第十一章 陰謀
目覚めの景色
ああ……またか。
暗闇の中を、ゆっくりと、ゆっくりと彷徨う。
この世界に来るのは2度目……いや3度目か。
心なしか、1度目と2度目に来たときよりも、暗闇がドス黒い気がする。いつもより死に近づいていたと言うことなのだろうか。
もはや見慣れた光景だが、この世界を彷徨うのは慣れない。慣れはしない。
今回もいつも通り、暗闇の世界を差すように、一筋の光が入る。いつもとは違い、とても綺麗で機械的。少し気持ち悪ささえ感じてしまう。
そんな光が、暗闇をまばゆく照らした……
――――
「…………んあ」
何もない真っ暗の空に、模様と朝日が見え隠れする。目が痛い。しばらく目を閉じていたからだろうか、視界が全て薄い青色だ。
(ここは……)
俺のマンションの天井。残念ながら知っている天井だ。知らない天井とは言えなかった。また気絶した時に言えることを祈ろう。
そんなくだらないことを考えた後、ズキズキと痛む首を動かし、自分が今どうなっているのかチェックする。
「おお……」
思ったより包帯とギプスが巻かれている。アニメでよくある入院シーンとそっくりだ。包帯でぐるぐる巻きになった体には、全く力が入らない。どうやらかなりきつく巻かれているようだ。さらには、窓から朝日が出ていると言う事は、最低でも6時間は経過しているはず。なのにも関わらず、包帯やギプスが見るからに新しい。と、言う事は…………
(アイツがやったのか……)
……と、その時。
「ワン!!」
「お?」
耳に入る妙に懐かしい声。こんな声をしているやつは、俺の知る中でたった1人しかいない。
いや、この場合は1匹と言ったほうが正しいか。
「おはよう……ブラック」
「ワン!!!!」
俺の目の前に、真っ黒い犬が覆いかぶさった。
――――
「おお……よしよし……」
「クゥーン……」
俺は、すりよってきたブラックの頭を、包帯まみれの手でなでながら考える。
(まさかブラックまで帰ってきているなんてな……)
戦いに夢中でその時は気づかなかったが、思い出してみれば、ブラックはあのジジイと戦っている時点でいなかった気がする。アイツはどうやって、俺と俺自身もどこにいるかわからなかったブラックを家まで持って帰ったのか、気になるところである。
(……ま、そんなことどうでもいいか)
こうやって俺は生きている。こうやってブラックも生きている。その事実だけで十分だ。
「……悪かったな、あの時気付けなくて」
「……ウウ?」
ブラックは、「なんのこと?」と言いたげに、首をひねり、声を出す。
「……いや、お前がいいならいいんだ」
ウジウジしてても仕方がない。そんなのは学生時代に卒業した。そこから出て1人……いや、1人と一匹になった今はそんなことに時間を使うのは許されない。
まずはあの虎にリベンジする。そのための対策を考えなければ。
と考えたその時、ガチャリとドアノブをひねる音がする。誰が来たかは言うまでもないだろうが、とにかくドアノブをひねる音だ。
俺は痛む首をひねり、音がした方を振り向くと……
「……ん? ああ、起きたんですね」
やはりと言うべきか、レジ袋を持った袖女がそこにいた。
「大分世話になったっぽいな……」
「別にいいですよ、面倒事は慣れてますし」
「……俺ってどれくらい寝てた?」
「1日位ですね」
「…………」
袖女は手元でレジ袋を漁りながら、淡々とした感じで答える。丸一日眠っていたのなら、もっと感情的になってもいいと思うのだが、当の袖女からしたらそんなことないらしい。
(まぁ、馬鹿みたいに泣きわめくよりはマシか……)
俺は女子特有の声をあげて泣くやつがあまり得意ではない。単純にうるさいのもあるし、何より女子特有の群れが好きではない。
鮮明に覚えている事なのだが、小学の時や中学の時に、自分に分が悪い時に泣きわめき、周りの女子を味方つけた時には、怒りを通り越して呆れてくる。
男子諸君ならば、共感してくれる事は間違いない。自分もあったって人もいるかも。
その点、袖女は静かだし、だからといって感じが悪いと言うわけでもない。その点はとても助かるポイントと言えよう。
……あ、個人の感想ですよ。
「はーい、卵粥できましたよ〜」
「……お?」
今、袖女はなんと言った?
卵粥。卵粥だと?
(……食いたい)
丸一日寝ていたこともあってか、さっきからお腹の空腹感が気になっていたのだ。しかも見たところ、卵がふわふわしていて、かなりうまそうだ。
「…………」
今までの俺の飯は、袖女がいたにもかかわらず、カップラーメンだったり味噌汁と米だけだったりしたが、さすがに袖女もけが人にはまともなものを食わせるようだ。
そして、両腕はもちろんの事、俺の体はボロボロのズタズタだ。
無論、食べるための道具など持てるわけもない。
つまり、俺がこの卵粥を食べるためには……
……そういうことだ。
(これはさすがに……)
正直に言って胸が躍る。相手が誰であれ、この行為は男の誰しもが夢みて憧れる行為だろう。
袖女は卵粥の入った器と一緒に、あのスプーンを持ってくる。
俺は表面上では無表情だが、その内面は超絶なほどに焦っていた。焦っているというか、期待しているというか、恥ずかしいというか……
いや、少年かよと思われるかもしれないが、こちとらまだ高校生の歳なのだ。こんな感情にならない方がおかしい。
そしてついに、俺のベッドのそばまでたどり着き、スプーンを持ち上げ……
ついに……
ついに…………
スプーンを俺の右腕にくくりつけた。
「え?」
「んん〜? どうしたんですか〜? 何を期待してたんですか〜?」
「……治ったら絶対殺してやるからな」
許せん。こいつは俺の、いや全ての男子高校生の心を弄んだのだ。万死に値する。
「ほらほら、器ぐらいは持ってあげますから……早く自分の手で、自分の口にあーんしてあげて下さいよ〜」
「…………」
絶対やり返す。
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