ハカセ式爆弾作戦
「これは……!?」
町中の建物が次々と倒壊していく。まるでテレビで見た雪なだれのように、災害が連鎖していく。
見る人が見ればトラウマになるような光景。
俺は高速で移動しながら、その様子を見ていた。
「ハカセ! これって一体……」
『クククククッ!!! ワシがこの事態にぼーっとスチールアイからオヌシを見ているだけと思ったか? そんなわけなかろう!! 店主に依頼して作ってもらっていた小型爆弾じゃ。小型ながらもその威力はC4並み!! ビルの1つや2つ程度ならぶち壊せるわい!!』
「……なるほどな」
俺はそれだけのやり取りでハカセの思惑が理解できた。
俺と出会う前も、裏社会で情報取引をしてきたハカセだ。武器を常備していないわけがない。この逃亡作戦は俺が突発的に考えついたアイディアなので、あらかじめ用意していたと言う線もない。という事は、ハカセの常備していた爆発物をここで使ってきたと言うわけだ。この状態なら、混乱に乗じて逃げることができる。
……それにしても運がいい。この爆発物は今の状況にうってつけだ。
「いや! どうなっているの!? いやああああああああ!!!!」
「うわぁああああん!!! パパぁぁぁ、ママぁぁぁぁぁ!! どこおぉぉ!!」
「誰か!! 祖母が! 祖母が瓦礫の下にいるんです!! どなたか! お願いします!! 誰か! 誰かああぁぁぁ!!!!」
(…………)
建物の倒壊により、周りの民間人は阿鼻叫喚。狂ったように叫びながら災害から逃げようとする。
建物の倒壊は未だ続いている。隣の建物が壊れ、その衝撃が隣に伝わり、隣の建物もまた崩壊していく。かなり良い位置でハカセは爆弾を爆発させたようで、まるでドミノ倒しのように災害が連鎖する。
俺は高速で飛び跳ねながら周りを見ていたが、周りにはすでに追っ手はいなかった。
……しかし妙だ。俺が突入したのは、後ランクスキル保持者の群がる危険地帯。俺の存在を検知できるスキル保持者がいてもおかしくないが……
『オヌシの存在を知ることができる兵士については問題ない!! ワシが対処しておる!!』
(……心でも読めるのかよ)
しかし、ハカセがそう言うのならば大丈夫なのだろう。
「……しかしハカセ。俺はどこに行けばいいんだ?」
『テントまで来い!! そこで逃走用の車を用意しておる!!』
「わかった。すぐ行く」
俺はあせらず、かつ迅速にテントへ向かった。
――――
「何がどうなって……!!」
私は困惑していた。あの犯罪者を追い詰め、あと1歩と言うところで謎の大爆発。砂煙とともに民間人の悲鳴が耳をつんざいた。
「そういえばあの男は……?」
私はあたりを見渡す。そしてそれと同時に気づく。私は出し抜かれたのだと、混乱に乗じて逃げられたのだと。
全てを置き去りにする旋風の力を持ちながら、私は逃げられたのだと。
私はすぐにでもあの男を追おうとしたが、砂煙やら飛んでくる瓦礫やらで、どの方面に逃げたかもわからなかった。
「くっ…….こんなもの!!」
私は自分を中心にし、大竜巻を発生させる。もちろん民間人を傷つけないよう、砂煙を消す程度の優しい風にすることも忘れない。
砂煙を消し去り、沈みかかった太陽が見えるが、そこにはもちろんあの男の姿はなく、逃げられたのが改めて分かっただけだった。
「どこに――――「あ! あれってチェス隊じゃない!?」――え?」
「ほ、本当だ! あの隊服!! 黒いって事は……黒のチェスか!」
「しかもあの人……黒のビショップじゃないか!?」
「きっと私たちの危機に駆けつけてくれたのよ!!」
「いや……私は……あの男を探さないと……」
「「「「チェス隊!! チェス隊!! チェス隊!! チェス隊!!」」」」
「うう……」
(そんな……こんな事って……)
完全にやられた。民間人を巻き込むことによって、民間人の弱い深層心理をつき、チェス隊に助けを求めるように仕向けたのだ。これを無視してしまえばチェス隊の信用はガタ落ち。会場に残っているチェス隊の中にあの男を探せる隊員もいるが、見つけているかも怪しいところだ。
つまり……チェス隊はあの男を無視し、民間人を助けるしかない。
もちろん私以外にも、あの男を追っているチェス隊はいるものの……私と同じような状況になっているだろう。
……一応確認しておくか。
私は無線で他のチェス隊に確認を取る。もともとチェス隊には非常事態を想定し、右耳に付けれるタイプの通信機を装着している。前々から無線で連絡が取れるようにしてあったのだ。
「紫音、里美、そっちはどうなってる?」
『民間人に助けを求められてる……悪いけど、もうこれ以上追うのは難しい』
