その後 避難所 その2

「犯人を捕まえるため……ですか?」


「ええ、もちろん」


 考えられない。それならば尚のこと、俺たちを向かわせなくてよかったはずだ。異能大臣のボディーガードとして、俺たち以外にも、往年のベテラン兵士はいた。そのほうが確率が高いのは明白。


「……答えになっていませんよ。それならば尚、俺達じゃなくてもよかったはず。結果的に犯人を逃してしまう形になった」


「そうじゃないそうじゃない……なぜ私があなた方に任務を頼んだのか、まだわかりませんか?」


(……何?)


 奴らは高速道路に乗り、東京へと逃げていった。逃げられたのは間違いない。だが、目の前の異能大臣は、捕まえるためだと言う。


(奴らは逃げていったんだ……東京方面へ……)


 ……東京方面へ



 東京……



 ……東京?



「……!」


「…………気づきましたか?」


「つまり私は……犯人を逃したわけではありません」


 なるほど、なるほど。そういうことか。これならば理由ができる。俺が疑問に思っていた部分に、しっかりと根拠がたつのだ。


「東京方面へ"誘った"……そういうことですか」


 異能大臣はコクリと頷く。どうやら俺の立てた考えは正解だったようだ。


 確かに、俺たちに捕まえさせるのが目的ではなく、俺たちを囮に使い、東京へ誘い込むのが目的なのだとしたら、俺たちを使っても、他の兵士を使っても同じことだったと言うわけだ。むしろ飛べる俺たちの方が適任と言えるだろう。


「あなた方を使い、東京方面へ誘い込み……安全圏に入って安心しているところを東京派閥の精鋭部隊で狙い撃ち……最小限の被害で犯人を確保できる訳ですよ……」


「なるほど……では、無線でつながっていたチェス隊のスキルの事は……」


「そこまでばれていましたか……まぁ、東京に誘い込む程度なら、あのタイプの索敵スキルでも問題ないと思ったのですよ」


 それならば理にかなっている。まだまだ半端な俺たちより、東京に残っている兵士たちのほうが優秀だろう。少し自分のことを過小評価しているかもしれないが、どれだけ優秀なスキルでも、人の体に宿る以上、そこには経験と言う絶対的な経験値が存在する。


(桃鈴様もあそこまで強力なスキルを持っていながら、努力を怠らなかった……異能大臣の狙いもわからず……俺もまだまだ半端者と言うわけか)


「こんな夜遅くにわざわざありがとうございました……胸のざわめきがおさまりました」


「いえいえ、私も説明不足でした……私にとっても、この話し合いは有意義でしたよ」


 そう言うと頭を下げ、俺はゆっくりと休憩室に向かった。









 ――――









 雄馬が休憩室に到着した頃……


「ふぅ……」


 外にいるのは異能大臣。12時を過ぎたと言うのに、その目からは眠気は感じられず、その口にはタバコが加えられている。


「深夜に外で一服……と言うのも悪くないですね……」


 たった1人だと言うのに、相変わらずの敬語口調。誰かに聞かれているのを警戒しているのか、癖なのか。白のクイーンに見られていたこともあり、警戒している可能性の方が高いだろう。


「さて……そろそろですかな……」


 異能大臣は携帯電話を手に取り、番号を打ち込んでいく。番号を打っているところを見るに、誰かに電話するようだ。

しばらく携帯の着信音が鳴り響くと、着信音が急に止まった。相手が電話に出てくれた様だ。


「もしもし……ああ、はい。私ですが……例のものは……はい、はい。ありがとうございます。そこはご心配なく…………1週間以内に取りに向かいます……はい、ありがとうございます。では」


 ボソボソ声で話していて、うまく聞き取れない。ピッ、と電話を切った音がなると、異能大臣は耳から携帯電話を離す。相手との電話は終了したようだ。


「……うまいこと誘導できたようですね…….これでまた、完成に近づく……」


「東京派閥は"彼女"に夢中ですが……あんなののどこに魅力があるのやら……何もかもが想定できる力など、面白くないでしょうに……」


 異能大臣は、はぁと小さくため息をつく。少なからず東京派閥に不満があるようだ。









 ――――









 その時、ハカセたちは……



「ひどい怪我だ……内臓に骨が刺さっているし、所々骨が折れている……筋肉繊維の断裂もひどい……一体何があったんです?」


 ワシは病院にたどりついており、伸太を病院に運び終えた後だった。医師に容体を見てもらい、その結果を報告されている。そこでは思っていた通り、医師による原因の追及が行われた。


「こんな怪我の仕方、普通ではなりえない……どんな無茶をさせたんです!?」


「……俺が答える義理はない」


「ありますよ!! 第一、あなたは保護者でしょう!? 私にはそれを聞く義務がーーー」


 その瞬間、ワシはあらかじめ用意してあったカバンを置き、中身を開ける。その中には大量の札束と、小銭が用意してある。それを見せると医師は驚愕し、息をのんだ。


「これで……どうにかしてくれないか?」


「……ッ」


 この金はあの時、伸太と会ったとき、役員から報酬として受け取った金だ。いざと言うときのため、しっかりと残しておいたのだ。


「……本気ですか?」


「俺が冷やかしに来ていると思うか?」


 医師の心は揺れ動いているようで、即答せず、カバンの中の金を見つめ、考えているようだ。やはり金か、金が人の心も世界も動かすのか。さすが金、欲の権化だ。


「……もしこれがバレても、うちは一切の責任を生えないですよ」


「かまわん。もとよりこれからここに来るつもりはない」


 ワシがそう断言すると、医師は覚悟を決めた顔になり、しっかりとワシに向かって宣言した。


「……わかりました。私は何も聞かないことにしましょう……これだけもらえるんだ。何かつけときますよ?」


「上級ポーションが欲しい。治療にも使うだろうが、予備に少しでも欲しい」


「……了解しました。1本つけましょう。なぁに、上級ポーションと最新技術を惜しみなく使えば、1ヵ月も経てば元通りですよ」


「頼む」



 とにもかくにも、伸太が起きなければ話にならない。今日から1ヵ月の我慢だ……










 そして1ヵ月の時が経ち、底辺男は甦る。




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