頼み事

「……専属?」


「はい」


 俺は今、サイト専属の人間にならないかと勧誘を受けていた。


「……それって意味あんの?」


「単刀直入に言うと、任務を成功させずともお金がもらえます」


「……マジか」


 詳しく話を聞くと、専属になれば、サイトから毎月一定量の金が入ってくるらしい。そのかわりメールに送られてくる任務は絶対に承諾しなければならない。


 要するに、今までの任務をこなす日常に、プラスアルファで毎月金が入ってくるわけだ。


「どうです? 今まで任務を100%の確率でこなしてきたあなた様からすれば、今までの生活にさらにお金が入ってくるだけ……デメリットはないと思いますが」


 そう、普通に考えればデメリットはなく、この上なくおいしいお誘い。乗らない理由はない。


「悪りぃ、無理」


 しかし俺は断った。


「……理由を聞いても?」


 黒スーツはこの結果を予知していたのか、特に驚く様子もなく俺に理由を聞いてくる。


「俺にも目標があるってことだ。いつまでもアンタラの言う事を聞いていられないんだよ」


 俺は別に大阪で永住しようってわけではない。強くなるための修行も兼ねて大阪へ来ているのだ。いつか東京に戻らなければならない。いいところで大阪に戻るなんて言われたら台無しだ。


 それに、さらに金がもらえるといっても、任務の報酬だけで問題なく生活は回っている。わざわざサイトに服従してまでさらにお金を得ようと言う欲はない。


「……そうですか、もしかしたらと思ったのですが……やはりだめでしたね」


 やはり黒スーツはこのことを予知していたようで、ほとんどいけると思っていなかったらしい。


「なんか悪いな」


「いえいえ、それが我々の仕事なので……また何かあったらご連絡ください」


「そうだな、また何か……」


(……何か?)


 その時、屋敷に突入したときのとある出来事を思い出す。屋敷で入手したあのよくわからないアイテム。


(こいつらなら……)


 何か知っているかもしれない。そう考えたときの俺の行動は早かった。


「なら、1つ頼みたいことがあるんだが……」


「? はい、私ができる事ならなんなりと」


 俺はジャケットのポッケに手を入れ、アイテムがあるかどうかチェックする。

 袖女が任務から帰ってきたときの状態でジャケット保管しておいてくれたなら、ポッケの中に入っているはずだが……


(あった……!)


 どうやら保管しておいてくれたようだ。袖女自身も、むやみに俺のものをいじるのはまずいと思ったのだろう。


(いや、今はそんな事どうでもいい)


 あったのなら、まず見せないとお話にならないだろう。


「……これを知ってるか?」


 そう言って、俺は屋敷で入手した"i198"と掘られた鉄の首輪を黒スーツに見せた。


「……! これをどこで?」


「任務中に黒い犬についてたのを回収した」


「なるほど……」


「心当たりはあるのか?」


「ええ、まぁ」


 やはり知っているようだ。俺にとっては関係ないことかもしれないが、1度疑問に思った事は気になってしまうのが人間の性だ。


「それは何なんだ?」


「……まぁ、あなた様なら大丈夫でしょうし……いいでしょう。話します」


「これは大阪政府の兵の証なんですよ」


「……何? だが、これをつけてるのは犬だったぞ」


「犬が兵なんですよ」


「は?」


「大阪派閥には、他の派閥で言う兵士と言うものは存在しません。そのかわりに存在しているのが、この動物たちと言うわけです」


「…………」


 にわかには信じがたい話だが、あの虎や偽ブラックを見た手前、ちゃんと現実味を帯びた話に感じてしまう。


 神奈川は東京と仲が良かったため、東一の教科書にも神奈川のことが載っていて、事前に何かと色々知ることができたが、大阪については無知。他に情報を知れる線もないため、この情報を信じるほかないだろう。


「……あなた様がいた東京や神奈川のなどの大派閥には、何かしら特出した点がありました」


「東京は高スキル保持者の量と質、神奈川は圧倒的な科学力があった」


「それと同じように、大阪にも特出した点があるのです」


「それが……」








「スキルを含めた生物学」



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