『すいません!! スライムになって探してたんですけど……急に爆発したので行ってみたら、紫音先輩と同じようなことになってしまって……私も難しいと思います……』
「……そっか……ありがと!! 私も助けを求められたけど……民間人を無視するわけにはいかない! すぐに助けてあの男を追おう!!」
『わかった』『はいっ!』
私は通信を切り、いまだにチェス隊コールをやめない民間人たちに向かって叫ぶ。
「黒のビショップ!! 旋木天子! 皆さんを助けにきました!!」
「「「「おおおおおおおおお!!!!」」」」
私はそのまま地面に降り立ち、民間人に質問をする。
「行方が分からなくなってる方はいますか?」
「子供を含めて30人ほどが行方不明になっておりまして……何人か見つけてはいるのですが、瓦礫の下敷きに……」
(…… 30人か……何とかできるか?)
いや、やるしかない。何といっても、奪われているものが今までとはレベルが違う。取り返せるかではない。絶対に取り返さねばならないのだ。
「では、下敷きになっている方々のところに案内してください」
「はい! ではこちらに……」
民間人に案内され、瓦礫に向かう。言い方は悪いが、さっさと助け出してあの男を探しに向かわねばならない。
「こちらです!」
案内人に連れられ、瓦礫にたどり着いたその時。
『旋木さん! 今すぐ会場に戻ってきてください!』
急に通信機から連絡が入る。声質から見てかなり焦っているように見える。
「何があったの? ゆっくり落ち着いて……話してみて」
『は、はい…………ふぅ……では言いますね……』
「うん、ゆっくりでいいから……話してみて」
『……会場が爆撃されました』
「……は?」
会場が爆撃? 馬鹿な、検知系のスキル保持者がいるのにもかかわらず、攻撃をもらうなどありえない。さっきからわからないことだらけで頭の中が混乱してくる。
「あの……どうしたんですか? ……何も起きていないように思うんですが……」
「……あっ……すいません!! 仲間からの連絡が……すぐに瓦礫をどかします!」
私はスキルを使って、瓦礫を宙に上げていく。不用意に破片を動かして、下敷きになっている人を潰さないよう、ゆっくりかつ急いで上げていく。
この活動を繰り返しながら、小声で会場と連絡を取っていた。
「……なぜそうなったの? 探知系のスキル保持者は何をしていたのかな?」
『す、すいません……あの男を探すのに夢中だったみたいで……爆弾に気づかずそのまま……』
「……そっか、ありがと。私も今、手を離すわけにはいかなくてね……すぐに向かうからもうちょっと待ってて」
『ありがとうございます……!! 長官が呼んでいるので……できるだけ早く来ていただければ……」
「……わかった。長官にも少ししたら来ると伝えておいて」
『了解しました!!』
そう言って通信が切れた。向こう側もかなり切羽詰まっているようだ。
それはそうとして、私はある1つの結論にたどりついていた。
(……もう私はこれ以上、あの男を追えない)
完全にあの男の計画通りだったのだ。会場の天井をぶち破り目立つことで、探知系のスキル保持者に自分の存在を強く印象づけた。そうすることにより隙が生まれ、会場を爆撃させるチャンスが訪れた。
そうすれば、長官などの人間が絶対に慌てふためく。自分の身の安全のためにチェス隊を呼び戻すと睨んで会場を爆破した。
……結果はご覧の通り。追っていたチェス隊はすべて足止めをもらい、戻ってこいと言われる始末。
……力では勝っても、作戦で上を行かれた。
そう認めざるを得ない結果だった。
(ああくそ……ここまでか)
あきらめかけたその時。
『私が行きます』
通信機から1人の声が聞こえてくる。今までの人生の中で、1番聞いて、1番そばにいた人物の声。
「ひより……」
『私のスキルならあの男を追うことができます。民間人にもまだ見つかっていませんし、逃げられてまだそこまで時間も経っていません……私なら追うことができます……私にやらせてください』
「……できるの?」
『無論です』
正直、あまりひよりには行って欲しくない。友達だと言うのもあるが、他のチェス隊の救援が望めない以上、ひより1人であの男と交戦することになる。
……だが、一度交戦した私ならわかる。強さで言えば私1人でも余裕で対処できる程度。ひよりの方が圧倒的に強いだろう。
何より、ひよりのお願いなのだ。ひよりのお願いなど、任務中でも聞いたことがない。
やらせてあげたい。その気持ちが私の中で強かった。
「……わかった。無理しないでね」
『ありがとうございます』
そうやって通信が切れた。
「ふぅーー」
さて、私も頑張らなければ。
――――
速く……速く!!
