動き
2ヶ月前、東京派閥、会議室では……
「一体全体どうなっているんだ!!」
外務大臣が声を出して吠える。今回もお怒りのようだ。
そこには内務大臣、外務大臣、首相、異能大臣の4人が席に鎮座しており、薄暗い部屋で話し合いが行われていた。
「外務大臣、一旦落ち着いて……」
「落ち着いていられるか!!」
外務大臣をなだめようと、言葉をかけた内務大臣に対しても、声を荒らげて対応してしまうあたり、心の余裕はいよいよない。初めて見た人でさえ短気だとわかるような外務大臣の性格上、他の人がこうなるよりはマシなのだろうが、上の人間がこうなってしまうのは、由々しき事態である。
「どうなっているのだ!! レベルダウンが殺され! 警察も大多数が死亡! 同盟を結んだときの約束の品であったウルトロンまで奪われ、神奈川も被害を被った!」
外務大臣はもはや、半狂乱状態だ。
「あの時からだ! 器の精神安定剤を失ったあの時から!
! いくつもの不幸が流れるように襲いかかってくる!!」
外務大臣が狂ったように吠える。他の3人もそう思っているのか、黙り込んだまま、外務大臣の怒りを見守っていた。
だが、ある1人の男が、その沈黙を破る事になった。
「すいません」
「……む。どうしたのかね異能大臣」
手を挙げたのは異能大臣。首相も口を出し反応する。言葉には出していないが、外務大臣と内務大臣も、異能大臣に振り向き、言葉を待っていた。
「もはやなりふり構ってはいられません……なので1つ。田中伸太を……指名手配にするというのはどうでしょうか」
意外な提案である。異能大臣とは元々、スキルによる事件の対処や、未知のスキルの解析等を主とした役職だ。個人に対しての処置等は担当ではない。
「ふっ……何を言うかと思えば、ばかばかしい」
外務大臣は異能大臣が出した意見に、鼻で笑って反応する。
「なぜですか? 田中伸太は我々にとって、許し難い行動をとりました。指名手配されても当然だと思いますが」
「今は田中伸太への対処の話ではない。会議の最初に言っただろう。東京派閥の今後の方針を決める話し合いだと」
どうやら、この会議は東京派閥の未来を左右する重要な会議のようだ。
「だからこそです。私の考えでは、この一連の出来事は田中伸太が関係していると思っております」
「……ハハハ!! そんなわけないでしょう!! あれはただの一般人とそう変わらない! もっと言うならば、そこら辺の子供にも負けてしまうほどスキルは貧弱!! ありえないですよ!!」
「異能大臣……それはさすがに……」
「……むむ」
外務大臣は高笑いをし、内務大臣、首相は呆れたような顔をする。首相でさえ怪訝な顔を浮かべるが、そんなものは関係ないと言いたげに、異能大臣は言葉を綴る。
「お言葉ですが皆さん。彼から全てが始まったのです。田中伸太の部屋の見張りが殺されたあの時から……」
「……本当にくだらない。ただの偶然でしょう……新潟か大阪あたりの犯行では? あそこは我々東京と仲が悪い……犯行を行う理由がある」
「ですが、レベルダウン壊滅の時の監視カメラには、田中伸太と思わしき人物が映っていました」
「"思わしき"だろ? もともと本部に誘い込んで、レベルダウンの手により処刑する算段だったはずが、逆に壊滅させられた……監視カメラも突然、電源が切れている。影や体の1部だけでは断定できん。大阪か新潟の実力者の犯行に違いない」
「1人でですか?」
異能大臣と外務大臣の口論。それは白熱し、誰にも止められないほど加速する。
「ハイパーやマスターであれば、できないことではなかろう」
「そいつらを潰すためのレベルダウンでしょう? 人員を割いたとは言え、1人程度ならば、何の事はありません」
「だから田中伸太がやったと?」
「そうです」
「そちらの方が確率が低いのでは?」
「ですが彼には、それができる可能性があります」
瞬間、異能大臣を除く、3人の動きがピタリと止まる。
「……貴様」
「"後天性スキル"……彼に発現した可能性があります」
静寂。会議と言うものに生まれてはならない静寂と言うものが流れる。数十秒の静寂が流れた後、言葉を放ったのは、まさかの内務大臣だった。
「……そんなことを言えば、この世のどんな人間でも可能になってしまいますよ」
「そうですよ? ですが、動機はない……だが、田中伸太ならば動機はある」
「そんな動機ないだろう。そもそも、奴に対して、我々が何かしらの嫌がらせをしたことはない。何の手も出していないぞ?」
「彼は東一でいじめられていました。いじめていた連中への復讐の延長線上で我らにも危害を加えた可能性があります」
「……なるほど、いじめられていたことで、いつしかその牙が東京派閥自体に向いた……と言う訳ですか」
「そういう事です」
異能大臣はすべてを出し切った顔をし、改めて3人に向かって問いかける。
「……と、言うわけで、神奈川の事件も田中伸太の犯行の可能性が高い。よって、田中伸太を指名手配したい……何か反論があれば」
レベルダウンを殺せた可能性、動機。これらを全て説明されて、もはや反対するものはいなかった。
「私は構いません」
「私もです」
「ち……異論は無い」
と言うわけで、田中伸太は指名手配になったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます