発覚

「生物学……か」


「ええ」


 高ランクスキル保持者の東京、科学力の神奈川ときて、次は生物学の大阪と言う訳か……


(……きつくね?)


 おおよそ、1人の男が人生で体験していい難易度を超えている。東京派閥から一時的に逃げるためとは言え、やはり大阪派閥と言う大派閥に来るのは間違いだったか。


(いや、今更そんなことを思っても仕方がないか)


 後先考えてはいられない。今目の前にある障害を、1つずつ1つずつ超えていくしかないのだ。


 俺はチート主人公ではない。ハーレム主人公でもない。というか端から見れば悪サイドに見えるだろう。


 だから、なんでもかんでも簡単に解決なんて、そんな器用なことはできやしない。


 ……だが、だからこそ面白いのだ


 勉強や運動などでは感じられない成長。殺人への躊躇が抜けていくのを実感する。


 その感覚がとても心地よく、自分は成長していると感じさせてくれるのだ。


(……っと、危ない危ない)


 ついつい長めに考え込んでしまった。今は敵になり得る大阪派閥の情報を集めなくては。その情報をつかんでいるであろう人間と今、俺は対面している。こんなチャンスはなかなか来ない。任務を成功すれば、いつでも会えるには会えるが、そのためだけにやる意味もない任務をこなすのも面倒臭い。今こそが絶好の機会なのだ。


「……て事は、あの妙な能力を持ったあの犬も、大阪の生物学で改造されたってことか」


「ええ、間違いありません」


(ふーん……)


「じゃあ、なんでそんな大阪の兵があのヤクザの本拠地にいたんだ?」


「……こちら側でつかんだ情報なのですが、大阪派閥は裏で兵の売買を行っております。おそらくそれがヤクザの手にも渡ったのでしょう」


「……んなもんよく売れるな」


「人ならば絶対に売れなかったでしょうね……ですが、大阪派閥だけの、動物と言うもの珍しさと、人間のように裏切らない信頼感が、この売買を成立させたのでしょう」


(…………)


 なるほど、つまり、あの虎や偽ブラックを送り込んだのは大阪派閥であり、これからも改造された動物たちと戦う可能性があると言う事。


「あと、あなた様が言っている妙な能力と言うのは、正真正銘のスキルですよ」


「……もう驚く気も起きん」


 まさかとは思っていたが、正真正銘のスキルだったとは。


 通常、人でないと発現しないスキルが動物に宿ると言うのは、絶対にありえない事だ。これもまた、大阪の生物学の賜物と言うことか。


「……じゃあ、その首輪に彫ってある文字の意味は?」


「単純に"犬型198号"と言う意味かと……"動物"なので、犬型や猫型で区別しているのではないかと我々は考えています」


「そうか……サンキュー。助かったわ」


「いえいえ、こんなことでよければ、また気になることがあればご連絡ください」


「ああ」


 その後、俺と黒スーツは別れ、300万をジャケットのポッケに入れて帰り道を歩く。


(今回でいろんなことがわかったな)


 1つは、あの虎を送り込んだのは大阪派閥だと言うこと。


 そしてもう一つは……


「ワウ?」


 急に立ち止まった俺を見て、そばで歩いていたブラックも立ち止まり、どうしたんだ?と言わんばかりに声を上げる。


(……ブラックも大阪の兵だって事だ)









 ――――









 同時刻。


 私、浅間ひよりはパートの休憩時間に入っていた。


「…………」


 私は休憩時間の間に、自分のポッケから、ゆっくりとスマホを取り出した。


 これは彼にも知られていないことだが、私はスマホを1つ隠し持っている。


 というか、今どき電子機器を持っていない方がおかしいだろう。つまり、スマホはおろか電話すら持っていない彼がおかしいのだ。


 私はそんなくだらない事を考えながら、スマホの電源を入れ……



 "残り2週間"



 画面に表示されたその文字に、深いため息をついた。


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