第七章 二度目の逃亡

B市到着

「……よし」


 パーキングエリアで今後の方針を決めて2時間後。

 ワシは既に、B市へとたどりついていた。今のところ、まったく東京兵士や神奈川兵士に遭遇していない。方針を手早く決めたところが吉と出たのだろう。ここにきて単独行動の強みが出てきた。


 さて、B市までたどり着いたわけだが、時刻は現在7時。B市も発展はしているが、A市ほど発展しているわけではないため、ここから東京に戻るにはがんばっても朝の4時までほどかかるだろう。そこまで伸太の命がもつかどうかだ。


 ……笑えてくる。考えてみれば、医者以外でここまで命とのレースをしている人間は世界単位で見ても、ワシだけだろう。全くお人好しになったものだ。


(とにかく、東京までの最短ルートをみつけねばな……)


 ワシはリムジンを止め、近くの薬局の駐車場に駐車する。リムジンから出て、周りを見渡し、誰もいないことを確認すると、足早に薬局に入った。


「いらっしゃいませー」


 やる気のなさそうな店員の声が響く。そもそもこの薬局自体がそこまで大きいわけではないため、売り上げもそこまで良くなさそうだ。

 ワシは商品の並ぶ棚の中から、ポーションコーナーに目をつけた。


 "ポーション"


 それは、かける、飲むなどで体に取り込むと、回復効果を期待できる液体。主に、RPGなどに使われる言語である。

 戦争中にスキルによって生まれた産物であり、あらゆる外傷において効果を発揮するすばらしい飲み物だ。

 現在は薬局にも置かれていて、手軽に利用できる。そのかわり、薬局に売ってあるのは下級ポーションだらけで、上級ポーションにもなると、骨折すら3日で治るほどの回復力があると言う。


 だが、いくら下級と言えど、ないよりはマシだろう。伸太の怪我の進行を遅らせることぐらいはして欲しいものだ。


 と言うわけで……


「ポーション、これだけ全部くれ」


「は、はい……まいど……」


 店員はひきながらも、並べられたポーションをレジに運ぶ作業をする。やがて値段が提示されると、ワシはその金を払い、薬局を出た。


「よし……」


 リムジンに戻ると、包帯でぐるぐる巻きになっている伸太に向かって大量のポーションをぶちまけ、飲ませる。直すことはできなくとも、延命手段にはなるはずだ。

 やがて、すべてのポーションを使い終わると、また運転席に乗り込み出発する。睡眠時間などとってはいられない。


(今夜は徹夜だな……)


 そんな事を思いながら、リムジンを走らせた。









 ――――









 東京、神奈川避難施設。


「…………」


「桃鈴様……」


 桃鈴才華は沈黙していた。行方不明になっていた友の出現。その友の犯罪者じみた行動。度重なるショックで軽い精神崩壊を起こしていた。

 その周りには、今才華に話しかけた雄馬を含め、宗太郎、優斗、友燐の護衛騎士たちが揃っていた。皆、才華を心配してきたのだろうが、当の本人に、その声は全く届いていない様だ。


 そんな中、らちがあかないと思ったのか、護衛騎士の1人、騎道優斗が他の護衛騎士に向かって発言する。


「なぁ、みんなちょっと……」


 優斗は手招きしながら他の3人を誘い、才華から少し離れる。


「なんだ、こんな大変な時に――」


「なぁ……今回の事件……俺たちで何とかしないか?」


「――――なんだと?」


 より早く反応し、驚きを口に出したのは、騎道優斗の実の兄である騎道雄馬だった。他の2人も言葉には出ずとも、目を見開いたり、体が少し揺れたりと反応を見せている。


「……どういうことだ」


「そのままの意味だよ……今、チェス隊の探索系スキル保持者があの男の居場所を探してくれている……特定できたら、俺たち3人でそこに向かおうって事だよ」


「……あなたにしては変な考えね。何が目的?」


 友燐が疑問を口に出す。友燐は才華以外にはあまり口を出さないので、会話に参加してきたことに優斗は少し驚いていた。


「目的ってそりゃ……神奈川派閥と東京派閥のためさ!」


「嘘ね、あなたがそんなことを自主的にするわけがない。何か裏があるんでしょ?」


「それは…………これを機にチェス隊のみんなからちやほやしてもらうとか……そんなこと思ってねぇし!!」


「……クズね」


「貴様の私利私欲のために動いている余裕はない」


「優斗……いくらなんでもそれは……」


「うるせえやい!! それに、これに成功すれば、あのウルトロンとか言うものだって取り返せるし、俺たちが捕まえたって広まれば、東京の信用は跳ね上がるぜ!? 桃鈴様の印象だって上がるかもしれないし」


「それ以上に失敗した時のリスクが高い。何より――「構わないですよ?」――!!異能大臣……?」


「どうも、なかなか面白い会話をしているじゃないですか」


 どこからともなく異能大臣が現れる。異能大臣の口ぶりからして、今までの4人の会話を聞いていたようだ。


「異能大臣、一体どういうことですか?」


「そのままの意味ですよ。騎道雄馬くん。私は構わないと言ったんです……全ての責任は私が持ちましょう。思う存分動いてらっしゃい」


 異能大臣の言葉に、1番喜んだのは優斗だ。


「やったぜ! そうと決まれば3人とも! 居場所が分かり次第、すぐに向かおうぜ!」


「……本当によろしいのですか?」


「何度も言わせないでください。構いません」


「……了解しました。ありがとうございます」


 そうやって異能大臣に礼をし、4人は足早に去っていく。その間、異能大臣は気持ち悪いほどの笑顔で4人を見送っていた。


「さて……そろそろ出てきたらどうです? ……"白のクイーン"」


 異能大臣がそう言うと、異能大臣からは見えない死角から、白のクイーンが現れる。


「いやーバレちゃってたかー! さすがは異能大臣。鋭いね!」


「ふふふ……伊達に何年も異能大臣をしていませんよ」


 2人の会話。端から見れば、仲良く会話している父と娘のような、そんな優しい雰囲気を醸し出していた。


 ……が


「でさぁ……行かせて良かったの?」


「行かせて良かったのか……ですか?」


「うん! だってさぁ……逃げて欲しいんでしょ? あの2人に」


「……ほう。見られていましたか」


 一気に場の雰囲気が変わる。さっきまで仲の良い家族のような雰囲気を出していた2人だが、一瞬にしてその空気は、しびれるような駆け引きを行う場に変わる。


「……どこから見ていましたか?」


「私は危害を加えませんーてあたりから! いやー驚いたよ〜トイレに行くって言ったきり、遅いなぁって思ってたからさ、見に行ったら衝撃発言だもん。そりゃ驚くよ!」


「なるほど、そこまで聞かれていましたか」


「それでさぁ、あんな事して……何をやろうとしてんの? お前」


 急に白のクイーンの口調が変わり、攻撃的な口調へと変わる。その小さな体からは想像もできない。ギャップが凄すぎる。


 だが、そんな事で動じる異能大臣ではなかった。


「そこはいろいろありましてね……あの4人程度に止められてしまえば、あの方々……いや、彼はその程度だったと言うことでしょう。何の問題もありませんよ」


「ふーん……」





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