反射を足に使いながら、何度も何度も跳躍する。まるで逃げ惑うバッタのように、急いで跳躍していく。
あと数分でテントにたどり着くところまで来た。
もうすぐだ。もうすぐなんだ。絶対に無理だと思われた任務。圧倒的格上との対決。ハカセの助けもあったし、テントにたどり着いてからもまだまだ警戒しなければならないが、一安心はできるだろう。
……そんなことを考えているうちに、ついにテントまでたどり着いた。
「伸太!」
テントではハカセがしっかりと俺の帰りを待っていてくれた。ハカセも俺を見つけて心底安心しきったようで、俺を見つけると、頭をつかんでグシャグシャ撫でてくる。
「よう帰ってきよった!! さすがはワシの見込んだ男じゃ!!!」
「はいはい……あんがと」
ハカセはククッと笑いながらも俺の帰還を相当喜んでいるようだった。
「それにしてもハカセ……どうやってあの場所に爆弾を仕込んだんだ? 前日に仕込むのは不可能だし……どうやったんだ?」
「ククククッ、仕込む必要なんてないんじゃよ……ワシのスチールアイを使えばな」
スチールアイを……?
「簡単な話じゃ。スチールアイに爆弾を巻きつけるだけ……これだけで、立派な爆撃機の完成。後は爆発すると被害が大きそうなところとオヌシの近くで爆発させるだけ……今頃は建物が倒壊した影響で、火災も発生してきた頃か……スチールアイも2.3発ぐらいなら再利用できたしのう……うまくいったわい!」
なるほど、スチールアイを爆撃機代わりにしたのか。
さすがハカセだ。俺が考えつかないようなことを実行に移してくる。
「ちょっと待って、て事はスチールアイは……?」
「安心せい。ほとんど破壊されてしもうたが……1個は残っておる。何の心配もない」
とは言っても、その1つもボロボロで、いつ壊れてもおかしくはなかった。
「……本当に大丈夫か?」
「おいおい、さっき言ったことを忘れたのか?何の心配もない! とっとと車に乗り込むんじゃ!」
そうハカセにせかされ、俺も車へと歩を進める。
今日1日、任務自体は2時間程度しかないのに、1週間運動し続けたかのようにヘトヘトだ。
やっと休めると思いながら、車に乗り込もうとしたその時。
……殺気を感じる。
……一度感じたことのある感じだ。
……これは……間違いない。
「ハカセ!!」
俺と同じく、車に入ろうとしたハカセを後ろからぐっと引っ張る。
その瞬間。
車が爆発した。
「うおおおおお!? なんじゃ!?」
ハカセが動揺する中、この爆発を引き起こした張本人をしっかりと見据えていた。
「……初めて戦った時も……こんな感じだったよな?」
「懐かしむほど前に戦ったわけではないでしょう……今回は……しっかりと殺してあげます」
「そうかよ…………」
「会いたかったぜ……袖女ァ!!!!」
袖女との再会だ。
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