ゲームプレイ

 帰った後、何故か俺は袖女にゲームに誘われていた。


「……なんでだ?」


「……へ?」


「なんでゲームしたいんだ?」


 まず聞かねばならない事はこれだろう。なぜよりにもよって俺と、しかもゲームなのか。


 特訓とかならまだわからなくはない。袖女だって戦闘する職業だし、それならば攻撃をぶつける相手も俺しかいないため、まだ理解できる。

 しかし、ゲームだと? 娯楽だと? 前日まであんなに口が悪くて、俺の分の夜ご飯さえ作ってくれなかったこいつが?



 …………熱を出しているのか、それとも頭を打ったのか、おそらくこの2択に違いない。



「…………暇、だったんですよ……」


「…………?」


「暇!! だったんですよ!!!」


「…………暇?」


 暇だっただと? それはありえない。こいつには家の家事が山ほどあるはずだ。洗濯にご飯、ブラックのご飯に家の掃除、買い出しやらパートやら何から何までやること成すことてんこ盛りのはずだ。


「お前、家事は?」


「もう終わりましたよ……だから暇なんですよ」


 もう終わってる? ありえるのかそんな事? まだ2時過ぎだぞ。


「……昨日はどれぐらいに終わってたんだ?」


「やり始めたら…………1時間たった位には」


「…………」


 まじか。速い、速すぎる。袖女の家事スキルを少しばかりなめていたようだ。もう少し多くても問題ないらしい。


 しかし、暇か…………


「そっ、それで! どうなんですか!! やらないんですか!?」


「…………まぁ、やる事は決めてなかったし……やってやらんこともないが……」


「そんな曖昧にしないでください!! やるか、やらないか!! どっちなんですか!!」


「お……おう…………」


 まぁ断る理由はないが……袖女のこんなにも真剣な瞳を初めて見た。もしかしたら神奈川で殺し合う1時以上かもしれない。それに、どうせなら機嫌が良い方がこちらとしても住みやすい。



 …………しょうがないか。



「わかったわかった。やってやる。やってやるから」


 こちらも少し気分転換がしたかったところだ。こちらとしても構わない。


「…………!! じゃあ、早速やりましょう! ほらっ、準備はしてますから!」


「はいはい……」


 袖女につられるがまま、リビングに続く廊下を歩き、ついにリビングにたどり着く。そこには、世間に疎い俺でも知っているような最新式のゲーム機がテレビに繋がれていた。

 袖女は手に持った俺のジャケットをクローゼットにしまうところだった。

 それにしても袖女は本当に準備が良い。家事の事といい今回のことといい、袖女はかなり当たりだったらしい。



 ……待てよ? 準備した?



「……おい。これどこで買ったんだ?」


 俺の記憶が正しければ、このゲーム機は6万以上する代物だったはず。


 無論、ウチにそんな高価なものを買う金はない。いったいどこからこんなに高いものを用意したのか。


「ああ、心配しないでください。貰い物なので」


「……貰い物? 誰に?」


「パートのおばさんですよ。興味ないからってもらったんです」


 そうだったのか、危ない危ない。もし無断で買っていたら、こいつを地中海に埋めているところだった。


 それにしても、なんて素晴らしいおばさんなんだ。やはり高齢の方は優しく、そして神だったんだ。


 俺は心の中でおばさんに感謝を述べ、袖女と同じく、ゲーム機の前に座り込む。


「さて…………私にボコボコにされる準備はいいですか?」


「へっ……現実でもゲームでも、お前は俺にズタズタにされるのさ」


 お互いの意気込みを述べ、ついにゲームがスタートする。

 ゲームの内容は格闘ゲーム。お互いに体力が0になったら負けのいたってシンプルなゲームだ。


 だが、単純なゲームと侮ることなかれ。腐っても最新式。

 画質はもちろん最高だし、その幅広い攻撃の種類は凄まじい戦略性を生み出す。




 お互いのキャラを選び、ついにゲームがスタートした。









 ――――









 3時間後………




「死ねええええええええええええええええ!!!!」


「はい残念ジャスガでぇぇぇす!!!!」


「とでも思っていたのか?」


「なっ! 掴みだと!!!?」


「くらえや下投げぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「うぎゃああああああす!!!!」




 このありえないような奇声をあげているのは、もちろんのこと、俺と袖女だった。


 もともと1時間程度で終わりにする予定だったのだが、最新のゲームと言うのがあまりにも面白すぎた。


 先に言った戦略性の高さに加え、美麗なバトルフィールド。コマンド入力による必殺技。さらには掴みにも様々な種類があり、場所と状況によっては、一つ一つが強力な技となる。

 やりこみ要素満載なこのゲームにハマらない理由がなかった。


 それはもうそれはもう殺し合いまくった。


 ある時はやばい位に圧勝したり、ある時は勝ったと思い、最後の一撃を繰り出したらカウンターを打たれ逆転負けしたり、連続でお互いに攻撃を切り出し、攻撃の相殺が続いたり、とにかく頭をバカにしてゲームを楽しんでいた。


「終わりだァァァァァァァァァ!!!!」


「負けたぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「俺の勝ちだ袖女!! この雑魚が!!」


「うう……こんな冴えない普通顔に負けるなんて……」








 そうして、俺の1日はまだまだ続いていく。








 ちな、今日の夜ご飯もカップラーメンでした。



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