまとった1人の男がたたずんでいた。

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